Jesse Nivens氏はこれまでグラフィックデザイナー、ウェブデベロッパー、ゲーム開発者、ライターなどさまざまな仕事に関わってきました。その一方で、高校時代には学校代表ディベーターとして活躍した経験があり、インターネット上では「議論の達人」と言えるほどの腕前を持っているそうです。今回は、そんなNivens氏が「インターネット上でスマートに議論する方法」について語ります。

2012年11月にはアメリカ大統領選挙が予定されています。アメリカでは多くの人が大統領候補について調べ、自分の考えを決め、話し合っています。大統領選挙はとてもホットな話題で、「Facebookに政治ネタは投稿しない」と決めているような物静かな人でさえ「シェア」ボタンをつい押したくなってしまうほど。

インターネットは戦場です。普段からインターネットを使っていれば、激しい議論に巻き込まれるのは珍しいことではありません。そんな時、今回紹介するアドバイスが武器となり、相手を打ち負かす確率を高めてくれるはずです。もちろん、冷静さはキープしたまま、他の人の迷惑にならないように注意しましょう。■比喩表現を使わない

「それってつまり○○みたいなものですよね」という比喩表現は絶対に使わないようにしましょう。比喩はネット上の議論ではタブーなのです。以下、その理由を説明します。

比喩表現の問題点

比喩表現は、相手が自分の考えに同意している場合にはとても効果的に「言いたいこと」が伝わります。聞き手は無意識のうちに、自分と発言者の共通点を探して理解を深めようとします。ところが、相手が自分の考えに反対している場合、聞き手は発言者との違いだけに注目するため、比喩表現を使っても同意が得られることはありません。こうなると、議論は「発言者の比喩表現はどう間違っているか」という論点にすり替わってしまい、もともとの論点に戻ることが非常に難しくなってしまいます。

また、比喩表現は意図せず誰かを傷つけてしまう可能性が高いのです。インターネット上には多様な人がいるため、個人的に攻撃されたと勘違いするケースが多くあります。こうなると、議論はすぐに脱線してしまいます。「子供のようだ」とか「独裁者のような考え方」と言った表現を使うと、「本当にそうなのか?」という疑問が生まれ、論点がずれてしまうのです。比喩表現は使わず、シンプルで伝わりやすい言葉を使うようにしましょう

次の2つの文を読んで、どちらが説得力のある文章か考えてみてください。

  1. あなたがやっていることは、私に「迎えに来て」と頼んでおいて「来るのが遅い」と文句を言うようなものです。
  2. あなたがやっていることは自己中心的です。

■リンクを貼らない

リンクURLを投稿しても、反対意見を持っている人に読まれることはありません。リンクは同じ意見を持っている人やグループの中でのみ読まれると考えてください。当然と言えば当然ですが、反対意見を持っている相手が勧める記事なんて読みたいとは思わないでしょう。

そもそも、ネット上の議論に参加するような人たちは、これ以上記事を読むつもりはありません。彼らはもうすでにたくさんの記事を読んでおり、だからこそ意見を持つようになったのです。彼らはその意見を戦わせたくて議論に参加しているのです。繰り返しますが、議論している相手があなたのリンクをクリックすることはありません。

■引用は多過ぎない限りOK

自分の意見を支えるために、有名人や知識人の引用をするのは効果的です。特に、彼らの言葉があなたの言いたいことを短く正確に言い表している場合には特に有効です。ただ、引用は短くするようにしましょう。長い引用文を投稿しても読み飛ばされる可能性が高いからです。また、そもそも引用元の人物に賛否両論あるような場合には気をつけてください。宗教を否定したアイン・ランドや、マルクス経済学で知られるカール・マルクスなどを引用する時は、彼らの正当性に関して議論を始める覚悟が必要です。

■侮辱された場合の対処法

議論しているときに、相手から「頭がおかしい」とか「子供っぽい」とか「独裁主義者」などと呼ばれたとしても心配ありません。この時点で、あなたは議論に勝ったようなもの。ここでは2つの選択肢があります。「相手にトドメを刺すか」、「相手の侮辱にうろたえるか」です。このような侮辱に対する対処法は以下の2つ。

1. ムキになって反応しない

侮辱的発言は「相手の戦略」だと理解しましょう。ムキになって反応したり、怒り出したりすればその場にいる全員が不快な気分になります。侮辱する人は、自分が議論に負けたことをわかっているからこそ、最後の手段としてこのような発言をするのです

2. 受けた侮辱を簡潔に否定する

病気で仕事を休む時、本当につらい場合は簡潔に「病気で気分が悪いです」と上司に報告するでしょう。反対に、仮病を使って休むときは「昨日10時に吐いて、朝の6時にまた悪化しました」というように、つい詳しく説明してしまいます。これは、「ウソをつくなら完璧で筋が通っているウソでなければいけない」という心理状態の現れでもあります。本当のことを言っているなら、詳しい説明は必要ないのです。同様に、頭がおかしいと言われたら「それは違う」と簡潔に返すのが得策です。順番としては、まず相手を論破してから、そのあと相手の侮辱を否定するようにしましょう。「そういう話し方はやめてください」と付け加えるのも忘れずに。

■質問をしない

議論では、絶対に質問してはいけません。質問すると、相手がステージに上がってきて、自由にスピーチを始めてしまうからです。こうなると、相手が好む角度から議論を進めることになります。

これは比喩表現を使うべきでない理由とも関わってくるのですが、議論の場では「相手を無知だと思い、教育してやろう」という意識が生まれやすいのです。ただ、今どきの荒れた中学校を見ればわかると思いますが、反抗的で学ぶ意欲がない生徒に何かを教えるのは無理があります。先生がどんな質問をしても、まともに返ってくることはありません。同様に、議論で「相手を教育してやろう」と思う気持ちはなるべく抑えるようにしましょう。何度言っても聞かない人は聞かないのです。

「先週のことを棚に上げて、それは少し都合が良すぎませんか? 」と言うのはやめましょう。「そうですね」とは絶対に言わないからです。代わりに、「先週のことを棚に上げて、それは都合が良すぎます」というように、質問ではなく言い切るようにしましょう

■相手の質問に踊らされないように気をつける

議論で何か質問されたら、すべてワナだと思ってください。質問者は、自分自身を(正しくて賢い)先生だと思っていて、あなたを(無知で従順な)生徒だと思っています。この場合、彼らが言いたいことをあなたに言わせようとしているか、少なくとも彼らの論点につなげようとしています。あなたを都合よく使おうとしているのは間違いないでしょう。このような質問に踊らされてしまうと、彼らの論点にうっかり同意してしまい、議論に勝つのがさらに難しくなってしまいます。

このような状態に陥らないためにも、「何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってください」と伝えましょう。

■耳障りなフレーズを使わない

「少し自分の頭で考えてみたらどうですか?」とか「長いものに巻かれたいんですね」と言ったフレーズを使っても、あなたの意見が強くなるわけではありません。また、人々を「皆さん」と呼ぶのもやめましょう。こういう言葉は、エリート政治家や、経営者、メディア関係者だけが使う言葉で、一般人が聞いても耳障りなだけです。このような人たちが使うフレーズをマネれば気分はいいかもしれませんが、議論に勝てる可能性は低くなります。

■投稿する前に簡単な確認をする

インターネット上の議論では短文を素早く投稿していくのが普通です。そのため、必ず結論から書き始める研究論文とは違い、投稿していくうちに徐々に結論が出るケースが多いです。投稿する前に、最初の文章は短くて結論を含んでいるか確認しましょう。結論を先に述べて、そのあと「なぜそうなのか」を説明しましょう。それに合わせて、前述の比喩表現を使っていないか、質問をしていないか、耳障りなフレーズを使っていないか、などの項目も確認できればベストです。

Jesse Nivens(原文/訳:大嶋拓人)

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