「闇給与」という言葉にはどことなく物騒な印象もありますが、元国税調査官である著者がその重要性を説く『役人に学ぶ「闇給与」のススメ』(大村大二郎著、光文社新書)を読めば、納得できる部分があるかもしれません。
闇給与とは"裏の給料"のこと。たとえば住宅借り上げ制度、会社の経費、福利厚生、研修旅行、パソコン、携帯などの現物支給など、会社を通じて利用できる「非課税給与」を有効活用することによって、手取額50%アップも実現できるというわけです。
正直なところ、書かれていることの大半は誰でも気づいていることだと思います。なので、斬新さは感じませんでした(もちろん、気づいていても実行しなければ意味がないわけですが)。しかしそれでも、覚えておいて損はないなと感じた箇所はありました。たとえばそれは、第3章「さらに新しい給料システム」。いくつか要点を紹介します。
「ストックオプション」を使いこなせ!
ストックオプションとは、会社の株を購入する権利のこと。会社の業績が上がって株価が上がると、株を購入した役員や社員は儲かることになるので、新しい報酬の形として注目されているといいます。当然のことながら、勤労意欲や会社への忠誠心が上がる手段でもあります。
税制上、優遇されているのも魅力のひとつ。ストックオプションを使って株を購入したときに得た利益は給与所得として課税されることになっていますが、一定の用件を満たせば、給与所得課税がなくなる制度があるのだとか。その用件とは次のとおり。
- ストックオプションをもらってから、実際に株を買うまでの期間が2年以上10年以内であること
- ストックオプションで購入できる株は年間1200万円以内であること
- ストックオプションをもらったときに決められた株の買取価格は、そのときの株の時価以上であること
ただし、株を売ったときには、売買益に対して譲渡所得としての税金がかかるそうです。
社員の奥さんに給料を払うという大技
自営業の人などは、奥さんや家族を従業員にし、彼らに給料を払って節税しています。給料が高くなれば所得税の税率も上がりますが、何人かに分配すればひとりの給与額は低くなるので、税率は低いままでいいわけです。
注目すべきは、この手法を会社員も取り入れることができるということ。ハードルが高い条件があるものの、それさえクリアできれば税金、社会保険料を節減できると著者はいいます。たとえば、年収500万円の社員の給料から100万円を奥さんの給料として払ったとします。つまり社員の給料を500万円から400万円に下げ、差額の100万円を奥さんに払うというわけです。こうすれば社員の給料は100万円減ることになりますから、税金、社会保険料で40万円も節税できるということです。しかしそのためには、奥さんが会社の仕事を手伝ってくれているというかたちにする必要があるのだとか。会社に報告する義務も生じるようですが、たとえば資料の整理などの簡単な仕事でも、手伝ったことになるそうです。
「業務委託契約」という新しい働き方
「会社と社員」という関係ではなく、社員が独立して会社から業務を請け負うという関係にすれば、自営業者と同じように税金、社会保険料を自分で設計して払えるようになるとか。
社員は会社を辞めたかたちにして個人事業主となり、会社はその社員がやっていた会社の仕事を、業務委託というかたちでその「元社員」にさせる。つまり社員が会社とは独立した事業者として業務請負をするというかたちにすれば、経費を積み上げることができて税金や保険料を安くできるというのです。
他にも、「個人事業主となる」「法人化する」「業務請負にする」など、一般のサラリーマンでは受けることのできない恩恵を受けるための手段が紹介されています。現在の給与やそのあり方に不満を感じている人は、読んでみれば参考になるかもしれません。もちろん、それらを「会社に対して説得する」という大きな仕事が必要になるわけですが。
(印南敦史)