99u:最近の音楽業界や映画業界を見ていると、クリエイティブ経済について、新しい見方ができるようになります。成功を収めているのは、完璧な最終品を目指して黙々と作品に取り掛かる人ではありません。それよりも、早い段階で頻繁に作品を発表し、作品そのものではなく、その副産物にお金を支払ってくれるようなファンのコミュニティを築きあげている人が、成功を収めているようなのです。

カービー・ファーガソン(Kirby Ferguson)氏は数十年のオンラインビデオ作りを経験したのち、この戦略をとることで脱サラに成功し、純粋に映画作りに集中できるようになったといいます。最初の波は、2010年に『Everything is a Remix』というドキュメンタリーをオンラインで公開したときに訪れました。

すべてのクリエイティブ作品とは何かの派生品であり、新しいものを作るには古いものを使うべきだと主張するその動画は、4回に分けて無料配信され、視聴回数は数百万回を記録。その結果、講演の機会や寄付を集めることに成功したのです。これぞ、新しいクリエイティブ経済と呼ぶべきものでしょう。

ファーガソン氏は今、新作ドキュメンタリー『This is Not a Conspiracy Theory』において、新しい作戦を計画しています。同作品は12月中に有料コンテンツとして発表される予定で、『Remix』のような広いアクセシビリティよりも、直接性を重視するんだそう。

そんなファーガソン氏に、新しいクリエイティブ経済と、成功のために必要なことを聞いてきました。――『Everything Is A Remix』は、一見するとぽっと出てきたかのように見えますが、実際はたくさんの試行錯誤があったのではないでしょうか?

オンラインビデオには、黎明期である1999年ごろから携わってきました。最初はコメディを2、3年やりましたが、なかなかうまく行きませんでした。実は、コメディにはあまり興味がなかったんです。自分の作ってるものに議論を吹っ掛けたいほどでした。

――2つのドキュメンタリーを経て、自分の路線を見つけることができたと。

「これこそ自分に向いている仕事だ」と思いながらできたのは初めてのことでした。

――小さな実験をたくさんこなしながら成長していけるのは、インターネットならではの魅力ですね。

そうですね。ほぼ自分の思い通りに仕事ができるのも素晴らしい。行きつく先は、すべて自分の責任なんです。とにかく自分の作品に向き合い、改善を試み、公開し、反応をもらう。聴衆のことを想うのも大切ですね。インターネットは、トライ&エラーにもってこいの場所だと思います。失敗しても見られることはほとんどないし、誰も気にしませんから。被害がなければ、問題はありませんよね。

――場所代の安価なインターネットだからこそ、すべてを壁に投げつけることができると。

まさにその通りです。

――『Everything is a Remix』を4回に分けて配信した理由は何ですか?

分割することで、視聴者のフィードバックを見ながら軌道修正ができます。これによって、すべてを1度に作っていたら絶対に起こらなかったようなことが起こります。プロジェクトに、聴衆の知恵を吹き込むことができるのです

――多くの映像制作者は、「世界に公開する前に完璧なものに仕上げなければ」と考えると思います。でも、そんな「普通」の方法ではなく、反復的なアプローチに至った理由を教えてください。

対話的手法が、いちばん聴衆の心をつかめると思ったからです。完璧なものを求め始めたら、永遠にそれに取り組むことになるでしょう。でも、インターネットに関していえば、完璧かどうかは問題になりません。もちろん、本当に良いものでなければなりませんし、可能な限り完璧なコンセプトとアイデアを盛り込む努力は必要です。でも聴衆は、映像のちょっとした仕上がりの違いで、それを見るかどうかを決めるわけではありません。

もちろん、映画であれば大画面で映されるわけですから、もっと細部にこだわって作る必要があるでしょう。

とにかく私は、完璧主義を追求せずに、妥当なスケジュールで実現できるような方法をとることに決めています。

カービー・ファーガソン

――これら2つのプロジェクトの経済性はどうですか? フルタイムでこれに取り組んでいるのでしょうか?

はい。私はフリーの映像制作者ですから、これで何とかやっています。プロジェクトを開始した頃は職に就いていましたが。今は、2本のドキュメンタリーが、仕事をもたらしてくれています。講演会を頼まれることもあれば、関連商品を販売したり、寄付をいただくこともあります。これらのすべてが、私の飯のタネになっています。今は、『This Is Not A Conspiracy Theory』の視聴料だけで生計を立てられたらいいなと思っています。

――やりたいことへのクリエイティブな判断はすべて自分で決められるという、誰もが憧れる環境ですね。

そんな状況は、私にとっても夢ですね。実際、「この作品には言葉をしゃべるクマを登場させよう」といったような、バカみたいなことを言うプロデューサーに仕事を押し付けられるわけではないので、かなり自由ではあります。クリエイティブな人は、賃金奴隷になってしまうような場所に身を置くべきではないと思います。

――キャリアを始めたばかりの、20歳のころの自分に伝えたいことは何ですか?

あの頃『Everything Is A Remix』があればどんなによかったか。最初は人まねから始めて、それをいじったり付け足してもいいんだということを知っていたなら。昔ながらの方法に間違いはありません。創造を始めるには、何よりも優れた方法でもあるのです。

あの頃の自分には、仕事のやり方についてもっと知ってほしいと思います。それは、物事をより良くするために、よく考えた努力を繰り返すこと。当時は、才能や天才について、誤った認識を持っていました。「この人たちは自分にない何かを持っているに違いない」なんて考えていたのです。実際は、人より多くの努力をした人たちだったのに。

作業とは何たるかをもっと知っておきたかった。何をするにも、作業が基本になります。ギターを弾きたければ、練習すれば誰でもうまくなれます。天才にはなれなくても、うまくはなれるのです。

同じように、いい曲を書いたり、いい映画を作ったりも、誰でもできるようになるはずです。そのレベルに到達するための才能なんて必要ありません。1つだけ必要な才能があるとすれば、それは粘り強さ。とにかくやり抜くこと。才能とは、立ち止まらないことなのです。

Talent Is Persistence: What It Takes To Be An Independent Creative | 99u

Sean Blanda(訳:堀込泰三)