「ベランダー」とは、作家・ミュージシャンとしてマルチに活躍されている、いとうせいこうさんがつくった造語で、庭で植物を育てるガーデナーに対し、狭いベランダでがんばって植物を栽培している人の総称です。

都会の住宅事情では庭つきの一軒家という住環境はなかなか望めないものですが、それでも植物とともに生活したい、そんなベランダー志願の方に最初におすすめしたいのが、「エアプランツ」(空気中の水分を吸収し、土がなくても育つ植物)として知られる「チランジア(Tillandsia パイナップル科チランジア属・多年草・北アメリカ南部〜南米原産)」という植物です。

ベランダといっても環境は千差万別ですが、ベランダーに多い悩みは「日当たりが悪く育たない」「狭いので鉢がたくさん置けない」「風が強いので植物が折れる」「土でベランダが汚れる」などです。じつはチランジアならこんな悩みと無縁です。

チランジアの多くは中南米を中心に自生する着生植物で、木の幹や岩、時にサボテンの上などに根で自分を固定して生育しています。そして、根ではなく葉の表面から水分や養分を吸収しているので、土に植える必要がないのです。そのことから「エアプランツ」とも呼ばれるようになりました。鉢や土が必要なく手軽です。私はほとんどのチランジアを、カゴ状の棚を重ねて、そこに無造作に置いて育てています。

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▲「チランジア・フックシー・フックシー」。

エアープランツは空気中の水分を吸収することによって生長するパイナップル科の植物(主にチランジア)の総称。

土に植える必要がないため、様々な場所で気軽に飾ることができる。

チランジアが好むのは風通しのよい環境です。風が強くて背の高い植物のおけないベランダでもチランジアならむしろ喜ぶくらいです。また光は大切ですが、直射日光だと強すぎて葉焼けとよばれる症状が出てしまうことがあるので、やや日当たりが悪いベランダでも栽培ができます。逆に直射の強い場所は避けてください。鉢がないので移動も簡単です。

よく勘違いされるのが、「エアプランツだから空気だけで育ち、水は要らないのでは?」ということです。自生地では雨や霧を葉から吸収していますが、日本のベランダで栽培するなら水やりは必須です。特に風の強いベランダであれば、乾くのも早いので水やりはしっかりと行ってください。風通しがよければ水やりは上からジョウロで水をかけてしまって平気です。ペースは春から秋は週2回以上、乾きやすい場所なら毎日でもOKです。

チランジアの魅力は、種類が多く、場所もとらないので集める楽しみがあることと、ちゃんと栽培すると、時々花を咲かせてくれることです。パンジーのように大きな花が次から次に咲くわけではありませんが、逆にたまに咲いた花はとてもうれしいものです。成長が遅いものが多いのですが、少しずつ成長し、時に子株が出てきて増えていきます。

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▲私のベランダの栽培風景。一番手前が「チランジア・テクトルム」。

注意点としては、日本の冬の寒さには耐えられないので、寒くなってきたら室内に取り込んであげることです。室内に入りきらないほどコレクションしてしまうと冬が大変です。冬は水やりのペースを落としてください。私は週1回くらいお風呂場で水やりしています。

購入する場所ですが、チランジアは100円ショップでも販売されていることがありますが、100円ショップで売られているものはサイズがまだ小さいものが多く、その上、時々傷んでいたり、枯れていたりするものがあります。初めての人にはその見分けは難しいと思うので、最初に購入するときは、信頼できる専門店や大きな園芸店を探すのがよいでしょう。通販では珍しい品種や貴重な品種も入手可能です。

ここまでさも専門家のように書いてきましたが、私も園芸雑誌の編集に携わってきたと言っても、単なるいちベランダーです。8年近くズボラにチランジアを育てていますが、生き残っている数より枯らしてしまった数のほうが多いくらいです。それでも一番長い株は8年間ずっと元気です(チランジア・テクトルムという種類です)。

さあ、いままで植物を育てたいけれど、ベランダだからと躊躇していたあなたも、まずはチランジアから、植物との生活を始めませんか?

NHK出版 みんなの趣味の園芸 

山本耕平

編集者/WEBマネージャー。2005年『NHK趣味の園芸』編集部に配属になり、園芸に目覚める。しかし庭がないので必然的にベランダーに。現在は園芸総合サイト「みんなの趣味の園芸」を担当しWEBで園芸の楽しみ方を広げるために試行錯誤中。担当書籍『別冊NHK趣味の園芸 クレマチス 育て方から最新品種まで』など。