スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』(ジョン・ムーア著、花塚恵訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、スターバックスで8年間にわたってマーケティングプログラムの作成と実行に携わってきた人物。本書ではその経験に基づき、第1章でスターバックスのマーケティングとブランディングについて、第2章でサービスについて、そして第3章で人材育成について掘り下げています。

簡潔にまとめられたそれらすべてに説得力があるため、読みごたえは充分。きょうは、そのまとめにあたる「BONUS TRACK」に目を向けてみましょう。集大成的なパートなので、ここをチェックすることで本編の魅力の断片が伝わるのではないかと思います。

すべてを正しく行え

スターバックス最大の特徴は、利益や利益の最大化を企業戦略として捉えていないところ。すべてを正しく行えば、必然的に、結果が利益という形で現れるという考え方です。ちなみに「すべてを正しく行う」とは、具体的にこのようなこと。

事業を構築することに集中してブランドが生まれると、利益は生まれる

最大ではなく最高を目指すと、利益は生まれる

広告よりもビジネス活動でアピールするようになると、利益は生まれる

単に顧客の最低限のニーズだけでなく、ウォンツを満足させることを目的としてビジネスを行うと、利益は生まれる

顧客の中でロイヤルティを超えて親愛の情が育つと、利益が生まれる

顧客との交流からニーズやウォンツを見いだして対応すると、利益が生まれる

ビジネスのおかげで企業が信頼できるものになると、利益が生まれる

自己満足に陥らず、現状維持に抵抗し、うぬぼれを打ち砕く企業文化を育てると、利益は生まれる

利益追求以外のすべてを正しく行うと、利益は生まれる

(279ページより)

とりわけ最後の一文に、スターバックスのすべてが集約されているように思います。(278ページより)

スターバックスのマーケティング&ブランディングを取り入れる

スターバックスが今日ほどの優良企業になったのは、ブランドをつくったからではなく、事業を築いてブランドを生み出したから。この方法論を自身のビジネスに応用するには、次のステップを踏むといいそうです。

STEP 1 あなたのビジネスでどのように世界を変えるか宣言する(世界中を変えるという意味ではなく、業界の一部だけで充分)

STEP 2 現在のマーケティングプログラムを見直し、改善の必要のあるもの、削除したほうがいいものを判断し、「STEP 1」の宣言の内容に沿うようにする

STEP 3 プロジェクトの手順、期日、担当者を決める

STEP 4 最終的な決定力のある人から承認をもらえるよう、社内で影響力のある人の協力を仰ぎ、マーケティングプログラムに支持を集めるようにする

(284ページより)

スターバックスのサービスを取り入れる

体験(エクスペリエンス)が重要であると考え、心に残る顧客エクスペリエンスをつくろうと、顧客との約束以上のことを行うよう心がけているのがスターバックス。そして、その提供のために利用できるのは次のステップだとか。

STEP 1 マーケティング担当者としてではなく、顧客の気持ちになって考える。そのため、社内の人間に「一般顧客」として商品の購入を体験してもらう

STEP 2 「一般顧客」としての商品購入体験に基づいた事後分析をする。各自の購入体験で得たものについて議論する。この議論とは別に、会社として「やめるべき活動」「始めるべき活動」「継続すべき活動」をリスト化する

STEP 3 リストにある活動の一つひとつの実現可能性と注目度を評価し、絞り込む。実現不可能な活動、注目されそうもない活動は捨てる

STEP 4 上記「スターバックスのマーケティング&ブランディングを取り入れる」の「STEP 3」と「STEP 4」に従い、絞り込んだ「やめる/始める/継続する活動」を実行する。

(286ページより)

スターバックスの人材育成を取り入れる

お客様の期待を上回るには、まず従業員の期待を上回ることが大切。さまざまな面で従業員に対して時間やお金をかけ、商品や体験について理解を深めさせているスターバックスにとって、情熱は会社の原動力だというわけです。そして「働きたくなる作業環境」をつくる足がかりとなるステップは次のとおり。

STEP 1 従業員の声に耳を傾ける。「従業員エクスペリエンス」をどう改善できるか、従業員からアイデアを提出してもらえる仕組みを整える

STEP 2 従業員が提出したアイデアのすべてに返答する。全部を実行することは非現実的だが、一人ひとりに返答することは現実的であり、非常に重要

STEP 3 顧客志向の政策に昨年いくら費やしたか算出し、従業員志向の政策にかけた費用と比較。従業員志向の政策と釣り合いがとれる方法を検討する

(288ページより)

見てのとおり、ひとつひとつのことがらは決して困難なものではないはず。そしてスターバックスがこれらをどのように進めてきたかの具体的な事例が、本編では余すところなく紹介されています。きっと、さまざまな意味においての気づきを与えてくれることと思います。

(印南敦史)