『ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』(ロバート・スティーヴン・カプラン著、 福井久美子訳、阪急コミュニケーションズ)の著者は、ハーバード・ビジネススクール教授、上級副学部長。他にも多くの肩書きを持ち、ハーバードで教鞭をとる以前は22年間にわたってゴールドマン・サックスに勤務し、副会長まで務めたのだそうです。
そんな経験に基づいて書かれた本書について、著者は次のように記しています。
これは、自分自身を発見するための本です。自分のスキルを認識したり、自分を再発見したり、何がやりたいのかを見極めたりするのを手助けするための本なのです。(「まえがき」より)
いわば、自分自身を知り、そこから「本当にやりたいこと」を再認識し、向かって進むための指南書。きょうは第2章「自分の長所と短所を知ろう ──自分の能力は自分で伸ばす」からいくつかを引き出してみます。
なぜ自分の長所や短所は気づきにくいか
思うようにステップアップできない人の問題は、能力の有無とは限らない。原因は、自分のスキルの有無をきちんと自覚していないことにある。そしてスキルを伸ばしていくために重要なのは、自分の短所を意識すること、それを克服しようと意欲を燃やすことだ。著者はそう断言しています。つまり、建設的な批評に耳を傾け、厳しい指摘を受け入れる覚悟が必要だということです。
しかし現実的にはほとんどの人が、長所と短所について掘り下げて取り組んでいないもので、言い換えれば自己認識が甘いということ。加えて、自分のスキル不足を指摘してくれるコーチを探したことがない人がほとんど。また建設的なフィードバックをもらっても、それを受け入れる度量がなかったり、言われたことを理解できない人も。結果、フィードバックの真意をくみ取ることも、それを活かすことも、構想に反映させることもできないというわけです。(44ページより)
「しない」のか「できない」のか
著者はあるビジネスマンから、次のようなことばを聞いたことがあるのだそうです。
「私にはあえてやらないことがあるんですよ。家では服を片づけるのが嫌いですし、オフィスでは机を整理しない主義です」
しかし著者は、「彼は能力ではなく、選択の話をしていた」にすぎないとしています。問題は、彼が自分の弱点を認識したことがないこと。基本的なスキルで苦労していることを認めるより、「嫌いだから」と主張する方がずっと簡単。なぜなら短所を認めてしまえば、自分が思っているほどすばらしい人間ではない、つまり弱点のある人間だと認めることになるから。
だからこそ、自己評価が大切。その最初の段階として、著者は以下のスキルのリストをチェックしてみることを勧めています。リストにあるスキルについて1~10段階で評価する(10点が世界で通用するレベルだそうです)。あるいは紙に3つの欄をつくり、「+」「-」「わからない」という項目を入れ、それぞれの欄にあてはまるスキルを入れてもかまわないそうです。
□ 文章を使ったコミュニケーション
□ 会話術/プレゼンのスキル
□ 対人関係に関するスキル
□ 人の話を聞く能力
□ 分析力
□ 体系化する能力(物事の優先順位を決める能力を含む)
□ 他人に仕事を任せる能力
□ 営業力
□ 人間関係を築く能力
□ 交渉力
□ 建設的に他人と対立する能力
□ 指導力
□ 数学力、クオンツ分析のスキル
□ 物事を概念化して、本質を見極める能力(大局的に物事をとらえる能力)
□ 身体的能力(仕事に関係する場合)
□ 外国語の運用力
□ 技術的な知識と専門分野があること(会計や科学技術などの専門分野を含む)
(52ページより)
当たり障りのないことを話し合う方がずっと簡単。その方が気楽でもありますが、それでは自分自身の重要な問題点がわからず、いつまでたっても改善が見込めるはずもありません。そこで、こうしたチェックが意味を持つというわけです。(54ページより)
仕事で求められるレベルを基準に評価する
分析結果について、著者は「あなたの脳曲は、業務や仕事で求められるレベルをどれだけ満たしていますか?」と問いかけています。そして分析結果を一歩前に進め、現在の仕事か将来やってみたい仕事にあてはめてみましょう、とも。
ここで重要なのは、高い成果を出すために必要な業務は、仕事によってまったく違うということ。求められるスキルが幅広いのだから、ひとりの人間がどの仕事もそつなくこなせるはずがない。だからこそ、
"この道のプロ"として一人前になるにはなにが必要か?
この会社(または部署)で、そこそこ優秀な人と一流な人とを隔てている要素はなにか?
私がうまくできなければならない重要な業務はなにか?
この仕事内容からして、この会社で私が成功するために一番重要なスキルはなにか?
(57ページより)
などを問うべきだと主張しています。(56ページより)
ここからも理解できるとおり、個人と仕事に関する著者の視点はとても客観的。そのぶん、自分自身を取り巻く環境や問題にあてはめることができるはずです。
(印南敦史)