私は、FBIの特別捜査官として20年にわたって容疑者に罪を自白させる仕事をしてきました。長年の経験から学んだことは、容疑者たちは自分が気に入った相手にはあっさりと自白すること。そして、ほとんどの人々と同じように、人からああしろこうしろと指図されることは嫌がるということです。説得術は容疑者に無理強いすることなく納得させた上で自白をさせることができるので、取り調べには有効な手段です。
後に、私は説得術は個人や仕事上の人間関係にも重要な役割を果たすことに気がつきました。仕事をする上で2人以上の人が協働する場合はいつでも、それがレストランの予約であれ、チームへの加入であれ、意見が合うよりも対立する場合の方が多いでしょう、そうしたときにこそ説得術の力が役に立つのです。説得術には勝者も敗者もいません。説得術は自分が相手にしてほしいことを強制ではなく自発的に行うよう納得させる技術です。次にあげるシンプルなテクニックを使ってみてください。
1. 相手と一緒に時間を過ごす
時間は力強い説得術の1つです。私たちは一緒に長く時間を過ごすほど、相手に影響を与えやすくなります。時間は信頼を生むのです。子供に言うことを聞かせたいなら、一緒に時間を過ごすべきなのです。仕事で同僚に何かして欲しければ、その人と一緒に時間を過ごしましょう。自分のことを嫌っている相手に好かれたいのなら、その人と一緒に時間を過ごしましょう。やがては相手は皆さんを好きになるでしょう、好きとまではいかなくても、そんなに嫌わなくなるでしょう。
2. 感じのいい人になる
人は好きな相手を助けるものです。相手にすぐに好印象を与えるための簡単な方法としては、眉を上げてみせたり、頷いたり、笑顔を見せるといいでしょう。レストランのウェイターたちは、自分の好きなお客により良いサービスをするものです。苦情を扱うことの多い立場の人々は自分が好きな相手に対してより敏感です。誰もが好きな相手には、ミスに目をつぶったり、ルールに例外を設けたり、道を譲りたがります。
3. 断られる前に相手の気持ちを変える
人の心を読める人はいませんが、相手の口元をよく見ると相手の気持ちに近づけます。唇をすぼめてシワを寄せたり、唇を丸くしたりすることがその1つです。唇をすぼめるのは相手の中に皆さんの発言や、行動に対する反感が生じていることを意味します。相手の思っていることを知ると優位に立てます。相手が反対意見を口にする前にその気持ちを変えさせるのがコツなのです。人は一旦意見や決断を言葉にすると、その気持ちを変えさせるのは心理的な慣性の法則から一層難しくなります。人は自分の言葉に執着を持ちます。ですが、考えていることに対してはそうではありません。もし、相手の唇がすぼまって、相手の気持ちに気がついた場合は、「ノー」と言われる前なら説得術を用いて考えを変えることもできるでしょう。
4.「どういたしまして」で終わらない
感謝されると大抵の人は「どういたしまして」と答えるでしょう。ですが、もっと力強い返事にするには、「あなたが逆の立場でも同じようにしてくれたと思うから」と付け加えるのです。この言葉は心理的な互恵性の法則を喚起させます。人々はなにか実体のあるものを与えられると、あるいは褒め言葉のようなものでも、お返しに何かしてあげたいという気持ちになるものです。その気持ちは別の機会で何かをお願いした時に、受け入れたいと思ってくれる可能性を高めるでしょう。
5. 不思議がる気持ちを付け加える
会話の中や、あるいは独り言であっても不思議がる気持ちを示すこともまた、受け入れられる可能性を高めます。人は自分の得意なことは誰かに話したがるものです。不思議がる気持ちを示すことで、この傾向を有利に働かせることもできます。自分の仕事に助けが要る場合、その技術を持つ人を探して会話の中でちょっとつぶやきます。「この仕事をしていて壁にぶつかっているんだけど、君ならこんな時どうするかな、って考えてたんだ」その道の専門家なら自分のいいところを見せようと、ノウハウを教えずにはいられないはずです。その問題の解決のため、動いてくれることもあるかもしれません。これはアドバイスや無償での仕事をお願いしているわけではないのに、専門家たちが自らノウハウを提供してくれる魔法のような方法なのです。
A Former FBI Agent Reveals the Secrets of Persuasion|Inc.
Jack Schafer(訳:コニャック)
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