「つらいことばかりで、心が晴れるような楽しいことなんてない」と感じることは誰にでもあるのではないでしょうか。でも、そこであきらめてしまうと、つらい気持ちはますます強くなっていくだけ。

精神科医である『マンガ ネコでもできる! 認知行動療法 ニャンだかツラい…がニャンだかタノシい?! に変わる本』(大野裕 著、SBクリエイティブ)の著者は、そう指摘しています。それなら思い切って、つらい思いをしたときのことを振り返ってみてはどうかとも。

いやな過去のことを思い出せば、さらにいやな気もちになってしまうかもしれません。しかし見逃すべきでないのは、そういった体験を乗り越えてきた結果とした“いま”があるということ。大変な状況を乗り越えるべく自分なりに工夫をすることによって、苦い体験を乗り越えてきた――。そんな事実にこそ意味があるのだから、そこに目を向けるべきだということです。

わたしたちは、たいへんな体験をしても、それを乗り越える力をもっています。だからこそ、人類はこれまで生きのびて、いま生活することができているのです。

そのように逆境のなかを「生き抜く力」が、「こころのレジリエンス」です。

ストレスを感じても、それに対処して自分の力を引き出し、うまくそれを使っていく、そういう力です。

強い風が吹いたときに折れないで曲がる力、曲がってもまたもとに戻る力、これがレジリエンスです。(「はじめに」より)

しかも特別な人だけに与えられたものではなく、レジリエンスは誰もが持っているもの。そこで、大変な思いをした体験を通して、自分らしい切り抜け方を確認していくべきだと著者は訴えているのです。

そうした考え方に基づいて書かれた本書の第1章「こころを元気にするコツがあるらしいニャ!――認知行動療法ってニャに?」のなかから、基本的なことを確認してみることにしましょう。

そもそも認知行動療法とは?

著者によれば、自分自身のなかにあるレジリエンス力は、認知行動療法の考え方を参考にすれば高めることができるのだそうです。

認知行動療法というのは、うつ病の治療法として開発され、その後、不安症などのほかの精神疾患の治療でも効果が確認された、世界でもっとも多く使われている精神療法(心理療法)です。(14ページより)

最近では、慢性の痛みや耳鳴り、めまいなど体の慢性的な不調に伴う心理的ストレスを軽くするためにも使われるようになっているのだとか。さらには、心身に不調を感じていなくても、毎日を自分らしく生きていくために、地域や企業で使われるようにもなっているといいます。

そこまで広がりを見せているのは、認知行動療法がレジリエンス力を高めて心の健康を守るための“生活の知恵”を、わかりやすくまとめたものだから。

私たちは誰もが、人間関係や仕事についてなど、さまざまな悩みを体験しています。ところが、そういったことについて考え込んでしまうと、自分らしく生きることが困難になってしまいます。悩みにとらわれ、思うような生活が送れなくなってしまうわけです。

そんなとき、人生を自分の手に取り戻すために役立つのが認知行動療法の考え方だというのです。

認知行動療法では、自分にとって大切なことに目を向け、それを手に入れることができるように手助けしていきます。そのために、悩みから距離を置いて、自分がどのように生きていきたいかをもう一度考えてみるようにします。(15ページより)

大切なのは、「自分らしい生き方の邪魔をしているのはなにか」「そこから先へと進んでいくためになにをすればいいか」「そのために自分にはなにができるのか」と考えていくこと。そうすれば自然に自分らしさを取り戻すことができ、自分らしい生き方ができるようになるということです。(14ページより)

ネガティブ感情はこころの警報器

うつや不安、怒りなどのネガティブ感情を排除したいと感じるのは当然のことですが、それらの感情は私たちが生きていくうえで大切な役割を果たしてもいるようです。

そもそも人は、悲観的に考える動物。なにか突然の出来事が起きたときには、まず、よくない可能性を思い浮かべて身を守ろうとするわけです。なぜなら、情報が少なく、なにが起きているのかをすぐに判断できないから。それは、原始時代から続いている習性だそうです。

原始時代、草原を歩いているときに、草むらで突然、音がしたとします。そのとき、危険な動物かもしれないと瞬間的に考えて身がまえるのは、自然な反応です。

のんびりしていると、危険な動物に襲われてしまう可能性があります。そうならないために、まず「危険だ!」と考えて身を守ろうとするのです。(18〜19ページより)

そのように、受け取った情報を判断し、対応する心の動きこそが「認知」認知行動療法では心の力を生かすべく、そういった認知の働きを上手に使えるようにしていくわけです。

だとすれば、どうすれば認知の働きに気がつくことができるのかが気になるところかもしれません。そこで役に立つのが、意識しないでもとっさに感じる感情だそう。

ネガティブ感情は、こころの警報器が作動した状態でもあり、この警報器は自分が意識する前に鳴りだします。

警報器が鳴ったら、まず、身を守る体勢をとらなくてはなりません。

そのうえで、なにが起きているかを確認します。情報収集です。

情報が集まってくると、なにが起きているかがわかってきます。状況を正確に判断できるようになれば、ようにどの対処すればいいかを考えることもできるようになって、気もちが楽になってきます。(19〜20ページより)

とはいえ、なにが起きているのかと現実に目を向けるのは勇気がいるもの。しかし咄嗟の考えに縛られることなく、現実に目を向けられるかどうかで、その後の展開は大きく違ってくるといいます。

現実を確認した結果、「最初に考えていたほどひどくない」とわかれば安心できるもの。もし問題があったとしても、それに対処する手立てを考えていくことができるでしょう。つまり咄嗟の考えに縛られず、自分の力で生きていくことができるようになるということです。(18ページより)


イラストがふんだんに盛り込まれ、重要なことが平易な文章で解説された構成。そのため競うことなく自然に、認知行動療法についての大切なことを理解できるはずです。

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Source: SBクリエイティブ