初出:『週刊SPA!』2011年11月22・29日合併号
第24話。単行本未収録作品。
『月刊PANjA』1995年5月号
第8話。五郎が最も食べているのではないかと推測される回。
『月刊PANjA』1995年4月号
第7話。谷口氏が作画で一番大変だったとしている回。
「孤独のグルメ」の原作者久住昌之は、1981年、泉晴紀と組み「泉昌之」名義で「夜行」(『ガロ』1981年1月号)を発表しデビューした。以降、マンガ原作者、マンガ家、装丁家、エッセイスト、音楽家などとして多岐にわたる活躍をしている。本ケースには久住の様々な仕事の一部を展示した。マンガの仕事としては、泉昌之名義以外に、弟の久住卓也と組んだ「Q.B.B.」名義の作品も多い。『とんでもねえ野郎』(杉浦日向子/青林堂)は装丁の仕事のひとつ。装丁では他に、大友克洋の「童夢」を原画の原寸大で出版した『豪華本 童夢』(双葉社)等あり。1999年「中学生日記」(Q.B.B.名義)にて文芸春秋漫画賞を受賞。
デビュー作「夜行」(泉昌之名義)は、いかにもハードボイルド風の男性が、一人夜行列車の中で駅弁を食べる。まさに「孤独のグルメ」の先駆的作品。泉晴紀とのコンビでは、単行本『天食』収録の一連の作品や「食の軍師」など、「食」関連の作品を多く発表している。「孤独のグルメ」が男性の外食一人飯なら、原作を担当し大ヒット中の「花のズボラ飯」(画・水沢悦子)は、女性の自炊一人飯を描く。『野武士のグルメ』のように食に関するエッセイも多い。CDはテレビドラマ版「孤独のグルメ」のサウンドトラック。ドラマ版に流れる作品世界にぴったりな音楽は、久住が率いるスクリーントーンズの担当。
「嗄れた部屋」
1971年『週刊ヤングコミック』(少年画報社)
デビュー作。単行本未収録だが、刊行年不詳の自販機本『劇画ヤング別冊 谷口ジロー官能傑作選 濡れた性少女』に収録された。つげ義春や林静一の作品を思わせるアングラ色の強い実験作。「娼婦の部屋」に住む男のモノローグに乗せて妄想か回顧か不明なイメージを流麗な線で描いている。
『事件屋稼業』
1979-80年 『漫画ギャング』(双葉社)
1982-94年 新シリーズ『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)
離婚歴のある冴えない中年男の探偵、深町丈太郎を主人公とした、一話完結スタイルのユーモアハードボイルド。初期の谷口は関川と組んだ『リンド3!』(1979年、双葉社他)、『無防備都市』(1980年、オハヨー出版他)などの「新しいアクション劇画」の描き手だった。軽ハードボイルドを日本的に消化した『事件屋稼業』シリーズはそうした作風の完成形といえる。この「ハードアクションを描く作家」という谷口のイメージは『青の戦士』(1982年、双葉社)をはじめとする狩撫麻礼原作作品や『マンハッタン・オプ』(1981年、CBSソニー出版他)の挿絵にはじまる矢作俊彦との仕事などにつながっていく。
『歩く人』
1990-91年『モーニングパーティー増刊』(講談社)
郊外に妻とともに越してきた中年男が散歩中に出会う風景や出来事をつづった連作。『「坊っちゃん」の時代』(1987年)で得た作家的な新境地を推し進めた、ほぼドラマ性のない叙景詩のような実験的な作品。この作品以降の谷口は『犬を飼う』(1992年、小学館)のような私小説的な作品、『遥かな町へ』のような抒情的な作品、『孤独のグルメ』のような独特のユーモア感覚を持った作品など、それまでとは異なった方向で作風を多様化させていく。また、「散歩」というモチーフ自体も久住昌之との『散歩もの』、江戸を舞台にした『ふらり』(2011年、講談社)へと引き継がれている。
『父の暦』
1994年『ビッグコミック』(小学館)谷口の郷里、鳥取を舞台にした「故郷もの」の第一作というべき作品。主人公は両親の離婚に鬱屈した思いを抱えてきた男。彼は通夜の席での故郷のひとびととの語らいで父の過去の姿を知り、長年抱えてきた父へのわだかまりを解いていく……非常に地味な純文学的作品。内海隆一郎の短編小説を原作とした作品集『櫻の木』(1999年、小学館)や川上弘美の第37回谷崎潤一郎賞受賞作をマンガ化した『センセイの鞄』(2009年、双葉社)など、90年代後半以降の谷口は、この作品に代表されるマンガという手法を用いた「文芸」とでもいうべき世界を確立した。この作品もフランス、スペインで複数のマンガ賞を受賞している。
『イカル』1997年『モーニング』(講談社)2012年に亡くなったBD(フランス語圏のマンガ)界の巨匠、メビウスの原作による飛行能力を持つ少年、イカルを主人公にしたSF。講談社『モーニング』にて断続的に連載されたが、「第一部」完というかたちで中断。講談社からは単行本化されず、2000年に美術出版社で初単行本化された。この作品の原作者であるメビウスに代表される80年代フランスの新世代マンガ家たちに大きな影響を受けた谷口にとって、彼らが立ち上げたSFコミ
ック誌『Metal Hurlant』は強い憧憬の対象であり、『ブランカ』、『地球氷解事紀』(1988年、講談社)などSFへの志向も強い。
海外での活躍谷口ジローは、日本のマンガ家の中でもっともヨーロッパで愛されている作家だ。谷口自身、フランスをはじめとするヨーロッパのコミックスから大きな影響を受けており、インタビューなどでもメビウスやフランソワ・スクイテンらヨーロッパ作家たちへの憧憬を隠さない。1996年の『ブランカ』仏訳(Casterman)と、1997年に谷口がトーンワークで参加した『東京は僕の庭』仏語版(フレデリック・ボワレ、Casterman)を皮切りに急速に紹介が進んだ。ヨーロッパでの評価はアジアやアメリカでの評価と比較しても突出しており、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ各国でマンガ賞を総なめにしている。