最新記事

最新版アルツハイマー入門

ほどほどでも飲酒を続けると脳には有害?

2017年10月26日(木)10時30分
ハナ・オズボーン

Trifonenko/iStockphoto

<適量なら飲酒は健康にいい――という常識を覆して、少量でも長期に渡って飲酒を続けると脳がダメージを受けるという酒好きにはショッキングな研究結果が>

ほどほどの量でも、長期間にわたって飲酒を続けると脳がダメージを受けるかもしれない――酒飲みにはショッキングな研究結果が明らかになった。

2017年6月にブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で発表されたオックスフォード大学とロンドン大学ユニバーシティーカレッジ(UCL)の最新研究によれば、週当たり14~21単位のアルコールを摂取していた人は、記憶や空間認知をつかさどる脳の部位である海馬が萎縮する確率が、飲まない人の3倍も高かったという。

ちなみにイギリス政府の定めたガイドラインでは、飲酒は週に14単位以内にすべきとされている。1単位は純アルコール量で10ミリリットルとされ、度数4%のビールなら250ミリリットル、13%のワインなら76ミリリットルに相当する。

研究チームが分析対象としたのは、健康でアルコール依存症でない男女550人の30年間にわたる追跡データだ。調査開始時点での平均年齢は43歳で、被験者に対しては定期的に認知能力の検査が行われた。飲酒や喫煙の習慣、病歴や教育、身体的活動といった点についても並行して調査が行われた。

分析によれば、最もリスクが大きかったのは週に30単位以上飲む人。14~21単位の人も、あまり飲まない人や全く飲まない人と比べると海馬が萎縮する兆候はずっと多く見られた。

alzheimer03-chart01.jpg

もっとも、今回の研究から因果関係を引き出すのは尚早。データは被験者本人の申告に基づくため、実際の飲酒量はもっと多かった可能性もある。また、被験者は公務員で(白人で中流階級の男性が多い)、偏りがある点も留意が必要だ。

だが、常識に疑問符を突き付けたという点で意義は大きい。英王立エジンバラ病院神経精神科のキリアン・ウェルチはBMJに寄せた論説でこう述べている。「多くの人が普通だと思っている飲酒習慣が健康に悪影響をもたらす、という主張を補強する重要なものだ。私たちは何かと理由をつけて、長期的には利益にならない行動にしがみつくことを正当化しがちだ」

少なくとも、飲酒習慣を見直すきっかけにはなりそうだ。

【参考記事】中年の運動不足が脳の萎縮を促す

【参考記事】孤独感の持ち主は認知症になる確率が1.64倍

<ニューズウィーク日本版特別編集『最新版アルツハイマー入門』から転載>

alzheimer.jpg
ニューズウィーク日本版特別編集
最新版アルツハイマー入門

最新サイエンス 発症した家族・友人とどう接するか
高齢化アメリカの介護の現実と大胆対策

2017年9月29日発売/816円(税込)






*上の画像をクリックすると外部の販売サイトが開きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バイデン米大統領、日鉄のUSスチール買収阻止 安保

ワールド

トランプ氏、10日に量刑言い渡し 不倫口止め事件 

ビジネス

米国株式市場=反発、ハイテク株高い USスチール売

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、週間では1カ月ぶりの大幅な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを拒否したのか?...「アンチ東大」の思想と歴史
  • 2
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...ミサイル直撃で建物が吹き飛ぶ瞬間映像
  • 3
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話
  • 4
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 5
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 6
    韓国の捜査機関、ユン大統領の拘束執行を中止 警護庁…
  • 7
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 8
    中高年は、運動しないと「思考力」「ストレス耐性」…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「これが育児のリアル」疲労困憊の新米ママが見せた…
  • 1
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
  • 2
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 3
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」
  • 4
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 5
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 6
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 7
    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…
  • 8
    「弾薬庫で火災と爆発」ロシア最大の軍事演習場を複…
  • 9
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 10
    生活保護はホームレスを幸せにするか、それを望んで…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中