「洗濯機」はセンタクキ? センタッキ? ことば 最近気になる放送用語 公開:2019年3月1日 Q 「洗濯機」をセンタッキと発音したり、「水族館」をスイゾッカンと発音したりするのは、いけないのでしょうか。 A 差し支えありません。 <解説> 「濯(タク)」や「族(ゾク)」でのクの音が「ッ(促音)」に変わったりすることを、「促音化」と言います。促音化については、以前にこのコーナー「“進学校”の読み方」(2013年3月)や『放送研究と調査』(2019年1月号)でも取り上げたことがあり、なかなかむずかしい問題です。この促音化はクだけではなくキ・チ・ツなどでも起こりますが、ここではクにかかわる例に限って話を進めます。 クの促音化は、そのうしろにカ行〔カ・キ・ク・ケ・コ〕の音が来たときによく現れます。「洗濯機」や「水族館」のように、うしろのところに「キ」「カン」があることばを例に挙げてみますね。 ▼〔~クキ〕ではなく〔~ッキ〕と発音する例: 学期、楽器、国旗、食器、速記、復帰、躍起 ▼〔~クカン〕ではなく〔~ッカン〕と発音する例: 客観、酷寒、借款、若干、弱冠、食間、食感、触感、直観、楽観 こうしたものは、〔ガクキ〕〔コクキ〕とか〔キャクカン〕〔コクカン〕と発音することはないですよね。「クの促音化」によって発音が変化したからです。 しかし、促音化が起こらない例もたくさんあります。たとえば次のようなものです。 ▼〔~ッキ〕とならずに〔~クキ〕のまま発音する例: 収穫期、生殖器、潜伏期、繁殖期、変速機、保育器 ▼〔~ッカン〕とならずに〔~クカン〕のまま発音する例: 駆逐艦、屈辱感、罪悪感、満足感、無力感、体育館、大局観、道徳観 さて、まず促音化が起こらないそれぞれの例を見てみると、ことばとして、その前の部分の「独立性」が高いことにお気づきでしょうか。「収穫する期」だから「収穫期」、「満足する感じ」だから「満足感」です。つまり、「収穫」「満足」は独立性の高い一単語だと言えます。 それに対して、促音化が起こっている「学期」「客観」などでは、「学」「客」という漢字自体にもちろん意味はありますが、これだけで一単語として単独で使うことはあまりなく(使った場合には別の意味を帯びてしまう)、「学期」「客観」という形で一単語であると考えるのが普通です。つまり、前の部分の独立性が低く全体として「完全に融合」している場合に、「促音化」が起こると言えそうです。 さあ、ここでやっと、ご質問の「洗濯機」「水族館」の話です。これは、語源としては「洗濯する機械」「水族の館(?)」ですが、現代では、そのようなことをふだんはいちいち意識していないのではないでしょうか。そのために「洗濯機」「水族館」という形で融合していて、発音は〔センタッキ〕〔スイゾッカン〕であると考える人も、決して少なくないのです。ウェブ上でおこなったアンケートでは、「〔センタクキ〕と読む」という人と「〔センタッキ〕と読む」という人が、ほぼ半々でした。ただし、「『せんたっき』と書く」という人はきわめて少ないようです。 また「旅客機」「万国旗」や「大食漢」などについて、〔リョカクキ~リョカッキ〕〔バンコクキ~バンコッキ〕〔タイショクカン~タイショッカン〕の両方を『NHK日本語発音アクセント新辞典』では示しています。これも、「旅客機」「万国旗」「大食漢」という形で強く融合している例です。 なお、「熟考」は〔ジュッコー〕と促音化しますが、「塾講〔=塾の講師〕」だと促音化しないで〔ジュクコー〕となります。「塾」ということばの独立性が強く(そして語源意識も強く)、融合するのを妨げているのです。 ここまで読解(どっかい)が大変だったと思いますが、脚光(きゃっこう)を浴びそうな画期(かっき)的なものを書いたと思っています。ぼくの錯覚(さっかく)でしょうか。え、即刻(そっこく)却下(きゃっか)? メディア研究部・放送用語 塩田雄大 ※NHKサイトを離れます
「濯(タク)」や「族(ゾク)」でのクの音が「ッ(促音)」に変わったりすることを、「促音化」と言います。促音化については、以前にこのコーナー「“進学校”の読み方」(2013年3月)や『放送研究と調査』(2019年1月号)でも取り上げたことがあり、なかなかむずかしい問題です。この促音化はクだけではなくキ・チ・ツなどでも起こりますが、ここではクにかかわる例に限って話を進めます。
クの促音化は、そのうしろにカ行〔カ・キ・ク・ケ・コ〕の音が来たときによく現れます。「洗濯機」や「水族館」のように、うしろのところに「キ」「カン」があることばを例に挙げてみますね。
学期、楽器、国旗、食器、速記、復帰、躍起
客観、酷寒、借款、若干、弱冠、食間、食感、触感、直観、楽観
しかし、促音化が起こらない例もたくさんあります。たとえば次のようなものです。
収穫期、生殖器、潜伏期、繁殖期、変速機、保育器
駆逐艦、屈辱感、罪悪感、満足感、無力感、体育館、大局観、道徳観
さて、まず促音化が起こらないそれぞれの例を見てみると、ことばとして、その前の部分の「独立性」が高いことにお気づきでしょうか。「収穫する期」だから「収穫期」、「満足する感じ」だから「満足感」です。つまり、「収穫」「満足」は独立性の高い一単語だと言えます。
それに対して、促音化が起こっている「学期」「客観」などでは、「学」「客」という漢字自体にもちろん意味はありますが、これだけで一単語として単独で使うことはあまりなく(使った場合には別の意味を帯びてしまう)、「学期」「客観」という形で一単語であると考えるのが普通です。つまり、前の部分の独立性が低く全体として「完全に融合」している場合に、「促音化」が起こると言えそうです。
さあ、ここでやっと、ご質問の「洗濯機」「水族館」の話です。これは、語源としては「洗濯する機械」「水族の館(?)」ですが、現代では、そのようなことをふだんはいちいち意識していないのではないでしょうか。そのために「洗濯機」「水族館」という形で融合していて、発音は〔センタッキ〕〔スイゾッカン〕であると考える人も、決して少なくないのです。ウェブ上でおこなったアンケートでは、「〔センタクキ〕と読む」という人と「〔センタッキ〕と読む」という人が、ほぼ半々でした。ただし、「『せんたっき』と書く」という人はきわめて少ないようです。
また「旅客機」「万国旗」や「大食漢」などについて、〔リョカクキ~リョカッキ〕〔バンコクキ~バンコッキ〕〔タイショクカン~タイショッカン〕の両方を『NHK日本語発音アクセント新辞典』では示しています。これも、「旅客機」「万国旗」「大食漢」という形で強く融合している例です。
なお、「熟考」は〔ジュッコー〕と促音化しますが、「塾講〔=塾の講師〕」だと促音化しないで〔ジュクコー〕となります。「塾」ということばの独立性が強く(そして語源意識も強く)、融合するのを妨げているのです。
ここまで読解 が大変だったと思いますが、脚光 を浴びそうな画期 的なものを書いたと思っています。ぼくの錯覚 でしょうか。え、即刻 却下 ?