WEBリポート
- 2023年3月9日
保育士の給与「手取り18万円 命預かる仕事なのに…」ダブルワークの人も
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関東地方の認可保育園で働く20代の現役保育士です。
「手取りは18万円です。子どもたちの命を預かる仕事なのに保育士の給与は低すぎるのではないかと思います」
心も体もボロボロだという女性。
保育士の友人はベビーシッターとのダブルワークまでしているといいます。
これが保育士の厳しい処遇の実態です。
(首都圏局 保育現場のリアル取材班/記者 浜平夏子)
“給与低い” 投稿相次ぐ
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私たち(保育現場のリアル取材班)は、去年夏から保育現場の厳しい現状とその背景について、皆さんからの投稿をもとに取材を続けています。
そのなかで多く寄せられたのが、“処遇の改善”を訴える声でした。
「基本給は14万程度。ボーナスも1か月しか出ません。休憩なんてありません。みんな素直に話を聞いてくれる子ばかりではありません。保育士として働いていく自信がないので今年でやめる予定です」(匿名・保育士)
「40代、50代でも、園長、主任などの役職がついていなければ20万そこそこの給与しか貰えません。若い世代はあの歳になってもあれだけしかもらえてない…という絶望感を抱いてしまうのかと思います」 (埼玉・40代保育士)
手取りは18万円 生活はギリギリ
「保育士として働いています。給料は低く、生活はギリギリです。もう少し改善してほしいです」
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この声を寄せてくれた20代の保育士に話をうかがいました。関東地方の認可保育園で働いています。
実家から離れて暮らす女性、家計のやりくりは厳しいといいます。
女性は、週5日間、毎日8時間以上働いて手取りは18万円あまりです。
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このうち、保育士資格をとるために通った専門学校の学費を月3万円余返済し、実家にも2万円仕送りしています。
食費は月1万円に抑え、1週間分まとめ買いをして自炊しているといいます。
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電気代を節約するため、暖房を控えて家の中でもカイロを貼ったりダウンを着たりして過ごしていました。
遊興費はほとんどなく、自宅と保育園を行き来する日々。
大好きな保育の仕事だけが支えだったといいますが、その働き方は想像を超えていました。
過酷な勤務 心療内科に通いながら…
女性は、ベテラン保育士に、子どもへの声かけや保護者対応を学びたいと思っていましたが、園内にいるのは20代の保育士ばかり。さらに研修を受ける時間もありません。
保育士
「とにかく忙しいです。私の保育園は国の配置基準(※詳しくはこちら)を満たしていますが、病気で1人の保育士が欠けるだけで一気に負担が増します。
長時間労働な上、トイレにもなかなか行けません。1日中、10キロを超える子どもたちをだっこするので、ひどい腱鞘炎(けんしょうえん)になりました」
過酷な労働環境もあり、この1年で6人の保育士がやめていきました。
女性自身も、その分業務が増え、体調を崩すようになったのです。今、女性は、心療内科などに通いながら、なんとか保育園で働き続けています。
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保育士
「1人1人の子どもたちにじっくり向き合いたい。でも、保育園は遊び、給食、昼寝と時間が決まっています。そのスケジュールに合わせて保育することが求められ、それができないと、保育士はイライラし、人間関係も悪くなってしまいます。
人手不足で残業になって、次の日朝早いってなると、頭痛がしてしまったり勤務中めまいに襲われてしまったり…仕事が休める土曜はホッとするせいか、食後におう吐してしまうようなこともあります」
ベビーシッターと「ダブルワーク」する友人も
さらに、女性から驚きのひと言がありました。
「保育士として働きながらベビーシッターとして『ダブルワーク』をする友人もいます」
この女性自身、かつてベビーシッターとして働いたことがありました。その時の時給は1700円超。
時給に換算すると、保育園の保育士よりはるかに高くなります。
さらに、仕事の内容も、1人で多くの子どもを担当する保育園と違って、子どもと1対1でじっくりと関わることができるため、今思うと魅力的に感じるといいます。
保育士という仕事に誇りを持ち、好きだからこそと、女性はこう訴えます。
保育士
「このままだと、保育園で働く保育士はいなくなるじゃないかって思っています。今、配置基準の改善の声が上がっていますが、あわせて給与の低さも見直してほしいです。私の友人も保育士に憧れて保育士の仕事を始めましたが、いつの間にかやめていました。周りの保育士たちも離職を口にする人が多いです。なんとかしてほしいです」
保育士の給与 なぜ低い?
それにしても、なぜ保育士の給与はほかの業種と比べて低いのでしょうか。
令和3年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、以下のようになっています。
●一般労働者の平均賃金
月額30万7400円(年齢43.4歳、勤続年数12.3年)
●保育士の平均賃金
月額25万300円(年齢38.1歳、勤続年数8.8年)
これを見ても、月額の賃金は、一般労働者に比べると5万円以上低くなっています。
こうした理由について、保育士や保護者でつくる団体「全国保育団体連絡会」の実方伸子副会長は、処遇改善等加算での改善はあるものの、そもそも※公定価格が低く設定されているためだと指摘しています。
※公定価格
国が保育のために必要だとする費用。
子ども一人当たりを単価として設定し、「1号~3号の子どもの区分」、「定数」、「年齢」、「施設の所在地」を踏まえて、人件費、事業費、管理費などが、どの程度必要かを評価して算出。
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全国保育団体連絡会 実方伸子副会長
「 “公定価格”のなかで保育士の給与のベースとなる基準額が示されていますが、20年以上前の基準額並みに抑制され続けています。また、昇給財源となっている処遇改善等加算Iの基礎部分は平均勤続年数10年で頭打ちになっていて、長く働き続けることが前提となっていません。
加えて、人件費の算定は国の職員配置基準が基本になっていますが、実態にあっていないため、現場には国の基準の1.6~2倍の保育士を配置している園もあり、人件費がよりかかっています」
さらに、問題は、その上がらない賃金と増加し続けている業務とのギャップだと指摘します。
実方伸子副会長
「この20年間で、より細かな対応が必要な0歳から2歳までの乳幼児の利用者が増えました。
また、保育園の開園時間も長時間になり、午前7時半から午後6時半までと11時間以上開いている園が8割を越えています。保育士の負担は格段に増えているのに、保育士の賃金は変わってない。だから、現場から業務内容に見合わないという声が上がるんだと思います」
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国も保育士の処遇改善に取り組んでいます。主任、園長だけでなくリーダーとしてキャリアアップするのに応じて、加算する仕組みも作っています。
ただ、それでもほかの業種と比べて給与水準が低く抑えられているのが実態です。
政府は4月から発足するこども家庭庁を司令塔に、「次元の異なる“少子化対策”に取り組む」としています。
子どもの命を預かる保育士の処遇を改善することは、今の子どもたち、未来の子どもたちのためにもなるはずです。私も1人の園児の保護者として、そう思っています。
今後も保育現場の取材を続けます。こちらからご意見をお寄せください。