日経サイエンス  2022年7月号

ミリシア 先鋭化する米国の民間武装勢力

A. クーター(バンダービルト大学)

「野外演習イベントの場所はここ?」車の窓越しに私は聞いた。2008年4月の冷たい雨が降る朝で,場所はミシガン州中央部だった。全身に迷彩柄をまとい,胸に斜めがけした自動小銃AK-47に慣れた感じで手を当てて1人で立っていた男性は頷き,細い道の脇にどいた。畑と湿地林の境に50人ほどの人が集まっていた。ここはバンクロフト村の郊外で,ミリシア(右派の武装した市民集団)による毎年恒例の野外演習イベントの会場で間違いなかった。

キャンプファイアから出た煙が漂っていた。すでに数人のメンバーが年季の入った粗末な簡易屋外トイレのあまりのひどさに大声で笑い合い,昨年はポータブルトイレを用意したのに,とぼやいていた。MRE(meal ready-to-eat)の袋を開けて食べている人もいた。米軍兵士に支給される個包装された高カロリー食だが,ミリタリーショップやオークションサイトeBayでも入手できる。

男性参加者は,ほぼ全員が何かしら迷彩柄を身に着けていて,新しく手に入れた銃やタクティカルベストなどの装備を笑いながら見せびらかしたり,過去の演習イベントでの武勇伝を語ったりしていた。比較的少ない女性や子供の参加者はもっとおとなしく,ほとんどが迷彩柄ではない普段着だが,大半が当日行われた射撃演習などの活動に参加した。

米国のミリシア運動に関する詳細な実地調査とインタビュー調査から私が学んだのは,ミリシア集団がある重要な特徴の強弱に応じて,一軸上に広がるスペクトルをなして分布していることだ。一方の端には,大半が「大人になったボーイスカウト」程度の活動しかしていないグループがいる。もう一方には,見るからに攻撃的で,政府高官への襲撃を企てたり,白人至上主義を公言したりするグループがいる。

後者に属する一部のグループは,2021年1月6日に米連邦議会議事堂を襲撃した。特に過激なミリシアは,堂々と銃を携行し,軍服を着て,さまざまな妄想的な陰謀論を信じている。人種平等を訴える活動家らと衝突し,多くの州でパンデミックに対処するための公衆衛生施策に反対した。2020年には,ミシガン州に感染症対策のための行動制限を導入して個人の自由を侵害したことへの報復として,ホイットマー州知事の誘拐を企てた容疑で,あるミリシア分派のメンバーが逮捕された。

活動にはこのように幅があるが,ミリシアには共通点もある。メンバーがもっぱら白人男性であること,そして愛国主義者でこの国の「古き良き時代」を取り戻したいと願っていることだ。

続き日経サイエンス2022年7月号にて

著者

Amy Cooter

バンダービルト大学の社会学上級講師。16年にわたりミリシアならびに過激派グループを研究してきた。2006年にはネオナチを分析した論文がSociological Inquiry誌に掲載された。実地調査したミリシアの動向や,ヘイトグループが退役軍人を勧誘している実態について,米国連邦議会で証言したことがある。

原題名

Inside America’s Militias(SCIENTIFIC AMERICAN January 2022)

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