令和6年度 第2回「危機言語の保存と日琉諸語のプロソディー」合同研究発表会
- 開催期日
- 2025年3月15日 (土) 10:00~16:00
- 開催場所
- 対面とオンラインのどちらでも参加できる、ハイブリッド形式で開催
- 国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2) 交通案内
- オンライン (Web会議サービスの「Zoom」を使用)
- 主催
- 国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「消滅危機言語の保存研究」
- 国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「実証的な理論・対照言語学の推進」
・サブプロジェクト 「日本語・琉球語諸方言におけるイントネーションの多様性解明のための実証的研究」
- 参加申し込み
- 参加 (対面 or オンライン) をご希望の方は、3月13日 (木) までに事前登録フォームからお申し込み下さい。後日、それぞれの参加方法の詳細をメールにてお送りします。 Zoomで研究会の様子を録画します (記録用です)。 いただいた個人情報は、個人情報保護ポリシーに則り厳正に取り扱います。
- 参加費
- 無料
- お問い合わせ
- h-oshima[at]ninjal.ac.jp ([at]を@に変えてください。)
- キーワード
- 研究発表会・シンポジウム、オンライン開催、方言、音声、音韻、語彙、意味、文法
趣旨
2022〜2028年度に行う日琉語諸方言の保存研究と、日琉語諸方言のイントネーション研究プロジェクトの共同研究員による研究発表会です。プロジェクト3年目の第2回目の今回は両プロジェクトの共同研究員による方言データベースや言語復興、ならびに文法や音声などに関する様々な研究発表を行います。
プログラム
- 10:00~10:40
- 研究発表 「日琉諸語を対象とした方言談話データベース試作版の概要」
- 髙城 隆一 (九州大学)、下地 理則 (九州大学)
- 日琉諸語を対象とした方言談話データベースの試作版について趣旨と概要を説明する。国立国語研究所の「日本語諸方言コーパス」のような大規模コーパスにおいては、大量の談話データが用いられており、直接的な研究利用が可能な設計がなされている。これに対して本データベースでは言語ドキュメンテーションの基本に立ち返り、博物館的な設計を行う。すなわち、グロス (=形態素情報) や標準語訳・英語訳を丁寧に付けた短い会話や民話を音声付き動画と共に掲載し、各方言のサンプルとして提示する。研究上の興味深い点を強調し、グロスを読み解けるような日英語による文法概説も添えて広く公開することで、海外の研究者の興味を引き付けることができ、方言研究の促進にもつながると考えている。言語ドキュメンテーションにあたっては、文法書・辞書・談話資料の「3点セット」が有機的に結びついている必要がある。このうち辞書については、「日琉諸語オンライン辞書」(カルリノ・サルバトーレ、下地理則) との連携を予定している。文法書の掲載についても計画しており、3点セット公開のためのプラットホームとして活用されることを想定している。
- 10:40~11:20
- 研究発表 「秋田県能代山本方言の文法概略」
- 小原 雄次郎 (大阪観光大学)
- 本発表では、現地調査でのデータに基づき、秋田県能代山本方言の基本的な文法的特徴について報告する。現地での調査にあたっては、国立国語研究所の文法調査票 (2017年度~2020年度) を用い、テンス・アスペクト、格、情報構造、文タイプ、待遇等について面接調査を行った。今回の報告では、能代山本方言の概略を示したうえで、特徴的な部分について詳述する。
- 11:20~12:00
- 研究発表 「沖永良部島「しまむにLINEスタンプ作成会」に関する報告」
- 高 智子 (国際交流基金関西国際センター)、岩﨑 典子 (南山大学)
- 親子でしまむにについて対話をしたり交流をしながら、楽しく沖永良部語を習得する方法の1つとして「しまむにLINEスタンプ作成会」を考案し、実施した。本発表では、開催の経緯・実践内容・参加者に関する観察 (作成時の交渉、作成会を通じて習得した沖永良部語のバラエティ、作成会後のLINEスタンプの使用状況など)、沖永良部語の保存・継承活動への効果、課題を報告する。
- 12:00~13:10 昼休み
- 13:10~13:50
- 研究発表 「八重山語川平方言のアクセント体系に関する一報告」
- セリック・ケナン (国立国語研究所)、荻野 千砂子 (福岡教育大学)、五十嵐 陽介 (国立国語研究所)
- 本発表では、八重山語川平方言のアクセント体系に関する調査結果を報告する。近年、八重山語諸方言のアクセント体系に関する見直しが進展しており、その結果、八重山語の殆どの方言が次の特徴を持つことが明らかになりつつある。(1) 三型アクセント体系を有すること、(2) 数える単位が韻律語と呼ばれる単位であること。
本発表では、川平方言を対象とした調査を通じて、当該方言もこの2点の特徴を備えていることを示す。その上で、八重山語諸方言のアクセント体系を対象としたセリック (2024) の分類に基づき、川平方言のアクセント体系の位置付けについて検討を行い、川平方言のアクセント体系が「小浜式」に該当することを示す。すなわち、川平方言のアクセント体系は、ピッチ変動が指定される型が、韻律語の末尾音節が高くなる型として実現する体系である。
- 13:50~14:30
- 研究発表 「南琉球伊良部島佐良浜方言のアクセント (初期報告)」
- 新田 哲夫 (金沢大学 名誉教授)
- 佐良浜は宮古島の北西約5kmの伊良部島の東海岸に位置する集落で、池間添・前里添の隣接した二つの地区からなる。この集落は、宮古島北部の池間島から移住・分村して形成された集落で、新村として創設されたのは1720年のことといわれ、分派から300年以上が経過しているが、話されている言語は池間方言の一つと考えられている。一方、もう一つの有力な分村である宮古島北部の西原村の創設は1874年のことといわれ、移住から150年が経過しているが、現在の西原方言も池間方言の一つと考えられている。池間方言のアクセント研究については、西原方言の研究が進んでいる一方で (五十嵐他( 2012、2018) ほか)、佐良浜方言については報告がなかった。この発表では佐良浜方言のアクセントについて取り上げ、「韻律語」によって形成される三型アクセント体系、「上げ核」を有する弁別特徴について述べる。また西原方言との比較についても触れる。
- 14:30~14:40 休憩
- 14:40~15:20
- 研究発表 「高知県土佐方言の動詞アクセントに関する予備的考察」
- 菅沼 健太郎 (金沢大学)
- 本発表では高知県土佐方言の動詞アクセントを対象とする。同方言の動詞のアクセントパターンは、語幹がもつ分節音の構造、および韻律情報、そして活用によって変化する。発表者は現在その多様なパターンを生み出すメカニズムを明らかにする研究を進めている。
本発表ではその一環として特に過去形 (およびテ形とタラ形) に関する現時点での考察を述べる。同方言の過去形においては特に母音語幹動詞に特異な振る舞いがみられる (2拍高起無核動詞の長音化など)。本発表ではその特異な振る舞いは「母音語幹動詞は子音語幹動詞に下がり目の位置を合わせよ」とする制約が働いたことによって生じるという考えを述べる。
- 15:20~16:00
- 研究発表 「阿蘇郡小国町の方言における異形態の出現パターンについて」
- 小川 晋史 (熊本県立大学)
- 熊本県阿蘇郡小国町の方言に見られる異形態の出現パターンについて分析した結果、母音および尾子音が2つのグループに分かれており、同じグループの音が連続することを避けるようにして異形態の音形が選択される傾向が強いことがわかった。本発表では主に助詞の異形態を取り上げて論じる。