風を読む

トランプ報道に自戒する 論説副委員長・渡辺浩生

米フロリダ州の集会に妻のメラニアさんと登場し、ポーズをとるトランプ前大統領=2024年11月6日(ロイター)
米フロリダ州の集会に妻のメラニアさんと登場し、ポーズをとるトランプ前大統領=2024年11月6日(ロイター)

メディアの予想を裏切ってなぜトランプ氏が圧勝したのか? 昨年12月に米国から帰任して何度も見聞きする問いである。

激戦7州を全制覇し、総得票数も民主党のハリス副大統領を上回る勝ちっぷりは想定外だった。自らの取材を振り返ると、トランプ氏の「強さ」を示唆していた支持者の言葉に、今さらではあるが気づかされる。

昨年5月末、メキシコ国境から不法移民の記録的流入が続いた南部テキサス州を訪れた。サンアントニオで出会ったアイザック・チャベスさん(20)は「彼らが未来を求めて米国に来るのは分かるが、この街に来るのは問題だ。彼らが仕事を探そうとすれば、私たちは機会を失う」と語った。

チャベスさんを含むヒスパニック(中南米系)の男女5人から話を聞くと、幾つかの共通点があった。自らを「合法移民」と呼び「不法移民」には「米国に来るなら法律を守れ」と厳しかった。複数の職場を掛け持ちで働く彼らは物価高を生活の最大の問題と訴え、物価高進行や不法移民流入を止められないバイデン大統領を批判した。

チャベスさんは高校卒業後、目標を見失い薬物に手を出した。その後更生し海兵隊入りを目指していると語り、「タフな指導者が米国には必要だ」とトランプ氏を待望していた。

不法移民を経済と治安の「脅威」と呼ぶトランプ氏に共鳴するチャベスさんらの声を、共和党の地盤の南部特有の意識と私は受け止めた。誤りだった。

AP通信が実施した米大統領選の出口調査によると、トランプ氏はヒスパニック男性の48%の支持を獲得し、敗れた2020年の選挙と比べ10ポイント増加した。黒人男性の25%の支持(20年比13ポイント増)、世代別では18~29歳の若年層の47%の支持(同11ポイント増)もそれぞれ得た。

欧米メディアは、白人労働者にとどまらない「多民族の労働者連合」の支持が圧勝の主因と分析した。われわれはトランプ氏の主張を巡る誇張やウソに敏感であっても、現状に不満を抱く人種マイノリティーや若者の心をつかんでいたことには、感度が弱かったのだ。

CNNの昨年12月の世論調査によれば、米国民の54%がトランプ氏の再登板に「よい仕事をする」と期待する。国際秩序のリスクと世界が警戒しても、国内の多様な支持を得たトランプ氏は、公約実現にスタートダッシュをかけるだろう。

会員限定記事

会員サービス詳細