「スイーツの力で福島の復興を応援したい!」。未来を担う高校生たちの思いが込められたスイーツが多くの人を魅了した。昨年8月に、福島県大熊町のキウイ、富岡町のパッションフルーツ、楢葉町のサツマイモ、広野町のバナナという4町の特産品をそれぞれ使ったスイーツ作りのコンテスト「スイーツ甲子園 ふくしまチャレンジカップ」が開催され、特産品ごとの4部門で最優秀賞に輝いた高校生たちと審査員のトップパティシエが考案したスイーツを楽しめる「ふくしまスイーツフェスティバル」がこの2月に開かれた。各町の特産品の魅力を広く発信し、東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故からの復興を応援することが目的だ。楢葉町のサツマイモを使ったスイーツ作りにチャレンジした高校生の奮闘を追った。
サツマイモ生産量日本一 鹿児島の高校生らの思い
「鹿児島県はサツマイモの日本一の生産地として有名。鹿児島の高校生だからこそ、福島県楢葉町のサツマイモとの味の違いを学びたいと思った。スイーツにしたらどんな味になるのか、挑戦してみたかった」
昨年8月20日に福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」で開催された「スイーツ甲子園 ふくしまチャレンジカップ」の決勝大会。サツマイモ部門で最優秀の楢葉町賞に輝いたのは神村学園高等部(鹿児島県いちき串木野市)の濱部ゆらさんと野元侑里さんの高校1年生チームだった。2人は栄冠に笑顔を浮かべながらも、東日本大震災や鹿児島・桜島の噴火といった数々の自然災害に思いを巡らせ、静かに喜びをかみしめた。
「ふくしまチャレンジカップ」は、高校生パティシエ日本一を決める「スイーツ甲子園 高校生パティシエNo.1決定戦」(主催・産経新聞社)の姉妹コンテストとして2023年8月に初開催され、今回が2回目。大熊町のキウイ、富岡町のパッションフルーツ、楢葉町のサツマイモ、広野町のバナナの4部門を設けて全国の高校生を対象にレシピを募集。721組の応募があり、書類選考で選ばれた各部門3組計12組が決勝大会に出場した。
決勝大会の調理審査で2人が完成させたのは、サツマイモを使ったモンブラン「Da Fukushima al mondo(ダ フクシマ アル モンド)」だ。「実際に楢葉町のサツマイモを使って試作を繰り返した。ペーストにしてみると、甘くて、まったりとした印象だった。この個性と味を生かすため、素材の組み合わせを試行錯誤した」と、野元さんは振り返った。
モンブランの土台部分はサツマイモのパイシートで作り、甘みを豊かに表現するために少し苦いキャラメルムースをしのばせた。サツマイモクリームにも岩塩を使用し、変化をつけながらもサツマイモ本来の甘さを生かすことを意識したという。大会アドバイザーを務めるフランス菓子研究家の大森由紀子さんは、「モンブランは広く親しまれているだけに難しいチャレンジだったと思うが、素材の味を大切にして、レベルの高い作品を作っていた」と評価した。
楢葉町賞に輝いた2人には、審査員で人気洋菓子店「EN VEDETTE(アンヴデット)」(東京都江東区)の森大祐オーナーシェフと一緒にサツマイモを使ったスイーツを考案する副賞が贈られた。スイーツは今年2月21~24日、東京都渋谷区の代々木公園で行われた「ふくしまスイーツフェスティバル」で販売されることになった。コンテストを経て始まるさらなる挑戦に、濱部さんは「楢葉町のサツマイモのおいしさを福島、日本全国、世界へ…という気持ち。復興は終わったのではなく、途上だということを多くの人に伝えたい」と、表情を引き締めた。
楢葉町の新たな特産品、高校生のアイデアで全国に発信
福島県浜通り地方のほぼ中央に位置する楢葉町は、西は阿武隈高地、東には太平洋が広がる。鮎などが生息し、サケの遡上(そじょう)が見られる木戸川と井出川が町を流れ、豊かな自然に恵まれている。比較的寒暖の差も少なく、積雪も年に1~3回程度と過ごしやすい環境としても知られている。東日本大震災では、地震と津波に見舞われたのち、東京電力福島第1原子力発電所事故によって、町全体が避難を余儀なくされた。2015年9月に町に出されていた避難指示が解除され、町民の帰町が少しずつ進むとともに、復興への歩みを本格化させてきた。
楢葉町では復興の中核として、もともと基幹産業だった農業の再生を目指しており、収益性が高くて栽培に適したサツマイモの一大産地化に取り組んでいる。20年12月、町内農業者で組織する「JA福島さくらふたば地区楢葉町甘藷(かんしょ)生産部会」が発足。サツマイモの育苗から生産、商品開発までを包括的に行う白ハト食品工業(大阪府守口市)とともに、福島ならではのブランド品種「ふくしまゴールド」といったサツマイモの生産拡大に取り組んでいる。
さらに、町内には国内最大規模の貯蔵施設「楢葉町甘藷貯蔵施設」や甘藷育苗ハウス、「楢葉町特産品開発センター」が整備され、栽培とともに6次産業化に力を入れている。楢葉町の松本幸英町長も「ふくしまチャレンジカップ」決勝大会の熱戦を見守り、「全国の高校生のみなさんが、おいしいスイーツを考案することで、楢葉町の農産品の魅力が全国に発信される。私も甘いものが大好きで、本当にうれしい」と笑顔を見せた。
〝想像以上にサツマイモ〟のパフェ、見事に完売
「ふくしまスイーツフェスティバル」に向けての商品開発は昨年10月のオンライン会議から本格始動した。濱部さんと野元さんが森シェフに提案したアイデアはサツマイモを存分に味わえるパフェだった。濱部さんは「コンセプトは〝想像以上にイモ(サツマイモ)〟。チップスや大学芋風のコロコロサツマイモ、サツマイモのスポンジケーキ、ペースト…とサツマイモの可能性を重ねたい」と意気込んだ。森シェフが「できるだけ採用していこう。ただ、少し軽めのスイーツにした方が食べやすいかも」とアドバイス。来場者が食べるときの気温や環境を想像しながら、食感や味わいのバランスなどについての意見交換が行われた。
その後、高校生らのアイデアを基に森シェフが試作を重ね、「キャラメルとサツマイモのモンブランパフェ」が完成。サツマイモの甘露煮をはじめ、サツマイモのモンブランクリームやチップスのほか、キャラメルアイスやオレンジパッションジュレなどを組み合わせ、多彩な食感と風味が楽しめる一品に仕上げた。
「高校生の泣き笑い、生産者の努力、シェフのすご技が結実」〝唯一無二〟のスイーツ
「ふくしまスイーツフェスティバル」は、全国各地の魚介グルメが堪能できる「SAKANA&JAPAN FESTIVAL(魚ジャパンフェス)2025 in 代々木公園」と福島の復興応援を目的とした「発見!ふくしまお魚まつり」と同時開催で2月21~24日、東京都渋谷区の代々木公園で行われた。開会式で、アドバイザーの大森さんは「高校生の熱い闘いや泣き笑い、生産者の努力とフルーツのおいしさ、シェフのすご技が結実した唯一無二のスイーツができた。福島のフルーツと、その他の食材が折り重なってできた絶妙な味の4種類のスイーツをぜひ楽しんでほしい」と、あいさつした。
濱部さんと野元さんは21日に会場を訪れ、多くの人が商品を手にとる様子をみつめていた。会場のステージの舞台にも上がり、多くの来場者に向けて「楢葉町のサツマイモも鹿児島のサツマイモも個性の違いはあってもおいしい。森シェフが私たちのアイデアを生かして、とてもおいしいスイーツを完成させてくれた。ここまで来ることができてうれしい」と語った。
「来年は高校2年生。また、違うテーマ食材でレシピを考え、福島の夏を目指してみたい」。そう声をそろえる2人は、昨年夏から奮闘してきた充実感を胸に、また次の目標を見据えている。
提供:福島県楢葉町