〈社説〉トランプ氏発言 主権軽視の恫喝許されぬ
トランプ次期米大統領が記者会見で、グリーンランドの購入と中米パナマ運河の管理権獲得に意欲を示した。実現のためには軍事力や経済的圧力の行使も排除しない考えを明らかにした。
国境不可侵の原則は世界の平和と安定の基盤を成す。武力をちらつかせて他国の主権を侵害し、領土を奪い取ることは、明確に国際法に反している。米国は世界最大の軍事力と経済力を持つ。大統領が相手国に譲歩を迫る手段として力を誇示して恫喝(どうかつ)すれば、国際協調の維持に影響を与える。
間もなく就任するトランプ氏はこの先も、「米国第一」の旗の下で他国に圧力を加えていくだろう。身勝手な振る舞いを認めてはならない。
デンマーク領のグリーンランドは米大陸と欧州の中間にある世界最大の島だ。ロシアや中国と天然資源や新航路の開発で争う北極圏に、大部分が位置する。米国の安全保障に必要だと主張し、デンマーク政府が買収に反対すれば高関税を課すと脅した。
1期目にも買収を目指したが、もとよりグリーンランドは売り物ではない。自治政府と議会があり、5万7千人が暮らす。軍事力で米国の領土とすることなど許されるはずもない。
トランプ氏は領土的野心をむき出しにする。1999年にパナマへ全面返還した運河管理権の取得に加え、カナダを編入して51番目の州にすると主張。メキシコに関しては、米南部に面するメキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改めると表明した。
これまで米国は、ウクライナへ武力侵攻したロシアと対峙(たいじ)してきた。台湾の武力統一を排除せず、南シナ海の領有権を主張する中国をけん制してきたはずだ。
トランプ氏の姿勢はむしろ、法の支配を無視して力ずくで現状変更する試みを肯定するものだ。実現性は低いとみられるが、他の強権的な国々を勢いづかせることにもなりかねない。
米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に対しては、国防費を現在の目標の国内総生産(GDP)比2%から5%に引き上げるよう要求した。NATO脱退もちらつかせて圧力をかけている。
同盟関係の軽視にとどまらず、NATOの一員であるデンマークの主権やグリーンランドの自治権を侵すことすらいとわない。国際社会を挙げて異を唱えなければ、トランプ氏2期目の世界は極めて危うい状況に陥る。