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セックスで快感が得られなかった私が、オーガズムに至るまでの道【令和的セックスのコミュニケーション論:自己開発編】

40代で初めてセックスで快楽を得られるようになったというライターが、 赤裸々にオーガズムを知るまでの道を語る本編。それは自分の欲望に正直になり 自分の体をもっと知ることであり、規定された女らしさから解放されることでもあった。リアルなルポタージュをお届け。

セックスでオーガズムを得られない

私の初体験はオーガズムどころか激痛だった。その後、回を重ねてもパー トナーが代わっても、私はオーガズムを得ることはなかった。でも、特に気にもしていなかったのが本音。多くの女友達から「私もイッたことがない」と打ち明けられたし、インターネットで検索しても「女性は毎回オーガズムに達するわけではない」という答えが出てきたからだ。そう、セックスでは、男性はオーガズムに達するのがひとつのゴールではあるけれど、女性は必ずしもその必要はない、と私は考えていた。私にとってセックスとは、快楽というより男性に求められていることや愛されていることを確認するものだったから。 かくいう私は30代でセカンドバージンを経験した。久しぶりにパートナーができたとき、オーガズムどころか膣が全く濡れず、彼を受け入れることができなかったのだ。当時の彼からは「濡れにくいのは、マスターベーションをしないからだよ」とご意見を頂いたのだが、私は「やだー、恥ずかしい!」 と答えつつ、心の中では「お前が下手くそなんじゃ!」と悪態をついていた。 ところがだ。セックスでほぼ毎回オーガズムに達しているという友人にそのことをうちあけてみたところ、「彼に頼るのではなく自分で自分の体を開発するのが大切」と彼女に言い切られてしまった。当時の私は、そのアドバイスに心から同意ができていなかった。「私が濡れないのもオーガズムを得られないのも、セックスが上手な男性に出会えていないから」という理解だっ たから。だって、セックスって男性がリードするものでしょ、と。 前述の彼とは何度かセックスを試みたけれど結局成功には至らず、ほどなくスキンシップもなくなり、恋愛感情も下火となり、私たちは別れることになった。このときの経験から、私にとってセックスは、パートナーに求める重要な条件なのだと認識。オーガズムに対する興味が逆に増すきっかけとなった。

そもそもオーガズムの意味とは?

Wikipediaで“オーガズム”を調べてみたことはあるだろうか。そこには次のような趣旨のことが書いてあった。「女性のオーガズムには、クリトリスのオーガズムと膣のオーガズムの2種類がある。心理学者のフロイトは、前者は少女期の現象だとし、成熟すれば後者に移行すると唱えた。そのため、多くの女性は成熟してもクリトリスでオーガズムを感じるのにもかかわらず、膣のオーガズムが女性の性的満足の中心に据えられるようになっ た」と。多くの女性はクリトリスで感じていると思うのだが、男性器を挿入する膣で主に快楽を得ると、事実が歪められている? フロイトの意見で? 私はこれを読んだとき、男性のペニスを崇めるために女性のオーガズムが奪われているのではないか? という懐疑に目覚めてしまったのだ。セックス を男性にリードされている場合じゃない! 自身のセックスの夜明けを感じた私は、自らに3つのミッションの遂行を決定した。

3つのミッションで得られた気づき

その1は、自分の体を自分で開発すること。それまでも、クリトリスらしきところを自分で刺激して気持ちよさを感じることはあったが、もっときちんと 向き合うことにした。「両脚をピンと真っすぐに伸ばした姿勢だと太ももやお尻の筋肉が引き締まるため、女性は膣でのオーガズムに達しやすい」。そんな 情報を得て試してみたら、本当だった。そのうち、全く気分が盛り上がってい なくて膣が濡れていなくても、然るべき姿勢で然るべきところを刺激すれば オーガズムに達せるようになった。オーガズムとは愛とか興奮とか何か感情 的なものと結びつくものだと思っていたけれど、どちらかというとただの体の反応。ツボ押しみたいだな、というのが体感だ。膣でのオーガズムトライアルとしては、フェムテックを活用した。エルビーの骨盤底筋トレーニングとライオネスのスマートバイブレーターを購入。が、正直にお話しすると、フェムテックの力を借りても膣でのオーガズムに私は達することができなかった。

さて、ある程度練習を積んだら本番だ。ミッションその2。ちょうどその 頃、新たな男性とデートを重ねていたので、リアルな人間と性行為をするこ とにした。しかし、結果は……。セックスはできてもオーガズムは得られず。 クリトリスとは程遠いところを触られるばかりである。またもう一人、デー トを始めた男性がいたのでこちらで実践してみたものの結果は同じだった。 私の体はおかしいのか? なぜクリトリスはスルーされるのか? ケーススタディを重ねても疑問は払拭されない。

セックスセラピストとの出会いで扉が開く

そこでミッションその3。プロの手を借りることにした。セックスセラピストに体を預けてみることにしたのである。 気になる人も多いと思うので、ここは少し詳しくリポートしたい。まずは、オンラインで顔写真やプロフィールを見て、セラピストを指名する。私は30代 後半の会社員風の優しそうな男性に決めた。予約をすると、事務局からさまざまな注意事項などが書かれたメールが送られ、決定の返信をし、料金をオンラインで決済。「当店自慢のセラピストとエッチで素敵な時間をお過ごしくださいませ」と書かれたメールになんともいえず笑ってしまった。次は、セラピストから待ち合わせの確認などの連絡が。会う場所は駅前でもホテルでも自宅でも、希望の場所を指定可能だ。私はホテルの部屋で待つことにし、そこに写真通りの爽やかな会社員風の男性が現れた。「タメ語がいいですか?」 「一緒にシャワー浴びる?」などと聞かれる。私がシャワーは別がいいことを告げると、「じゃあ、湯船にお湯をためてくるね」といい、足拭きマットを敷いたりと洗面所を整えて、お茶を淹れ始めた。まさにプロ! 会話も慣れた感じで、緊張もほぐれてきた私は今回の目的はオーガズムを得ることだと正直に 伝えた。シャワーを浴び終えると、いよいよ施術スタート。ベビーパウダー を使っての背中のマッサージから始まり(ここまではスパなどでの施術と変わらない)、リラックスモードに。だが、やがてマッサージは体の下の部分へと降りてきて、だんだん私のスイッチもオンになってきた。そして結論としては、 私はあっという間にクリトリスでオーガズムに達したのである。それは波しぶきのような映像と音が脳内に現れるくらいのもので、セルフプレジャーとは 明らかに違う深い深いオーガズムだった。「もう1回する?」「今度は膣でもイケるようにするよ」とセラピストに言われたものの、恋愛感情がない相手だからだろうか、性欲が満たされると1秒でも体に触られるのがわずらわしく、初めての体験は終わりを告げた。セラピストは私の体に関してこう分析をして くれた。「体はおかしくない。きちんと感じるし濡れるよ。でも、クリトリスが小さめだから見つけにくいかも」。なるほど、そういうことか! やはり男性主導だと私はオーガズムを得ることはできない、と知るに至った。なお、この日の睡眠の質は、オーガズムのせいか劇的に良かったこともシェアしたい。

ついに知り得た、オーガズム

さて、それから。私は新たな恋に落ちて、その彼とベッドインすることになった。自分から触ってほしい場所に彼の手を誘導したり、感じやすい姿勢をとったりした。すると、オーガズムを得られたのである! ステディの関係にまで至った彼とは、膣でもオーガズムを感じられるようになってきた。 “男性に気持ちよくしてもらうのをただ待つのではなく、自分で快楽を得ようと確固たる意思を持つこと”。私にとって、オーガズムに至る道とは、受け身から能動へのスイッチの切り替えだった。40歳を過ぎるまでこれがで きなかったのは、「性に積極的な女性ははしたない」といった刷り込みに、抑圧されていたからのように思える。誰かが決めた“女らしさ”から解放され ることで自分の体をようやくとり戻したのだ。

Photos: Getty Images Text: Jun Editor:Kyoko Muramatsu