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「原動力は怒り」──フィービー・ブリジャーズ、ミソジニーや中絶を語る

2月に来日公演が控えるフィービー・ブリジャーズ。コロナ禍中に全米のZ世代を中心に熱い支持を得て、一気にスターダムを駆け上がった彼女は、世界の状況を考えれば、怒りを感じるのは健全だと言う。より良い世界を願いながら、不正に対する怒りを訴えかけるフィービーを突き動かすものとは?

ある秋晴れの日の午後、ブルックリンにあるレーベルのオフィスで、フィービー・ブリジャーズはテーブルを前に、自身の中絶の経験を振り返っていた。「医者に行くのが嫌いだから、不安でたまらなかったですね」と、オーツミルク・ラテをすすりながら、ブリジャーズは語りはじめた。ホワイトブロンドの髪には、ルーシー・ダカスのキャップが載っている。彼女の歌声は高く、心地よくなめらかだが、話すときの声は低く、罵倒語をよく使い、カリフォルニア出身者特有のくつろいだ雰囲気を醸し出している。「自分の体の敏感な部分に人が近づくのが嫌いなので、そもそも緊張していたんですよ。でも、(結果的には)すごくいい感じでした」

ブリジャーズが中絶を公表し、最高裁へ憤る理由

ブリジャーズがはじめて中絶について公表したのは、ロー対ウェイド判決を覆す最高裁判所の草案がリークされたあとだった。それから間もなくして、最終判決が下ると、グラストンベリー・フェスティバルにヘッドライナーとして参加していた彼女は、観客と一緒に「F**k the Supreme Court(ふざけんな、最高裁)」とシュプレヒコールを上げた。そして「あんなでたらめを許すな、ファック・アメリカ。私たちの体をどうするかを、何の関係もないクソ野郎たちに教えられてたまるか」とつけ加えた。現在28歳の彼女は、スターダムを駆け上がりながら、自分が関心を寄せる問題について、より積極的に発言している。

生まれたときからロサンゼルスに住み、今は離婚した両親のもとで弟とともに育ったブリジャーズは、子どもの頃に作曲をはじめた。ファーストアルバムのレコーディング資金を稼ぐために、コマーシャルの曲を作ったのが、キャリアのはじまりだった。そのたった数年後には、グラミー賞で4部門にノミネートされたが、彼女はその発表の間ずっと眠っていた。母親とは今でも仲が良く(この取材の前には、『Teen Vogue』は「過激な雑誌」だと満足気にブリジャーズに話していたそうだ)、2022年のはじめに『ビルボード』誌が主催するウィメン・イン・ミュージック・アワードのトレイルブレイザー賞を受賞したとき、彼女にトロフィーを渡したのも母親だった。

自身のレーベルもローンチ

ブリジャーズは自分のレーベル「サッデスト・ファクトリー・レコーズ」を立ち上げ、スロッピー・ジェーンのヘイリー・ダールや、ムーナ、クロードといったクィア・アイコンと契約している。現在は、テレビのヒット番組のサウンドトラックに曲を提供し、成功したパニッシャー・ツアー(20年のグラミー賞にノミネートされたアルバム名にちなんでいる)がようやく終わろうとしているところだ。ここ数年はほかのインディーズ界のスターたちともコラボレーションしていて、ブライト・アイズことコナー・オバーストとともに、ベター・オブリヴィオン・コミュニティ・センターをはじめたり、ザ・ナショナルのマット・バーニンガーと共演したりもしている。

ブリジャーズの音楽といえば、悲しみや失恋をテーマにしたものが多いが、アイルランド人の俳優ポール・メスカルとの交際は順調だ(ふたりの関係が注目されることを不快に感じているブリジャーズに、今回の取材で彼について聞くつもりはなかった。でも挨拶を交わしたあとに、彼女のほうから、メスカルがメールで送ってきた服のチョイスについて意見を求めてきたので、私は花柄のボタンアップと黒のパンツより、ブルーのスーツに一票を投じると答えた)。

ステージ上でほとばしらせる、中絶禁止法や反LGBTQ法などへのもっともな怒りは、ブリジャーズの音楽の静かなトーンとは対照的に思えるかもしれない。しかし、彼女が得意とするメロディアスなインディーズ楽曲の中にも、そうした怒りを伝える歌詞がある。また、自分のプラットフォームを使って、社会の欠点や分裂を指摘してもいる。知名度が上がるなか、ブリジャーズはより良い世界を願いながら、不正に対する怒りを訴えかけている。こうした怒りによってブリジャーズは、腹を立てる理由をたくさん抱える世代の声を代弁するアイコンとなった。アメリカの『Teen Vogue』が秋の中間選挙を前に若者の意見を調査したところ、71%が「将来についてほとんど悲観的」であり、90%が「アメリカは間違った方向に進んでいる」と答えた。ブリジャーズの現体制に対する幻滅は、本物かつ適切に思える。そして彼女の言動は、セレブたちに、自らを活動家と称して口だけ達者になるのではなく、実際の活動にお金を投じてほしいと願うZ世代のファンたちの共感を呼んでいる。

長年にわたり、ブリジャーズは「自分が信じていることをみんなに伝える」努力をしてきた。20年のブラック・ライブズ・マター運動の最中、2作目のアルバム『パニッシャー』がジューンティーンス(6月19日、特にテキサス州で1865年に奴隷解放が発表された日を記念して祝う祭)に合わせてリリースされる予定だった(彼女はこれについて、不注意によるミスで「浅はかだった」と述べている)。そこで、サプライズとしてアルバムを1日早くリリースし、リスナーに権利擁護団体への寄付を呼びかけた。「あのときにはじめて『ああ、私って実は力があるんだ』と気づいた」のだとブリジャーズは言う。「自分がなにかを発信して、みんなの注目を集めているとき、その関心を本当に役立つことに向けられる力があるんだと実感しました」

社会的弱者やクィアに思いを寄せる

ほかにも、20年には、ステイシー・エイブラムスが創設した「フェア・ファイト(投票権保護活動組織)」の資金調達のために、マギー・ロジャースとともにグーグー・ドールズの「アイリス」をカバーしたり、トランスジェンダーの子どもやその親を取り締まるために教師やソーシャルワーカーが派遣されているテキサス州では、テキサス公演の際に支援団体「テキサス・トランスジェンダー・教育ネットワーク」を招いて資料を共有したり、ニューメキシコ州にある、不法滞在者のための中絶基金「マリポサ基金」にステージ上からエールを送るなど、こうした例は増え続けている。「中流階級や上流階級の白人は、飛行機で(別の州に)行ったり、なんらかの“組織”に頼ったりして、ヘルスケアや中絶にアクセスできるようになっていると思うんです」とブリジャーズは言う。「でも、すでに大変な思いをしている人たちにとっては、想像以上に大変なことなんですよ。だから、そういう人たちの生活を楽にしようとしている組織を応援しています」

ブリジャーズが自分の中絶経験について話す理由のひとつは、中絶にまつわるスティグマ(汚名)を減らすことで、ほかの人たちが生きやすくなることを願っているからだ。とくに中間選挙が近づくにつれ(本記事が書かれたのは2022年10月末)、中絶権問題は大きな争点となっている。「中絶について恐ろしいことを言ってくる人の言葉に耳を傾けてはダメ」とブリジャーズは言う。「危険な方法でやらない限り、援助してくれる団体はいくつもあります。どんな理由であろうとも、中絶は絶対にできたほうがいいんです」「ものすごく安全ですから」と、彼女は自分の経験を振り返りながら言った。「家族計画連盟に感謝の言葉を送ります。(中絶する間、)私の心の拠り所でした」

中絶権擁護にとどまらず、ブリジャーズはフロリダ州知事のロン・デサンティスのような政治家──同州の学生に対して「Don't Say Gay(ゲイと言ってはいけない)」政策を立案した──を批判するのも忘れない。5月に同州タンパで行ったソールドアウト公演で、ブリジャーズは「ファック・デサンティス!」の大合唱をリードした。「みんな、3つ数えたら『ゲイ』って言うんだよ? 準備はいい?」と問いかけると、数千人の観客はいっせいに「ゲイ!」と叫び返した。

ブリジャーズはこれまでも、若者とクィアが多い自分のファンをいかに大切に思っているかを、多くのメディアに語ってきた。彼女はタンパの観客に、「私はとくに政府がめちゃくちゃやってる場所に行くのが好きなの。だってそこの若者はすごく怒っていてクールだから」と語っていた。

アルバム『パニッシャー』の最後に収録されている「I Knowthe End」で、ブリジャーズは静かに歌いはじめ、徐々に厚みのある音へとクレッシェンドしていき、最後は声がかすれるまで叫んでいる。この曲は、車の中で友人と聴いて、世の中のくだらなさ、男のエゴ、政府の醜悪さについて叫ぶために書かれた曲──つまり、怒っている人のための歌だ。

どちらの味方になるのか、選ぶ覚悟を持っているかどうか

彼女の怒りは歌詞にもにじみ出ている。とりわけ、新型コロナウイルス感染症が流行しはじめた最初の数カ月間にリリースされた『パニッシャー』には、元彼の母親と政治について口論する「ICU」から、ナチの隣人を庭に埋める「Garden Song」まで、さまざまなテーマで表現されている(もっとわかりやすいのは、アルバム『ストレンジャー・イン・ジ・アルプス』の1曲目「Smoke Signals」だ。「問題はぜんぶ私が解決するから/あなたを助手席に乗せて、スピードを出す 警察が追ってくるから」。ライブで、この歌詞に差しかかると、喝采が上がる)。「ナチを殺すことについて書くのが政治的な声明になるとは思っていなかったですね。ただそのときに考えていたことを書きました」意図的に政治を歌詞に取り入れているのかと尋ねると、ブリジャーズはあっさりとそう答えた。「それから『ICU』については……あのときに交わした政治についての会話は悲惨で最悪でしたね。ああいうときに一番憎しみを覚えます。実際、憎しみは抱いてもいいと思うんですよ」

彼女がなにを言わんとしているのかを理解するのは、そう難しくない。残酷になれと言っているのではなく、どちらの味方になるのかを選ぶ覚悟の話をしているのだ。そしてブリジャーズには、その覚悟が十分にできているように見える。

90年代のシネイド・オコナーやフィオナ・アップル(ブリジャーズとコラボしている)をはじめ、00年代のザ・チックス、そして10年代から今日に至るまで数えきれないほどのアーティストたちが音楽業界に参入し、業界内と業界人たちを見渡して、「これではまだダメだ」と感じてきた。ブリジャーズはそうしたレガシーの一端を担っている。ブリジャーズと並んで、自分たちの信念──特に人工中絶権──について発言しているアーティストには、メーガン・ジー・スタリオンビリー・アイリッシュリゾオリヴィア・ロドリゴがいる。

ミソジニーを土台にしてきたロックというジャンル

ブリジャーズとコラボしているパラモアのヴォーカル、ヘイリー・ウィリアムスも、00年代にロックの世界で成功を収めた数少ない女性のひとりだ。彼女は、自分たちのヒット曲「Misery Business」が「クールな女の子信奉」を助長し、「私をはじめ、ほかの大勢のティーン、それに私よりも前の世代の多くの大人たちが、巻き込まれて信じていた嘘を、エスカレートさせてしまった」と自ら批判している。ウィリアムスと同様にブリジャーズも、ロックというジャンルが土台にしてきたミソジニー(女性蔑視)から切り離され、複雑な感情を表現する音楽を提供し、さまざまな痛みについて語る場をつくろうという運動に続いている。傷つきやすい繊細さは、ブリジャーズの音楽と歌詞の大きな特徴であり、彼女が敬愛するエリオット・スミスと比較されるゆえんでもある。

多くが白人、男性、ストレートだったミュージシャンの先人たち──なかには若い女性ファンを利用した人もいた──に失望させられてきたブリジャーズと仲間は、自分たちが耐えてきた状況を改善し、より良い環境をつくることに責任を感じている。ブリジャーズ、ルーシー・ダカス、ジュリアン・ベイカーは、三人で結成したboygeniusが18年にリリースした同名EP盤レコードのなかで、「恩をあだで返してやる」と声を合わせて歌っている。

今日のロックとオルタナティブは、ミツキやポム・ポム・スクワッド、スネイル・メイルやブラック・ベルト・イーグル・スカウトに至るまで、多様なバックグラウンドを持つ女性や、クィア、LGBTQ+アーティストたちが多数派を占めている。それら新勢力は、これまでロックミュージック(とそのシーン)において軽視され、無視されてきた物語や経験を代弁しながら、男性たちが女性たちを傷つけるという今までの物語を塗り替えつつ、(そんな物語の当事者だった)男性たちを非難する。「白人の男の子たちと(私たちは)同じだと思わされてきたのは、ただただ悲しいです……。私たちが自分たちの表現を必死に求めるのも、わかるでしょ?」とブリジャーズは言う。「その根底にあるのは、ただ理解されたいという想いなんです」

ライアン・アダムスを歌を通じて“告発”

17年秋の#MeTooムーブメントの到来──それからミソジニーによるバックラッシュへの長い道のりの間──は、ブリジャーズがスポットライトを浴びはじめるタイミングと同時期だった。同年9月、彼女のデビュー・アルバム『ストレンジャー・イン・ジ・アルプス』がリリースされた。このなかの最も有名な「Motion Sickness」は、ミュージシャンのライアン・アダムスとの関係を歌ったもので、一見軽快なグルーヴに隠されたディストラック(個人またはグループを侮辱することを目的とした曲)である。後にブリジャーズは『ニューヨーク・タイムズ』紙に、アダムスと出会ったのは、彼女が20歳前後でアダムスが40歳くらいの頃だったと語っている。「私が生まれたとき、あなたはバンドをやっていた」と彼女は歌っている(弁護士を介した同紙への声明で、アダムスは、ふたりの関係を「短い期間の、合意の上での情事」と表した)。

同紙は、アダムスと、告発されている彼の「キャリアのチャンスをちらつかせながら、同時に女性アーティストにセックスを求めるという、人を操るような行動パターン」について、複数の女性に話を聞いている。また、ブリジャーズに関しては、接触を断ったあと、アダムスが「一緒にレコーディングした音楽のリリースについて回避的になり、次回の公演のオープニングのオファーを取り消した」と彼女が主張していると報じた(アダムスは弁護士を通じて、この告発を「極めて深刻で突飛」と指摘し、同紙の報道を否定し、ブリジャーズの曲を保留したことも否定した)。

ジョニー・デップとアンバー・ハードの裁判を通じて抱いた強烈な違和感

ブリジャーズと、以前から非難の声が上がっていた著名人の名前を出し合ううちに、話は22年最大の#MeToo事例となったジョニー・デップアンバー・ハードの訴訟に及んだ。ふたりの裁判が終わって間もなくブリジャーズは、世間の注目を集め、賛否両論が分かれた裁判で、デップのアビューズ(肉体的・精神的虐待)を告発したハードを支持するツイートに「いいね!」を押していた(最終的に、陪審員はハードに3件の名誉毀損の責任を認め、デップはハードの反訴で3件のうち1件の責任を負った)。インターネット上では、人々はハードと、彼女がデップから受けたアビューズの申し立てを嘲笑し、多くの著名人が、裁判後にデップがInstagramに上げた「カムバク」投稿に「いいね!」した。「完璧な被害者でなければならない、完璧な(アビューズの)サバイバーでなければならない、周縁化されたコミュニティの完璧な代表者でなければならないという誤った考え方がずっとあるように思います。これはクィアについても同じです」とブリジャーズは言う。「アンバー・ハードが神経症的な振る舞いを見せれば、彼女の不利になる。でもジョニー・デップが、法廷で最も暴力的で正気とは思えない行動を認めても、みんな驚かないんですから」

この裁判が目まぐるしく感じるほど人々の注目を集め、消費されたのは問題だと、ブリジャーズは続ける。「あの状況すべてが、ファン同士の争いのように扱われたことに、とても動揺しています。誰かが法廷で泣いているのを見て、みんな笑っているんですよ? へどが出そうでした」

この点に関して、ブリジャーズは行き詰まっているように見える。サバイバーの訴えを矮小化し続ける社会で、説明責任や正義とはいったいなんなのか? 「孤立したように思えることがありますね。まるで世間は、私たちとは違う倫理観を持っているように思えてしまって」と彼女は言う。また、デップのように、アビューズで訴えられた多くの権力者が、金儲けを続けていることにも言及した(イギリスでは、新聞に掲載された、彼は「妻虐待者」であるという主張は実質的に真実であると裁判所が判断し、名誉毀損の訴訟でデップは敗訴している)。「つまり、キャンセルカルチャーは、本当にあるのか? ってことですよ。政治の世界で仕事を失った人はいますか? ある大物が性犯罪を犯して刑務所に入ったって、それだけですよね。おそらく、数人の友人や、いくつかの仕事を失うだけです」と彼女は言う。「そして5年もしたら、『ごめん、ごめん』と平謝りしながら戻ってくるけれど、決して謝らないし、いなくなることもないじゃないですか」

ブリジャーズは、友人や音楽業界の関係者、ほかのサバイバーたちとの連帯に感謝しているが、被った痛みや犠牲を忘れることはない。「多くの友人と、先にトラウマを通じて仲良くなったのは嫌ですね。私たちの友情は楽しいところから生まれたわけではなく、なにかとても暗いものでつながっている。そうするほかなかったんです」

多くの彼女のファンが、音楽業界、そしてカルチャー全般において、誰が権力を握り、そしてそれをどう行使しているのかに気づき始めたタイミングでまた、ブリジャーズもシーンに登場した。だからこそ彼女は、自分の知名度の高さを真摯に受け止めている。確かに、ブリジャーズはステージ上で、心のうちをさらけ出すミュージシャンで、ファンはそれに合わせて一緒に歌う(あるいはすすり泣く)。でも、彼女はすべての人にマイクが行き渡るように、つまり、声を上げるのが彼女だけにとどまらないよう、気を配っている。「私は自分を売っているんです。もし私が友達のGoFundMe(アメリカ発のクラウドファンディングプラットフォーム)にリンクを貼れば、ふたりくらいは寄付してくれるかもしれません。でも、『これと引き換えに、私の一部をあげる』と言えば──実際、歌ではいつもそうしているのですが──簡単に人々の関心を、悲惨な状況のほうに向けさせられる。私はミュージシャンなので、ほかの方法で人の注意を引く力はないんですよ」

どこかへ向かう怒りこそが、フィービーを突き動かす燃料に

今回のインタビューの中で、トランスフォビア(トランスジェンダーに対する嫌悪感など、否定的な感情や価値観)の話題になると、ブリジャーズはとりわけ熱く語った(「私は毎日トランスフォビアを目にすることなく、自分の人生をやり過ごしてこられました。でも、トランスの人たちは、毎日それに直面せざるを得ないという重荷を背負っています」)。また、シスジェンダーと白人が中心でトランス排他的なフェミニズムについても(「ロー対ウェイド判決が覆ったときも怒りがこみ上げてきました。『自由なんてないのに、独立記念日なんて祝えません。心をこめて、女性一同より』なんていうミームが毎日投稿されていましたよね。それを見て、この国で自由だった人なんているかよ! って思っていました」)、警察廃止論(「ゼロからやるしかないんですよ。そう思いませんか? 廃止しかありませんよ」)についてもそうだった。

しかしこうした怒りはすべて、どこかへ向かっている。ブリジャーズは、静かにはじまり、叫び声で終わるような曲が好きだ。「憎しみは実は健全なものだと実感しています」と彼女は言う。「怒り狂っていてもいいんです」その話し方は自信にあふれ、確信に満ちているのがわかる──まるで怒りが燃料であるかのように。今後の活動やアルバムの具体的な計画は明かさなかったが、空になったラテのカップとクッキーの包み紙をかき集めながら、ブリジャーズはこう言った。「今、私が怒りを感じているものがなんであれ、次につくるものにはそれが前面に出てくるでしょうね」

Profile
フィービー・ブリジャーズ
1994年、米カリフォルニア州生まれのシンガーソングライター。2017年にアルバム『Stranger in the Alps』でデビュー。2020年リリースの2ndアルバム『Punisher』がコロナ禍の中で高評価され、同年の年間ベスト・アルバムの多くを受賞。第63回グラミー賞では最優秀新人賞など4部門にノミネートされる。2018年にはジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスとともにboygeniusを結成。2023年2月には、京都・大阪・東京3都市での来日ツアーが開催される。

Photos: Chloe Horseman Text: Lexi McMenamin Styling: Savannah White Makeup: Shaina Ehrlich Hair: Clara Leonard Manicure: Jin Soon Production: Charlie Borradaile at Serene Art Direction: Emily Zirimis Visual Editor: Louisiana Gelpi Designer: Liz Coulbourn Sr. Fashion Editor: Tchesmeni Leonard Associate Fashion Editor: Kat Thomas Senior Entertainment Editor / Talent Direction: Eugene Shevertalov Translation: Miwako Ozawa