江戸しぐさ 江戸っ子の粋と野暮

2014.02.06


理事長の土門道典さん(右)と事務局長の鶴見泉さん【拡大】

 互いの傘を外側に傾けてすれ違う「傘かしげ」やこぶし一つ分腰を浮かせて席をつくる「こぶし腰浮かせ」は代表的な江戸しぐさ。公共広告機構(現ACジャパン)で取り上げられたとき、ふっとやさしい気持ちになった。

 江戸時代は約260年という長い間、一度も戦争のなかった世界でも類例のない時代である。と同時に、江戸は100万人もの人口が密集する当時世界一の大都市でもあった。

 「江戸しぐさ」は、そうした特殊な時代に暮らす人々から生まれた生活行動の規範である。

 もとは「商人しぐさ」とか「繁盛しぐさ」と呼ばれ、全国各地からやってきた商人の商売繁盛のための心構えを指した。「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)を説いた近江商人や伊勢商人、京商人などの家訓や処世訓を基本にして商人が組織した「江戸講」で口授されたもので、文字文献としては残されていない。

 江戸講の最後の語り部であった芝三光から直接口伝された越川禮子さん(NPO法人江戸しぐさ名誉会長)が1992(平成4)年に『江戸の繁盛しぐさ』を著してから「江戸しぐさ」という言葉が広まることになった。

 「江戸しぐさは、マナーやエチケットではなく、礼儀作法でもありません。意構(心構え)です」と理事長の土門道典さんはいう。そして「意構は、癖になるまで身についた瞬時に行動にあらわれる生き方なのです」と事務局長の鶴見泉さんが解説する。

 江戸しぐさには“三脱の教え”という「相手に年齢、地位、職業を聞かない。その人となりを自分の直感力で判断する」ことが大事とする教えがある。

 また、「尊異論といって、違って当たり前。むしろ違うことは良いこと、という考え方もあります」と鶴見さんは付け加える。いずれも「思いやり」「お互いさま」の精神で相手を尊重した。

 「江戸っ子とは、進歩的な人間主義者で、和をもってよしとなし、誰とでも付き合い、新人をいびらず、権力にこびず、人の非を突くときは下を責めず上を突き、外に飾らず中身を濃く、という思想を持った人たちである」と語り継がれてきた。この逆が、野暮である。

 今の日本は野暮が目立つ。 (谷口和巳)

 ◆NPO法人江戸しぐさ 東京都目黒区上目黒1の3の19(電)03・5312・6021

 ■たにぐち・かずみ 団塊世代の編集者。4つの出版社を転籍、19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。団塊世代向け月刊誌『ゴーギャン』元編集長。『女優森光子 大正・昭和・平成−八十八年激動の軌跡−』『帝国ホテルの流儀』(共に集英社)などの書籍も手掛ける。

 

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