特捜部検事の取り調べ 録音・録画を法廷で再生 大阪地裁

大阪地検特捜部が捜査した横領事件で無罪が確定した不動産会社の元社長が違法な捜査があったとして国に賠償を求めている民事裁判で、当時、捜査を担当した検事の実際の取り調べを録音・録画した映像が法廷で再生されました。
映像には、検事が机をたたき「検察なめんなよ」などと大きな声で問い詰める様子が記録されています。

5年前(令和元年)、学校法人の土地取引をめぐる横領事件で大阪地検特捜部に逮捕・起訴され裁判で無罪が確定した大阪の不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長、山岸忍さん(61)は、当時、捜査を担当した田渕大輔 検事が、山岸さんの元部下を脅すなど違法な取り調べをしたとして国に賠償を求める訴えを起こしました。
20日の裁判で、田渕検事の取り調べを録音・録画した映像の一部が、およそ25分間、大阪地方裁判所の法廷で再生されました。
映像では、検事が元部下に対して取り調べに関する情報についてメモを作成して社内で共有し、口裏合わせをしていたのではないかと質問する様子が記録されています。
元部下が共有していないと主張すると、検事は机をたたきながら「うそだろ」などと追及し、その後も大きな声を出して問い詰め、「検察なめんなよ」などと発言しています。
取り調べについて検事はこれまでの裁判の証人尋問で「大きな声で長い時間追及したのは不穏当だった。元部下は誠実に取り調べに向き合っていないと感じ、真摯(しんし)に向き合ってほしかった」などと述べています。
裁判は20日で審理が終わり、国に賠償責任があるかどうかを判断する「中間判決」が来年3月21日に言い渡されることになりました。
田渕検事の取り調べをめぐっては山岸さんが行った「付審判請求」が認められ、元部下を大声で罵倒したなどとして特別公務員暴行陵虐の罪で刑事裁判が開かれることになっています。

【山岸元社長“組織改革しないと同じ問題起きる”】
裁判のあと山岸忍さんと弁護団が会見を行い山岸さんは「映像を法廷で見て改めてひどいなと思いました。この映像を見ても問題視しない特捜部の組織改革をしてもらわないとまた同様の問題が起こると思います。裁判所には厳正な判断をしてもらいたい」と話しています。
また、弁護団の秋田真志 弁護士は「今回の取り調べの背景にある検察の捜査のあり方そのものが問われる裁判だと思っています。見立てに固執し、型にはめようとする特捜部の捜査が村木さんの事件から変わらず続いていることが明らかになったので、判決ではそこに焦点を当てた判断を期待しています」と述べました。
また、同じく弁護団の中村和洋 弁護士は「なぜ今回のような取り調べが行われたのか、田渕検事にどういった力が働いたのか、組織の構造が明らかになっていないため、まだ課題は残されていると考えています」と指摘しました。

【大阪地検コメント】
大阪地方検察庁の田中知子 次席検事は、法廷で再生された取り調べの映像について「田渕検事の取り調べについては、最高検監察指導部による監察が行われ、大阪地方検察庁に対し、不適正であるとの通知があり、検事に対する指導も行われている。大阪地検としては、今後とも適正な取り調べの実施に努めてまいりたい」とコメントしています。

【特捜部検事「検察なめんなよ」 法廷で再生された取り調べ映像】
20日の法廷で流された映像は、当時、大阪地検特捜部の田渕大輔 検事が、その後、有罪判決を受けた山岸さんの元部下の取り調べを行っている様子を記録したものです。
この元部下は、山岸さんが無罪となった学校法人の土地取引をめぐる横領事件で、5年前(2019年)に大阪地検特捜部に逮捕されました。
映像は、逮捕後の取り調べの録音・録画の中から弁護側がおよそ25分間に編集したもので、元部下が田渕検事と机を挟んで向かい合って座っています。
このうち逮捕から3日後の取り調べでは、検事が元部下に対して取り調べに関する情報についてメモを作成して社内で共有し、口裏合わせをしていたのではないかと質問しています。
映像では、元部下が共有していないと主張すると、検事が机を強くたたきながら「なんでうそついたの?今のがうそじゃなかったら何がうそなんですか」と追及します。
そして、検事は大きな声を出して「反省しろよ少しは。何開き直ってんだ。こんな見え透いたうそをついてまだ弁解するか。悪いと思ってんのか。なんだ、その悪びれもしない顔は」と発言します。
その後も「慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、そのうえであなたほどの人間を逮捕してるんだ。命かけてるんだよ。検察なめんなよ。俺たちは、あなたたちみたいに金をかけてるんじゃないんだ。必死なんだよこっちは。あなたにうそをつき続けさせるわけにはいかないんだよ」などと発言しています。
大阪高等裁判所は、田渕検事の刑事裁判を開くことを決めた「付審判請求」の決定で、こうした取り調べについて「およそ50分にわたってほぼ一方的に責め続け、検察官に迎合するうその供述を誘発する危険性が大きい」と指摘しました。

【刑事弁護に詳しい弁護士“録音・録画の中での今回の取り調べ衝撃”】
刑事弁護に詳しい川崎拓也 弁護士は、今回の取り調べについて「録音・録画されるようになって取り調べ自体は比較的に穏やかになっているが、そうした中でも今回のような取り調べが行われたのは衝撃だった。容疑者や被告からすると口にして調書になれば、自分は本当にやっていなくても致命的になる。真実に近づくという意味では遠いやり方だと思う」と指摘しています。
そのうえで現状の取り調べの制度について「録音・録画によって事後的に検証できるようになったが、リアルタイムで検察官や警察官に『それはおかしいですよね』と言える制度になっていない。弁護人が立ち会って初めて取り調べの担当者と容疑者がイコールに近づくスタート地点に立てる」と述べ、弁護士が取り調べに立ち会うことができるようにするべきだと主張しました。

【近年 各地で検事の不適切な取り調べが相次ぐ】
検事の不適切な取り調べは相次いで明らかになっています。
<和歌山地検>
去年(2023年)4月、和歌山市で、選挙の応援に訪れていた岸田 前総理大臣の近くに爆発物を投げ込んだとして起訴された被告に対する和歌山地方検察庁の検事の取り調べで、最高検察庁は不適正な取り調べがあったと認定しました。
検事は、被告が自宅に引きこもる生活をしていたことに触れたうえで、「かわいそう」などと発言したほか、目を閉じていた被告に「肯定なら目を開けて」とか「否定なら目を開けて」などという発言もしていたということです。
被告から連絡を受けた弁護士は、「明らかな人格攻撃で不適切な取り調べだ」として最高検察庁に抗議文を送っていました。
<東京地検>
3年前(2021年)、東京地検特捜部が捜査した詐欺事件で起訴された太陽光発電関連会社の社長が、逮捕されたあと、当時の担当検事に自白を迫られたり、罵倒されたりするなどの不当な取り調べを受けたと訴えている問題でも、最高検察庁は取り調べに不適正な点があったと認定しています。
<東京地検>
また、河井克行 元法務大臣が有罪判決を受けた5年前の参議院選挙をめぐる大規模買収事件では、任意の取り調べを受けた元広島市議会議員が東京地検特捜部の検事から不起訴にすることを示唆して買収の趣旨を認める供述をするよう促されたと訴え、最高検察庁は、去年12月、「不適正な取り調べだった」などとする調査結果をまとめています。
<横浜地検>
さらに横浜地方検察庁の検事が黙秘を続ける容疑者に「ガキだよね」などという発言を繰り返したことについて、東京地方裁判所はことし7月、黙秘権の保障の趣旨に反する違法な取り調べだとして、国に110万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。