6日の東京株式市場は、取り引き開始直後から全面高の展開となり、日経平均株価は、午前中、一時、3400円以上値上がりし、取り引き時間中として過去最大の上げ幅となりました。
日経平均株価は5日まで3営業日連続で値下がりし、下落幅が7600円あまりになっていたほか、東京外国為替市場でも円安ドル高が進んだことから、輸出関連の銘柄を中心に買い戻しの動きが広がりました。
▽日経平均株価の6日の終値は5日の終値より3217円4銭、高い3万4675円46銭で、終値としても1990年10月につけた2676円55銭を超えて過去最大の上げ幅となりました。
日経平均株価 一転して終値3200円余値上がり 過去最大の上げ幅
5日、日経平均株価の下落幅が過去最大となった東京株式市場。6日は一転して値下がりした銘柄を買い戻す動きが広がり、日経平均株価は終値で3200円あまり値上がりし、過去最大の上げ幅となりました。
終値 一転3200円余値上がり 上げ幅は過去最大
▽東証株価指数、トピックスは207.06上がって2434.21
▽1日の出来高は34億8088万株でした。
市場関係者は「アメリカ経済の先行きへの過度な警戒感はいくぶん和らいでいるものの、アメリカでは来週にかけて重要な経済指標が相次いで発表される。その内容を受けた円相場やアメリカの株価の動向が当面の株価を左右しそうだ」と話しています。
臨時会合を開催 三村財務官「急速なリスク回避の動き」
金融市場で株価の急激な変動が続く中、財務省と金融庁、それに日銀は臨時の会合を開きました。
この3者会合が開かれるのは、急速に円安が進んだことし3月以来です。
会合のあと財務省の三村財務官は記者団に対して「市場参加者の声を聞くと、海外の景気悪化の懸念のほか地政学的な緊張の高まりを背景にした急速なリスク回避の動きが世界的にあったと承知している。経済金融市場の動向について緊張感を持ったうえで、冷静に何が起きているのか見極めていくことが大事だという点で一致した」と述べました。
大阪取引所では「サーキットブレーカー」
株価が急激に上昇するなか、東証株価指数=トピックスの先物やオプション取り引きでも大量の買い注文が出て大阪取引所では午前9時56分から10分間、売買を一時中断する「サーキットブレーカー」と呼ばれる措置がとられました。
「サーキットブレーカー」は取り引きの混乱を避けるため、取引所が一時的に売買を止める措置です。トピックスの先物取り引きなどでは株価が記録的な急落となった5日も、「サーキットブレーカー」が発動されました。
《専門家の分析》
【元のトレンドに戻った 過度な悲観は不要】
最近の株価の動きについて、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「5日は、アメリカの景気の先行きへの不安、ハイテク株の下落、円高という3つの要因でパニック相場の様相だったが、5日夜に発表されたアメリカの経済指標が予想より良かったことで、アメリカの景気はそこまで悪くないという安心感が出て、大幅な上昇につながった」と分析しています。
今後、株価を左右しそうなポイントについては、アメリカで今後発表される経済指標と、FRBなど金融当局者の発言だとした上で「来週は消費者物価指数などが発表されるが、結果が市場の予想よりも良ければ、アメリカの景気の先行きへの不安が後退してアメリカの長期金利が上昇方向になり、為替は円安ドル高、日本株は上昇という流れも期待できる」と述べました。
その上で株価の見通しについて「日経平均株価はことし、4万円を超えるなどしてこれまでの上昇トレンドからかなり上振れしていたが、行き過ぎた上昇が調整されて元のトレンドに戻ったという程度で、過度に悲観する必要はない。日本経済は消費が少し弱い状態だが、けさ発表された実質賃金は久しぶりに前年比でプラスになっていて、今後もしっかりプラスになっていけば、デフレ脱却や消費回復の期待が高まるので、株価にとってかなり強い材料になる。国内で賃金・物価が上がり、資本効率の改善など企業の意識もかなり変わってきているので、相場が少し落ち着けば、こうした日本市場の変化を海外投資家などが再評価するのではないか」と指摘しています。
【正常な動きに変わっていくには時間が必要】
ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、最近の株価の動きについて「アメリカ経済に対する不安が高まる一方、円高ドル安が進んだため、これまでの株高・円安の中でNISAなどを通じて投資を始めた人などを中心に、売りが売りを呼ぶ展開となった。ただ、5日のニューヨーク市場では東京市場ほど株価が下がらず、投資家の間で、東京市場は下がりすぎだという見方が出て、6日は日本の株価が上がっている状況だ」と指摘しました。
その上で今後の見通しについて「先週金曜日に株価が下がり、月曜日は思いきり下がり、火曜日は上がるというどったんばったんの動きになっているが、総じて下がる傾向が続いている。その裏側には、注意しなければいけないニュースが出たときには株式の売りに動かざるを得ないという市場参加者の心理があると思う。正常な動きに変わっていくには時間が必要で、経済統計でいい材料がそろうことが必要になってくる」と話しています。
《日経平均株価 上昇の要因》
日経平均株価が過去最大の下落から一転、過去最大の上昇となった背景には主に2つの要因があります。
【アメリカ経済の警戒感和らぐ】
1つはアメリカ経済の先行きに対する警戒感が和らいだことがあります。
先週、アメリカでは、製造業の景況感を示す指数や雇用に関する経済統計などが発表されましたが、市場の予想を下回りました。
投資家の間では、それまで堅調と見られてきたアメリカ経済の先行きは一転、不透明になったといった受け止めが広がり、リスクを避けようと株式の売りが一気に膨らんで記録的な株安につながりました。
ただ、5日にアメリカで発表されたサービス業など非製造業の景況感を示す指数は、市場の予想を上回りました。
先行きに対する過度な警戒感はいくぶん和らぎ、値下がりした銘柄の買い戻しにつながりました。
【円高進行の一服】
2つめは為替市場の動きです。
アメリカ経済の先行きに対する警戒感がいくぶん和らいだことを背景に、外国為替市場では、売られていたドルを買い戻す動きも広がりました。
実際、5日は、一時、1ドル=141円台まで円高ドル安が進んでいましたが、6日になると、一時、1ドル=146円台まで値下がりしました。
これに伴って輸出関連の銘柄などへの買い注文も膨らみました。
記録的な急落のあとだけに、株価は反発するという見方はありましたが、アメリカ経済への見方と為替市場での円安方向の動きが、買い戻しの動きを後押しした形です。
《ニューヨーク株式市場 株価急落の背景》
ニューヨーク株式市場の株価急落の背景にはさまざまな要因が重なったと指摘されています。
【相次ぐ経済指標の悪化】
先週、アメリカでは弱い内容の経済指標が相次ぎました。全米の企業を調査する「ISM=供給管理協会」が1日に発表した製造業の「景況感指数」は先月46.8と、前の月から低下し市場予想も下回りました。
また、2日に発表された先月の雇用統計では、就業者数の伸びが市場の予想を大幅に下回ったほか失業率が4.3%と前の月に比べて0.2ポイント上昇しました。失業率の上昇は4か月連続です。
【“利下げ遅いのでは” との見方広がる】
市場ではFRB=連邦準備制度理事会が9月の会合で利下げに踏み切るとの見方が強まっていました。そこに弱い内容の経済指標が相次いだことで景気減速を避けるには9月の利下げでは遅すぎるのではないかとの見方が投資家の間で広がり、不安心理をかきたてたと指摘されています。
【ハイテク関連株の急落】
ことしのニューヨーク株式市場の株価上昇を支えてきたのはハイテク関連銘柄です。
アメリカの半導体メーカー、インテルが1日、赤字決算と人員削減を発表すると2日にはこの会社の株価が26%の急落となり、ほかのIT企業の株価下落にもつながりました。著名な投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイがIT大手アップルの株式を大量に売却したことも明らかになり、5日の株式市場の下落要因となりました。
【「キャリートレード」取り引きに逆転現象】
さらに指摘されているもう一つの大きな要因は、金利の低い円で資金を調達してその資金を投資に回す「キャリートレード」と呼ばれる取り引きに逆転現象が起きたことです。
主要国の中央銀行がインフレを抑え込むために利上げをするなか、日銀は数少ない超低金利政策を続けた中央銀行として世界にも知られ、円を活用した「キャリートレード」が活発に行われてきました。それが日銀の利上げと円高によって、この取り引きがうまく回らなくなり、円高による損失を穴埋めしようと株式を売る投資家が数多くいたと市場関係者は話しています。
アジアとオセアニア市場でも上昇
アジアとオセアニアの株式市場でも5日、株価が大幅に下落しましたが、6日は各地で買い戻しの動きが出ています。
このうち、韓国と台湾は、代表的な株価指数の5日の終値が先週末の終値と比べて8%を超える大幅な下落となりました。
6日は買い戻しの動きが出ていて日本時間の午前11時の時点で
▽韓国がきのうの終値と比べて3.4%値上がり
▽台湾では0.3%値上がりしています。
このほか
▽中国の上海でおよそ0.3%
▽オーストラリアのシドニーでおよそ0.2%値上がりしています。
市場関係者は「東京市場できょうは一転して大幅に買い戻されている流れを受けて、アジア各地の市場でも取引開始直後から株価は上昇している。ただ投資家の間でアメリカの景気の先行きへの警戒感は根強く、当面は荒い値動きが続きそうだ」と話しています。
ヨーロッパ市場 警戒感が根強く
6日のヨーロッパの株式市場は、東京市場での大幅な株価上昇などを受けて買い戻しの動きは見られるものの株価の急落を回避しようと売る動きもあり、市場の警戒感が根強くなっています。
前日5日のヨーロッパの株式市場は、アメリカの景気減速への懸念からリスクを回避しようという姿勢が強まり、ロンドン市場では先週末の終値と比べて2%を超える下落となるなど、各国で株価が値下がりしました。
株価指数は、日本時間の午後6時の時点でロンドン市場でほぼ横ばいとなったほか、パリ市場では0.5%下落し、フランクフルト市場でもわずかに値下がりするなど、市場の警戒感が根強くなっています。
市場関係者は、「投資家の不安心理を表すとされるVIX指数が一時、大幅に上昇したが、ヨーロッパの市場関係者の間ではパニックのような状態で株が売られることへの警戒感は根強く、株価が大きく上昇する状況にはない」と話しています。
証券会社に問い合わせ相次ぐ
証券会社には今後の経済や株価の見通しなどに関する個人投資家からの問い合わせが相次ぎました。
東京・中央区の証券会社にあるコールセンターには、5日に続いて6日も客からの問い合わせが相次ぎおよそ20人の社員が対応にあたっていました。
過去最大の下げ幅となった5日は、株の売り注文が相次ぎましたが、6日は買い注文に加えて、上昇した今のうちに株を売るべきかどうかを尋ねる問い合わせが多かったということです。
岩井コスモ証券東京コールセンターの本間大樹センター長は「この2日間で株価が大幅に変動したことで個人投資家の不安や戸惑いが強くなっていると感じる。NISAの拡充でことしから投資を始めた人も多いので、中長期的な視点をもって冷静に対応するよう伝えている」と話していました。
岸田首相「緊張感を持って注視」
岸田総理大臣は、広島市で開いた記者会見で「けさ発表の6月の実質賃金は27か月ぶりのプラスとなった。春闘では賃上げ率で高水準の数字が示され、最低賃金も過去最大の上げ幅となった。また過去最大の設備投資が行われ、企業収益もあがっており、日本経済は、新たなステージへの力強い移行が続いていると認識している」と述べました。
その上で「株価はきょうもまた動いており、こうした状況を冷静に判断していくことが重要と考えている。引き続き緊張感を持って注視するとともに、日銀と密接に連携しつつ、経済財政運営を進めていきたい」と述べました。
鈴木金融担当相「市場動向把握・分析 冷静に判断」
鈴木金融担当大臣は6日開かれた全国財務局長会議のあいさつの中で「足もと、金融市場において株価が大きく変動しているが市場動向などの把握・分析を実施して関係機関と連携をとる体制を整えたところだ。政府としては今後、現状を冷静に判断するとともに日銀とも連携しつつ経済財政運営に万全を期していく」と述べました。
齋藤経産相「日本経済のファンダメンタルズ悪くない」
金融市場での株価の急激な変動について、齋藤経済産業大臣は大阪市内で記者団に対し「経済産業省としては高いとか安いとか、コメントは控えるが、実質賃金が27か月ぶりのプラスになるなど、日本経済のファンダメンタルズは決して悪くない」と述べ、日本経済の状況は悪くないという認識を示しました。
そのうえで「力強い投資や賃上げの動きを続けていくためにも、今が正念場だと思っている。経済産業省としても緊張感を持って、金融市場や産業の動向を注視し、積極的な産業政策を手を緩めずに展開したい」と述べました。
自民 立民 財務金融委開催で合意
自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が国会内で会談し、立憲民主党側は「ここまでの日銀の金利政策や政府の対応について説明を受ける必要がある」として、国会で閉会中審査を開くよう求めました。
そして両党は、今月中にも、鈴木財務大臣や日銀の植田総裁の出席を求めて、衆議院の財務金融委員会の閉会中審査を開くことで合意しました。
具体的な日程については、市場の動向も見ながら、引き続き調整するとしています。
自民・御法川国対委員長代理「世界経済の中でどうなのか注視」
自民党の御法川国会対策委員長代理は、会談のあと記者団に対し「日本だけの話ではなく、世界経済の中でどういうことになっているのかを注視していく必要がある。開催時期については、あまり遅くなるとタイミングを逸してしまうのでそのあたりを考えながら決めていきたい」と述べました。
立民・安住国対委員長「植田総裁から説明を」
立憲民主党の安住国会対策委員長は「新たなNISAも始まり、政府が投資を積極的に働きかける中、株価の乱高下を不安に思っている国民も多い。日本経済を取り巻く環境について政府がどう考えているのか、日銀がこの先どうしていくのか国会で審議することは有意義だ」と述べました。
その上で「ゼロ金利から金利のある世界に大転換を図ったので、日銀の植田総裁からしっかり聴取したい。政策的に間違っているという話ではなく、きちんと説明してもらった方がいい。市場にお盆はないので今週から来週の早い段階で閉会中審査を行うべきだと申し上げたが、日程は今後、調整していく」と述べました。
自民・茂木幹事長「冷静な対応が必要」
自民党の茂木幹事長は「日々の株価の変動にすぐに反応するのではなく、冷静な対応が必要だ。マーケットとのコミュニケーションも必要であり、大きなトレンドの中で必要があれば対策を打つべきだ」と述べました。
維新・馬場代表「新産業 損失を受けないよう」
日本維新の会の馬場代表は「株価が上下することは常にあることだが、経済に大きな影響を与える。損か得かという話ではなく、株をベースに資金調達しているスタートアップの事業者などがいるので新しい産業や経済をつくるため意欲を燃やす人が損失を受けないよう政治は常に考えていかなければならない」と述べました。
立民・泉代表「政府・日銀の説明十分だったか検証を」
立憲民主党の泉代表は「アメリカの雇用統計や為替の状況などさまざまな要因があり、株価の上下動が激しいことは時としてある。一方で、今回の利上げの経過について、政府・日銀による説明が十分であったかは、国会でしっかりと議論し検証すべきだ。どういった意図で金融政策を行っているのか国民に知ってもらうことにより、市場の安定性を高めていくことが重要だ」と述べました。
公明・山口代表「国民経済にどう影響及ぼすか注意し検討」
公明党の山口代表は「アメリカの景気動向や日本のさまざまな政策が影響を与えている可能性もある。国民経済や企業の行動にどう影響を及ぼしていくか、要因もしっかり分析しながら国民の生活が支えられるようにしたい。新たな経済成長の力を生み出していこうと政府・与党で取り組んでいるさなかに、マイナスの影響を受けないよう注意しながら検討していきたい」と述べました。
共産・田村委員長「閉会中審査 首相の出席求めたい」
共産党の田村委員長は「アベノミクス以来の、株価を引き上げればいいという政策が破綻したことのあらわれだ。急落したあと少し揺り戻しがあったとしても経済政策を根本的に転換しなければ、混乱と行き詰まりから脱却できない。実体経済をよくしていくための経済政策に本気で取り組まなければならない。国会の閉会中審査には岸田総理大臣の出席を求めていきたい」と述べました。
国民・玉木代表「連続して金利上げる状況でない」
国民民主党の玉木代表は「日銀の植田総裁が引き続き金利を上げ続けるというメッセージを出したのは少し早すぎたのではないか。日銀が政治にそんたくして、利上げを急いだとしたら問題なので、その点は国会で閉会中審査をして確認していくべきだ。少なくとも連続して金利を上げていくような状況ではないというメッセージはどこかで出すべきだ」と述べました。