東村山問題まとめ 主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その2
ここでは主な裁判の判決文を、その論点に対する各裁判所の判断が比較できるような形で掲載しています。
初心者用まとめ
主要裁判の経緯・論点・判決結果
これらと併せてお読み下さい。
また文字数制限の関係から判決文のすべてを掲載することができず、一部抜粋の形であっても限度を超えてしまったため、いくつかに分けて掲載します。
主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その1
主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その2
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『週刊新潮』裁判 東京地裁(平成13年5月18日――控訴せず)
<論点=転落死について>
(新潮社の主張に対する判断)判決文14頁
被告らは、本件各記事は、原告が本件転落死そのものに関与したとの報道をしたものではなく、また、そのような印象を与えるものでもなく、本件転落死の各種周辺事情(一連の裁判で矢野・朝木が「疑いを抱かせる事件」として挙げた多くの出来事と共通)を報じたものにすぎない旨主張するが、以上に説示した本件各記事の内容からみて採用することはできない。
(争点について)判決文14頁
⑴……したがって、被告らが、抗弁として主張・立証すべき事項は、亡朝木の不自然な死に原告が関与したことが真実であること、又は、被告らが亡朝木の不自然な死に原告が関与したことが真実であると信じるについて相当の理由があったことである。しかし、この点についての主張・立証はない。
被告らは、原告と本件転落死自体との関係ではなく、本件各記事のうち名誉毀損部分として特定された本件転落死前の各種周辺事情に関する具体的時術の真実性・相当性の立証で足りると主張するが、上記説示に照らして、かかる主張は採用することができない。
⑵なお、本件各記事は、亡朝木の本件転落死は自殺ではなく、また、亡朝木らに対し数々の嫌がらせや脅迫が続いていたとして、……多くの事実を指摘している。
しかしながら、これらの事実のすべてが真実であるとの証拠はなく、仮にすべてが真実であったとしても、それだけで亡朝木の本件転落死自体に原告が関与していたと推認することはできない。また、これらの周辺事情があったとてしも、当時から東村山警察署は本件転落死は事件性は薄いと発表しており、また、本件転落死そのものと原告との直接の結び付きを示す事実があったとの証拠はないから、被告らが、本件転落死に原告が関与していると信じたとしても、相当の理由があったと認めることはできない。
『潮』裁判 東京地裁(平成14年3月28日)
<論点=万引き>
判決文43頁
⑸万引き事件部分の真実性又は相当性
まず、亡明代が本件窃盗被疑事件の犯人であるかどうかについて検討すると、前記⑶で認定した事実によると、同事件発生の直後においていったん身柄を確保されたA女の身体から盗品となるTシャツが発見され、同女は被告戸塚の制止を振り切って逃亡したというのであるから、窃盗被害の発生の事実自体及びA女がその犯人であることは優に認めることができ、A女と亡明代の同一性については、被告戸塚自身が以前から亡明代と面識があること、被告戸塚以外に、少なくとも、通りすがりの通行人1名によりA女が亡明代であるとの供述がされていることにかんがみると、A女と亡明代の同一性を推定するに足りるとも考えられる。また、その後に亡明代から主張された当日のいわゆるアリバイが根拠のないものであり、かつ、そのアリバイが意図的に作出されたとみる余地も十分にあること等の事情も考慮すると、その可能性は相当程度に達するものと思われる。
しかしながら、他方、亡明代は本件窃盗被疑事件の当時市議会会議員であって、格別生活に困窮していた事実は認めることができないところ、本件窃盗被疑事件の被害品はTシャツなのであって、亡明代においてこのような低価格の日常品を窃取する動機に乏しいこと等の事情を考慮すると、上記のような事情を考慮しても、なお亡明代を本件窃盗被疑事件の犯人と断定するに足りないというべきである。
(被告戸塚の発言内容の真実性について)判決文48頁
被告戸塚の発言内容は、……平成7年6月19日に本件洋品店でTシャツの万引きがあり、その犯人は亡明代に間違いないというものである。そして、被告戸塚が本件窃盗被疑事件について認識していた内容は前記2⑶に認定したとおりであるから、被告歯と塚としては自らが認識している事実を歪曲したり、誇張して話したことを窺わせる証拠はない。……被告戸塚がこのような認識に至ったことについては、被告戸塚の届出を端緒として捜査が進められ、他の目撃者からの事情聴取の結果等を含めて、東村山署においても本件窃盗被疑事件は亡明代によるものと認めて、検察官に事件を送致したことに照らすと、被告鳩塚に勝手な思い込みや不注意といった過失があったとは認められないものである。してみると、本件窃盗被疑事件が現職の市議会議員であった亡明代による窃盗事件であると認識した被告戸塚が、自ら認識するところをありのままに正直に話した行為は、何ら違法ということはできない。
<論点=アリバイ工作>
判決文43頁
……亡明代から主張された当日のいわゆるアリバイが根拠のないものであり、かつ、そのアリバイが意図的に作出されたとみる余地も十分にある
判決文44頁
⑹アリバイ工作部分の真実性又は相当性
アリバイ工作部分のうち、亡明代に関する部分の主要部分は、亡明代があえて虚偽のアリバイを主張し、虚偽のレシートを提出したことであるところ、前記⑶のとおり、亡明代が提出した本件レシートは、亡明代らのものではなかったことが認められるから、本件レシートによるアリバイの主張そのものには根拠がないことが明らかであるものの、他方、本件窃盗被疑事件が発生したとされる当時、亡明代が本件レストランにいたとのアリバイが虚偽であったとまでは認めるに足りないから、このアリバイの主張が意図的に虚偽の事実を主張したものとまで認めることはできない。また、原告矢野に関する部分の主要部分は、原告矢野が、上記亡明代による虚偽のレシート提出に関わったことであるところ、前記⑶の事実を総合しても、同事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(万引きとアリバイに関する千葉発言に対する判断)判決文49頁
⑵千葉発言は、……その時期の点も含めて、捜査結果を踏まえた結果であり、……千葉の発言が違法であるということはできない。
『潮』裁判 東京高裁(平成14年11月13日)
<論点=アリバイ工作>
判決文20頁
⑵アリバイ工作部分の真実性及び相当性
……原判決の認定事実によれば、平成7年6月19日午後3時15分ころ戸塚の経営する洋品店「スティル」でTシャツを万引きした人物は亡明代ではないかとの疑いが相当の根拠をもって投げかけられるところであり、そきような疑いが、ひいては、万引きがあったとされる時刻に、亡明代がレストラン「びっくりドンキー東村山店」で控訴人と食事をしていたとのアリバイ主張が虚偽ではないかとの疑いを招くのであり、かつ、そのアリバイの裏付けとして同店から提出を受けたとするレシートの写しも虚偽のものであるとの疑いが相当程度濃厚であるというべきであるが、それでも、控訴人が亡明代による虚偽のアリバイ主張や虚偽のレシート提出に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(万引きとアリバイに関する千葉発言に対する判断)判決文22頁
千葉発言は、……その時期の点も含めて、捜査結果を踏まえた結果であり、アリバイ工作部分についても、いまだ控訴人に対する事情聴取に着手していない段階にあったが、その間に行われた亡明代に対する事情聴取の際の亡明代の弁解や同女と控訴人との関係、本件窃盗被疑事件についての控訴人の言動等から、亡明代によるアリバイ主張やレシートの提出行為に関して、控訴人が何らかの形で関与しているものとの感触を得ていたことが認められるのであり、……千葉の発言が違法であるということはできない。
『潮』裁判 東京地裁(平成14年3月28日)
<論点=転落死>
判決文45頁
⑺自殺事件部分の真実性又は相当性
……こうした事情からみると、亡明代の死因が自殺であるとみる余地は十分にあるというべきである。
しかしながら、他方で、証拠及び弁論の全趣旨によれば、司法解剖の結果、亡明代の左右の上腕内側部に皮膚変色が認められたこと、草の根事務所の鍵が、平成7年9月2日夕方になってから、本件マンションの2階踊り場付近で発見されたこと、亡明代の靴が未だ発見されていないこと、亡明代が平成7年8月において本件窃盗被疑事件が冤罪であると主張して、徹底的に闘う決意を表明していたこと、亡明代が本件死亡事件の直後に高知市において講演会を予定していたことが認められる。
これらの事実を総合すると、なお亡明代が自殺したとの事実が真実であると認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、前記⑷のとおり、被告井原は、本件記事の作成より以前に本件死亡事件について、本件マンションに赴いて亡明代が自殺したという事実と矛盾するようにみえる亡明代の悲鳴を聞いた人物の存否を探索し、また亡明代が落下した地点が踊り場の真下であること等を確認したこと、千葉を取材して東村山署が本件死亡事件を自殺と断定した旨を聞いたこと、また嘉数医師を取材して、同医師が「足を下にして落下したとは考えられません」とは発言していないことを確認したことが認められるのであり、これらの事実を総合すると、被告井原が現に行った取材の経過及び結果は、亡明代の死亡原因が自殺であることを裏付けるに足りるから、亡明代が自殺したと信じたことには相当の理由があると認められる。
『創価新報』裁判 東京地裁(平成15年3月10日)
<論点=万引き>
判決文33頁~35頁
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
ア 本件窃盗被疑事件の発生
(ア)平成7年6月19日午後3時20分ころ、戸塚から東村山署東村山駅前交番に対し、明代による万引きの被害にあったとの届出があった(本件窃盗被疑事件)。
被害届受理の報告を受けた東村山署は、捜査官を現場に臨場させ、戸塚からの事情聴取、被害場所の実況見分等を実施し、概ね以下の通りの事実を把握するに至った。
(イ)平成7年6月19日午後3時15分ころ、戸塚は、洋品店内において店番をしていたところ、一人の女性が、同店の店頭に立ち寄った。その際、戸塚は、本件女性について、当時現職の東村山市議会議員で選挙ポスターを見ることにより人相をよく知っていた明代であると認識した。
戸塚が、同店の店頭に設置されている防犯ミラーで注視していたところ、本件女性が、店頭に吊るしてあった黒いTシャツのビニールカバーをたくし上げて、Tシャツをハンガーから外すと、これを小さく折り畳んで、脇の下に隠して歩き去るのが分かった。戸塚は、直ちに店を飛び出して、本件女性を追跡し、本件女性を呼び止めて万引きの事実について追及したところ、本件女性は盗んでいないと犯行を否認した。そこで、戸塚は、脇の下に隠された商品を確認するため、本件女性に両手を上げさせたところ、本件女性の脇の下から、商品である黒いTシャツが落ちた。戸塚が追及したところ、本件女性は、知らないと言って、イトーヨーカ堂の店内へ逃げ込んだ。
戸塚は、本件女性にイトーヨーカ堂に逃げ込まれてしまったことと、本件洋品店に客だけ残してきたことが心配になったことから、追跡を断念して洋品店に戻った。戸塚と本件女性とのやりとりを目撃していた客と通りすがりの者が、戸塚に対し、被害届を出すように促すとともに、本件女性が明代であることの証人になることを約束したので、前記のとおり明代による万引きの被害にあったと届け出た。
(ウ)東村山署は、戸塚の供述から、明代が本件窃盗被疑事件を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認めたが、さらに、事件の目撃者について捜査したところ、当日、客として本件洋品店に居合わせて本件窃盗の犯行状況を目撃した者、通りすがりに戸塚と明代のやりとりを目撃した者など3名の目撃者がいたことが判明し、そのうちの2名からも事情を聴取したところ、戸塚の供述が裏付けられた。
そこで、東村山署は、明代に出頭を求めることとし、平成7年6月30日、同年7月4日及び12日の3回、明代を本件窃盗被疑事件の被疑者として取り調べた。
(エ)明代は、6月30日の取調べにおいて、犯行を否認するのみであったが、7月4日の取調べにおいて、犯行を否認するとともに、犯行があったとされる時間には、原告矢野とともに本件レストランで食事をしていたとのアリバイを申し立て、その裏付けとして本件レシートを任意提出した。
明代は、同月12日の取調べにおいて、被害日時とされる午後3時過ぎには本件洋品店に行っていないと申し立て、本件支店のキャッシュサービス取引明細、本件レストランの店内見取図、本件レシート写しに日付等を記載した上、署名捺印して提出した。そして、明代は、6月19日当日の行動につき、a午前10時15分ころから午前11時7分まで東村山市議会建設水道委員会に出席し、続いて、午後零時過ぎまで総務委員会を傍聴し、その後、午後2時ころまで、原告矢野とともに、東村山市役所内の草の根市民クラブの議員控室において、次回の本会議における一般質問のための準備をしていた、b午後2時過ぎに原告矢野と食事をするため、二人で自転車で本件レストランに行く途中、本件支店に立ち寄り、東村山市民新聞の折込料を振り込んでおり、その際のキャッシュサービス取引明細書によると、振込時間は午後2時12分となっている、c午後2時30分前後に本件レストランに着き、二人とも当日のサービスランチを注文した、d本件レストランには、その後コーヒーを飲みながら1時間近くいて、代金は二人別々に支払った、e本件レシートの時刻の印字からすれば、店を出たのは午後3時21分ころだったと思うなどと供述した。
そこで、白石警部は、上記明代の供述を録取した後、検察官に送致することを告げたところ、明代は、アリバイがあり、犯人でもないのに、検察庁へ送致するのはどういうことかなどと言って、署名押印を拒否して退去した。
<論点=アリバイ工作>
判決文33頁(再掲)
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
判決文35頁~37頁(前項のつづき)
(オ)東村山書は、明代がアリバイを主張した7月4日以降、アリバイについて裏付け捜査を行ったところ、明代が供述したとおり、東村山市議会においては、6月19日午前10時28分から午前11時7分まで建設水道委員会、午前10時56分から午後零時1分まで総務委員会が開催されたこと、本件支店キャッシュサービスコーナーに備え付けられた監視カメラのビデオテープを再生したところ、同日午後2時9分19秒から午後2時12分57秒までの間の映像から、明代がキャッシュサービスの機械を利用していることがそれぞれ確認できた。
しかし、本件レストランの店長らに事情聴取したところ、a本件レストランの店長は、6月30日の夜、年輩の女性から、電話で6月19日午後3時ころに店でランチとコーヒーを二人分注文しているので、レシートの写しを欲しい、と頼まれ、ランチの種類と座ったテーブルの位置について尋ねると、「たぶん日替わりランチです。」と曖昧に答えるとともに、座ったテーブルの位置については何も答えず、とにかくレシートの写しが欲しいと求められたこと、b同店長は、7月1日、札幌の本社あてに上記説明に該当するようなレシートの送付を依頼したところ、同日夜、本件レシートがファックスにより送信されてきたこと、c同店長は、同月2日の深夜、来店した男女4人連れのうち、年齢40歳から50歳位の女性に本件レシートを手渡したこと、d同店長が、札幌の本社から本件レシートに該当する伝票を取り寄せて確認したところ、該当の客が座った場所は17番テーブルで、同テーブルには、午後1時29分に日替わりランチが注文され、もう一人の客が同席した後、午後1時32分に日替わりランチの注文が取り消され、レギュラーランチ2個とコーヒー2杯が注文されていたこと、e該当の客を担当したのはアルバイトの女性店員であり、同店員は、17番テーブルに座った45歳から50歳位の女性から、まず日替わりランチの注文を受けたが、厨房に行くと品切れであることが分かったため、その旨を伝えにテーブルに戻ると、もう一人の同年輩の女性が座っていたので、日替わりランチの終了を告げるとともに、改めて注文を取り直し、レギュラーランチ2個とコーヒー2杯の注文を受けたと記憶していること、以上の事実が判明した。
そして、本件レシートの記載、上記伝票及び本件レストランの店長からの事情聴取によれば、17番テーブルに座った客は、女性の二人連れである上に、6月19日午後1時29分ころから午後3時21分ころまでの間本件レストランにいたことになり、明代が、同日午後2時30分前後に原告矢野とともに本件レストランに入店し、午後3時21分ころまでいたなどと供述していることと一致せず、千葉は、本件レシートが明代のアリバイを裏付けるものではないと判断した。
(カ)千葉は、以上の捜査の結果、被害者である戸塚の目撃供述のほかに、3名の目撃者がおり、明代の主張するアリバイを裏付ける根拠もなく、これを信用することができないとして、明代を本件窃盗被疑事件の被疑者と認め、自らの判断で同事件を検察官に送致するよう指示し、署長の決済を得た上で、7月12日、本件窃盗被疑事件を東京地検八王子支部に送致した。
<論点=自殺>
判決文33頁(再掲)
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
判決文38頁~41頁(前項のつづき)
イ 本件死亡事件の発生
(ア)東村山駅前交番勤務の巡査長は、平成7年9月1日午後10時42分ころ、本件ハンバーガー店のアルバイト店員から、「店のビルの裏にあるごみ置き場に女性が倒れている。」との通報を受けた。前記巡査長が、救急車の派遣を要請しながら、同店員とともに本件万ヒョンの北側外階段下にあるごみ置き場に赴くと、本件ハンバーガー店の店長がいて、その傍らに年齢50歳くらいの女性が倒れていた。前記女性は、午後10時56分ころ事件現場に到着した救急車により防衛医科大学病院へ搬送されたが、翌日の9月2日午前1時ころ死亡が確認された(本件死亡事件)。
(イ)千葉は、同日午前1時ころ、自宅で本件死亡事件の第一報を受け、直ちに本件現場に赴いて、警察犬や現場鑑識を要請し、検察官に連絡を取るなど、以後の捜査指揮に当たるとともに、東村山書において実施された死体の検案に立ち会うなどして、本件死亡事件につき、事件、事故の両方の観点から捜査を開始した。千葉は、その間の同日午前4時45分過ぎには、原告直子や原告矢野らの確認を得て、死亡者が明代であることを確認していた。
(ウ)千葉は、本件ハンバーガー店の店長や店員らから明代の発見状況等を聴取したところ、a9月1日午後10時ころ、本件ハンバーガー店の店員が一度ごみ置き場に行き、人が横になっているのを見かけたが、酔っ払いではないかと思い気にとめず、店に戻ったこと、b午後10時30分ころ、本件ハンバーガー店の店長が本件現場に行ったところ、血を流して倒れている明代を発見したこと、c同店長が、何度か「大丈夫ですか。」と声をかけたところ、明代はその都度「大丈夫。」と答えるとともに、店長が「落ちたのですか。」と尋ねたのに対し、左右に顔を何度も振りながら「違う。」とはっきり否定したほか、本件ハンバーガー店の店員が「救急車を呼びましょうか。」と申し出たのに対して、「いいです。」と答えたこと、d本件マンションの北側路面に設置されている鉄製フェンスが、明代を発見する前には異常がなかったのに対し、明代を発見した時点では大きく折れ曲がっていたこと等の事実が判明した。
(エ)千葉は、本件死亡事件について、以上の初動捜査を終了した9月2日午前7時ころ、検察官、検視に立ち会った医師、死体の状況、関係者の供述などを総合して検討した結果、事件性は薄いとの判断を下した。……
(オ)東村山署は、その後、引き続き捜査を遂げた結果、a事件発生前後に、現場付近で争うような声や物音などを聞いた者がなく、本件マンションの5階から6階に至る非常階段の壁に明代のものと思われる手指痕跡が発見され、他に争った痕跡がなく、落下現場の鉄製フェンスが上記手指痕跡の真下で折れ曲がっているなど、他人に突き落とされたとすると不自然であるという現場の状況、b明代が、「落ちたのですか。」という問いに「違う。」、「救急車を呼びましょうか。」という問いに「いいです。」と答えたこと、c明代に、墜落によるものと認められる創傷以外の防御創傷がないこと、d明代の死因が多発性肋骨骨折、肺損傷、左右腓骨骨折、左脛骨骨折等による出血性ショック死であり、執刀医の所見が「右側全身に認められる損傷は人力では不可能であり、墜落による損傷とみて矛盾がない。」というものであること、e明代の悲鳴及び墜落した音を聞いた本件マンションの住民が、その際に人が争う等の気配は全くなかったと供述していること等の捜査結果に基づき、他人が介在する状況にはなく、犯罪性がないと判断するに至った。そこで、東村山署長は、平成7年12月22日、「他人が介在した状況はなく、犯罪性はないと認定した。」という意見を付して、被疑者不詳の殺人事件として、東京地検八王子支部検察官に送致し、その旨の発表を行った。
石井事件裁判 東京地裁八王子支部(平成12年2月16日)
<論点=矢野らの主張する "創価に狙われていた事実" についての真実性>
判決文6頁~8頁
右認定した事実によると、原告が被告を本件暴行の犯人である旨断じた根拠は専ら原告の記憶にあるというのであるが、記憶の曖昧さは経験則上明らかであるから、仮にも公職にある者がこの曖昧な記憶に基づき、しかも司法警察職員による捜査がなされながら刑事訴追の手続きが執られていない被告を名指しで犯人であると断定している点において極めて特異であると言わねばならない。
二 そこで、改めて原告の記憶の正確さについて検討する。
原告は、記憶にある犯人の特徴を「茶髪」「顎がしゃくれている猿顔」「浅黒い肌」「甲高い声」の4点を挙げているが、「茶髪」「浅黒い肌」「甲高い声」の3点は際立った特徴と言える程のものではなく、現にこの点についての原告の供述は漠然としたものでそのように認識したという程度に過ぎない。
結局、原告が挙げている犯人の特徴というのは「顎がしゃくれている猿顔」ということになり、その特徴を正確に表現することは困難なのであろうが、法廷での印象では、被告の顔だちに際立った特徴があるとは思われない。
そうすると、犯人の特徴が際立っていたから原告の記憶に信頼がおけるなどという状況にはなかったのであるから、ほかに裏付け証拠の全くない本件では原告の記憶の正確さには極めて疑問があると言わねばならない。
更に、原告は被告が創価学会員であったことを犯人であることの証拠として挙げるが、創価学会員であることから直ちに被告の犯行と結び付ける論理の乱暴さはともかく(原告は、共に活動していた朝木明代議員の死に疑問が多々あるとして多数の証拠らしきものを提出しているが、仮に朝木議員の死に疑問があるとしても何ら被告と本件暴行とを結び付けるものではない)、被告が創価学会員であることを示す証拠として、原告が挙げる創価学会の側に立って日蓮正宗の僧を排撃する文書に被告の母名義の署名が認められることは被告の供述と対照するまでもなく何ら被告と創価学会との関係を疑わせることにはならないし、ほかにそのような関係を疑わせるに足りる的確な証拠はない。
石井事件裁判 東京高裁(平成12年11月29日)
<論点=矢野らの主張する "創価に狙われていた事実" についての真実性>
判決文
原判決二に、三として次の判決理由を追加。
三 控訴人は、警察に被控訴人を犯人として通報した翌日の9月22日の午後、控訴人事務所近くのゲームセンター入口付近路上において、また、同年10月4日の午後1時すぎごろ、控訴人自宅のある団地内の公園において、被控訴人から待ち伏せされた上、睨み付けられるなどの脅迫を受けた旨述べる。
しかしながら、控訴人主張の日時場所において控訴人が被控訴人と遭遇したことは認められるが(控訴人及び被控訴人の供述。遭遇した事実は当事者間に争いがない。)、被控訴人は控訴人と同一の町内に居住する当時17歳の有職少年であり、遭遇場所であるゲームセンターや団地内公園は被控訴人ら仲間の少年達のたまり場であったことなどにかんがみると、右遭遇自体は不自然な事とは言えず、被控訴人が控訴人を待ち伏せしていたものということはできないし、被控訴人が右遭遇の際、控訴人に対し脅迫等の不法行為に及んだ事を認めるに足りる証拠もない。
『月刊タイムス』裁判 東京地裁(平成15年11月28日)
<論点=万引きについて>
判決文31頁(真実性)
被告戸塚が犯人と亡明代の同一性を間違える可能性は極めて低く、目撃者も3名存在することから、本件窃盗被疑事件の犯人は亡明代でではないかとの疑いが相当の根拠をもつものということができる。
<論点=アリバイ工作>
判決文32頁(真実性)
原告矢野が、4通もの詳細な陳述書を提出し、本人尋問において供述もしているにもかかわらす、本件レストランにおいて亡明代と食事をした際の状況について具体的に述べないのは不自然であることといった、亡明代が虚偽のアリバイ主張をしていたことをうかがわせる事情が存在することは、否定できない。
判決文32頁(真実性)
しかしながら、前記⑶認定の事実、原告矢野が亡明代とともに政治活動をしていた事実、及び原告矢野と一緒に本件レストランで食事をしていたという上記アリバイの内容を併せ考慮しても、原告矢野が亡明代の虚偽のアリバイ工作に関与したとまで認定することは、難しいといわざるを得ないのであって、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
判決文32頁~33頁(相当性)
原告矢野が日頃亡明代とともに政治活動をしており、被告宇留嶋も当然これを認識していたと認められること、及び原告矢野と一緒に本件レストランで食事をしていたという上記アリバイの内容に照らせば、被告会社らにおいて、原告矢野が亡明代の虚偽のアリバイ工作に関与したと信じるにつき相当の理由があったと認められる。
<論点=自殺の原因について>
判決文34頁(真実性)
前記⑶で認定した現場の状況、亡明代の死亡直前の言動、死体の状況及び関係者の供述を総合考慮すると、亡明代が自殺したことを裏付ける事情が存在することは確かである。
しかしながら、他方で、証拠及び弁論の全趣旨によれば、司法解剖の結果、亡明代の左右上腕内側部に皮膚変色が認められたこと、亡明代の事務所の鍵が、平成7年9月2日夕方になってから、本件マンションの2階踊り場付近で発見されたこと、亡明代の靴がいまだに発見されていないこと、亡明代が同年8月において本件窃盗被疑事件が冤罪であると主張して徹底的に闘う決意を表明していたことが認められ、これらの事実に照らせば、なお亡明代が自殺したことを裏付けるにはなお疑問が残るところであり、上記亡明代が自殺したことを裏付ける事情をもって、自殺を推認するに足らず、他に亡明代が自殺したと認めるに足りる証拠はない。
判決文34頁(相当性)
被告会社らにおいて、亡明代が、原告矢野の関与のもとに主張していたアリバイも虚偽であることが判明し、本件窃盗被疑事件を苦に自殺したことが真実であると信じるにつき相当な理由があったと認められる。
初心者用まとめ
主要裁判の経緯・論点・判決結果
これらと併せてお読み下さい。
また文字数制限の関係から判決文のすべてを掲載することができず、一部抜粋の形であっても限度を超えてしまったため、いくつかに分けて掲載します。
主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その1
主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その2
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『週刊新潮』裁判 東京地裁(平成13年5月18日――控訴せず)
<論点=転落死について>
(新潮社の主張に対する判断)判決文14頁
被告らは、本件各記事は、原告が本件転落死そのものに関与したとの報道をしたものではなく、また、そのような印象を与えるものでもなく、本件転落死の各種周辺事情(一連の裁判で矢野・朝木が「疑いを抱かせる事件」として挙げた多くの出来事と共通)を報じたものにすぎない旨主張するが、以上に説示した本件各記事の内容からみて採用することはできない。
(争点について)判決文14頁
⑴……したがって、被告らが、抗弁として主張・立証すべき事項は、亡朝木の不自然な死に原告が関与したことが真実であること、又は、被告らが亡朝木の不自然な死に原告が関与したことが真実であると信じるについて相当の理由があったことである。しかし、この点についての主張・立証はない。
被告らは、原告と本件転落死自体との関係ではなく、本件各記事のうち名誉毀損部分として特定された本件転落死前の各種周辺事情に関する具体的時術の真実性・相当性の立証で足りると主張するが、上記説示に照らして、かかる主張は採用することができない。
⑵なお、本件各記事は、亡朝木の本件転落死は自殺ではなく、また、亡朝木らに対し数々の嫌がらせや脅迫が続いていたとして、……多くの事実を指摘している。
しかしながら、これらの事実のすべてが真実であるとの証拠はなく、仮にすべてが真実であったとしても、それだけで亡朝木の本件転落死自体に原告が関与していたと推認することはできない。また、これらの周辺事情があったとてしも、当時から東村山警察署は本件転落死は事件性は薄いと発表しており、また、本件転落死そのものと原告との直接の結び付きを示す事実があったとの証拠はないから、被告らが、本件転落死に原告が関与していると信じたとしても、相当の理由があったと認めることはできない。
『潮』裁判 東京地裁(平成14年3月28日)
<論点=万引き>
判決文43頁
⑸万引き事件部分の真実性又は相当性
まず、亡明代が本件窃盗被疑事件の犯人であるかどうかについて検討すると、前記⑶で認定した事実によると、同事件発生の直後においていったん身柄を確保されたA女の身体から盗品となるTシャツが発見され、同女は被告戸塚の制止を振り切って逃亡したというのであるから、窃盗被害の発生の事実自体及びA女がその犯人であることは優に認めることができ、A女と亡明代の同一性については、被告戸塚自身が以前から亡明代と面識があること、被告戸塚以外に、少なくとも、通りすがりの通行人1名によりA女が亡明代であるとの供述がされていることにかんがみると、A女と亡明代の同一性を推定するに足りるとも考えられる。また、その後に亡明代から主張された当日のいわゆるアリバイが根拠のないものであり、かつ、そのアリバイが意図的に作出されたとみる余地も十分にあること等の事情も考慮すると、その可能性は相当程度に達するものと思われる。
しかしながら、他方、亡明代は本件窃盗被疑事件の当時市議会会議員であって、格別生活に困窮していた事実は認めることができないところ、本件窃盗被疑事件の被害品はTシャツなのであって、亡明代においてこのような低価格の日常品を窃取する動機に乏しいこと等の事情を考慮すると、上記のような事情を考慮しても、なお亡明代を本件窃盗被疑事件の犯人と断定するに足りないというべきである。
(被告戸塚の発言内容の真実性について)判決文48頁
被告戸塚の発言内容は、……平成7年6月19日に本件洋品店でTシャツの万引きがあり、その犯人は亡明代に間違いないというものである。そして、被告戸塚が本件窃盗被疑事件について認識していた内容は前記2⑶に認定したとおりであるから、被告歯と塚としては自らが認識している事実を歪曲したり、誇張して話したことを窺わせる証拠はない。……被告戸塚がこのような認識に至ったことについては、被告戸塚の届出を端緒として捜査が進められ、他の目撃者からの事情聴取の結果等を含めて、東村山署においても本件窃盗被疑事件は亡明代によるものと認めて、検察官に事件を送致したことに照らすと、被告鳩塚に勝手な思い込みや不注意といった過失があったとは認められないものである。してみると、本件窃盗被疑事件が現職の市議会議員であった亡明代による窃盗事件であると認識した被告戸塚が、自ら認識するところをありのままに正直に話した行為は、何ら違法ということはできない。
<論点=アリバイ工作>
判決文43頁
……亡明代から主張された当日のいわゆるアリバイが根拠のないものであり、かつ、そのアリバイが意図的に作出されたとみる余地も十分にある
判決文44頁
⑹アリバイ工作部分の真実性又は相当性
アリバイ工作部分のうち、亡明代に関する部分の主要部分は、亡明代があえて虚偽のアリバイを主張し、虚偽のレシートを提出したことであるところ、前記⑶のとおり、亡明代が提出した本件レシートは、亡明代らのものではなかったことが認められるから、本件レシートによるアリバイの主張そのものには根拠がないことが明らかであるものの、他方、本件窃盗被疑事件が発生したとされる当時、亡明代が本件レストランにいたとのアリバイが虚偽であったとまでは認めるに足りないから、このアリバイの主張が意図的に虚偽の事実を主張したものとまで認めることはできない。また、原告矢野に関する部分の主要部分は、原告矢野が、上記亡明代による虚偽のレシート提出に関わったことであるところ、前記⑶の事実を総合しても、同事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(万引きとアリバイに関する千葉発言に対する判断)判決文49頁
⑵千葉発言は、……その時期の点も含めて、捜査結果を踏まえた結果であり、……千葉の発言が違法であるということはできない。
『潮』裁判 東京高裁(平成14年11月13日)
<論点=アリバイ工作>
判決文20頁
⑵アリバイ工作部分の真実性及び相当性
……原判決の認定事実によれば、平成7年6月19日午後3時15分ころ戸塚の経営する洋品店「スティル」でTシャツを万引きした人物は亡明代ではないかとの疑いが相当の根拠をもって投げかけられるところであり、そきような疑いが、ひいては、万引きがあったとされる時刻に、亡明代がレストラン「びっくりドンキー東村山店」で控訴人と食事をしていたとのアリバイ主張が虚偽ではないかとの疑いを招くのであり、かつ、そのアリバイの裏付けとして同店から提出を受けたとするレシートの写しも虚偽のものであるとの疑いが相当程度濃厚であるというべきであるが、それでも、控訴人が亡明代による虚偽のアリバイ主張や虚偽のレシート提出に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(万引きとアリバイに関する千葉発言に対する判断)判決文22頁
千葉発言は、……その時期の点も含めて、捜査結果を踏まえた結果であり、アリバイ工作部分についても、いまだ控訴人に対する事情聴取に着手していない段階にあったが、その間に行われた亡明代に対する事情聴取の際の亡明代の弁解や同女と控訴人との関係、本件窃盗被疑事件についての控訴人の言動等から、亡明代によるアリバイ主張やレシートの提出行為に関して、控訴人が何らかの形で関与しているものとの感触を得ていたことが認められるのであり、……千葉の発言が違法であるということはできない。
『潮』裁判 東京地裁(平成14年3月28日)
<論点=転落死>
判決文45頁
⑺自殺事件部分の真実性又は相当性
……こうした事情からみると、亡明代の死因が自殺であるとみる余地は十分にあるというべきである。
しかしながら、他方で、証拠及び弁論の全趣旨によれば、司法解剖の結果、亡明代の左右の上腕内側部に皮膚変色が認められたこと、草の根事務所の鍵が、平成7年9月2日夕方になってから、本件マンションの2階踊り場付近で発見されたこと、亡明代の靴が未だ発見されていないこと、亡明代が平成7年8月において本件窃盗被疑事件が冤罪であると主張して、徹底的に闘う決意を表明していたこと、亡明代が本件死亡事件の直後に高知市において講演会を予定していたことが認められる。
これらの事実を総合すると、なお亡明代が自殺したとの事実が真実であると認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、前記⑷のとおり、被告井原は、本件記事の作成より以前に本件死亡事件について、本件マンションに赴いて亡明代が自殺したという事実と矛盾するようにみえる亡明代の悲鳴を聞いた人物の存否を探索し、また亡明代が落下した地点が踊り場の真下であること等を確認したこと、千葉を取材して東村山署が本件死亡事件を自殺と断定した旨を聞いたこと、また嘉数医師を取材して、同医師が「足を下にして落下したとは考えられません」とは発言していないことを確認したことが認められるのであり、これらの事実を総合すると、被告井原が現に行った取材の経過及び結果は、亡明代の死亡原因が自殺であることを裏付けるに足りるから、亡明代が自殺したと信じたことには相当の理由があると認められる。
『創価新報』裁判 東京地裁(平成15年3月10日)
<論点=万引き>
判決文33頁~35頁
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
ア 本件窃盗被疑事件の発生
(ア)平成7年6月19日午後3時20分ころ、戸塚から東村山署東村山駅前交番に対し、明代による万引きの被害にあったとの届出があった(本件窃盗被疑事件)。
被害届受理の報告を受けた東村山署は、捜査官を現場に臨場させ、戸塚からの事情聴取、被害場所の実況見分等を実施し、概ね以下の通りの事実を把握するに至った。
(イ)平成7年6月19日午後3時15分ころ、戸塚は、洋品店内において店番をしていたところ、一人の女性が、同店の店頭に立ち寄った。その際、戸塚は、本件女性について、当時現職の東村山市議会議員で選挙ポスターを見ることにより人相をよく知っていた明代であると認識した。
戸塚が、同店の店頭に設置されている防犯ミラーで注視していたところ、本件女性が、店頭に吊るしてあった黒いTシャツのビニールカバーをたくし上げて、Tシャツをハンガーから外すと、これを小さく折り畳んで、脇の下に隠して歩き去るのが分かった。戸塚は、直ちに店を飛び出して、本件女性を追跡し、本件女性を呼び止めて万引きの事実について追及したところ、本件女性は盗んでいないと犯行を否認した。そこで、戸塚は、脇の下に隠された商品を確認するため、本件女性に両手を上げさせたところ、本件女性の脇の下から、商品である黒いTシャツが落ちた。戸塚が追及したところ、本件女性は、知らないと言って、イトーヨーカ堂の店内へ逃げ込んだ。
戸塚は、本件女性にイトーヨーカ堂に逃げ込まれてしまったことと、本件洋品店に客だけ残してきたことが心配になったことから、追跡を断念して洋品店に戻った。戸塚と本件女性とのやりとりを目撃していた客と通りすがりの者が、戸塚に対し、被害届を出すように促すとともに、本件女性が明代であることの証人になることを約束したので、前記のとおり明代による万引きの被害にあったと届け出た。
(ウ)東村山署は、戸塚の供述から、明代が本件窃盗被疑事件を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認めたが、さらに、事件の目撃者について捜査したところ、当日、客として本件洋品店に居合わせて本件窃盗の犯行状況を目撃した者、通りすがりに戸塚と明代のやりとりを目撃した者など3名の目撃者がいたことが判明し、そのうちの2名からも事情を聴取したところ、戸塚の供述が裏付けられた。
そこで、東村山署は、明代に出頭を求めることとし、平成7年6月30日、同年7月4日及び12日の3回、明代を本件窃盗被疑事件の被疑者として取り調べた。
(エ)明代は、6月30日の取調べにおいて、犯行を否認するのみであったが、7月4日の取調べにおいて、犯行を否認するとともに、犯行があったとされる時間には、原告矢野とともに本件レストランで食事をしていたとのアリバイを申し立て、その裏付けとして本件レシートを任意提出した。
明代は、同月12日の取調べにおいて、被害日時とされる午後3時過ぎには本件洋品店に行っていないと申し立て、本件支店のキャッシュサービス取引明細、本件レストランの店内見取図、本件レシート写しに日付等を記載した上、署名捺印して提出した。そして、明代は、6月19日当日の行動につき、a午前10時15分ころから午前11時7分まで東村山市議会建設水道委員会に出席し、続いて、午後零時過ぎまで総務委員会を傍聴し、その後、午後2時ころまで、原告矢野とともに、東村山市役所内の草の根市民クラブの議員控室において、次回の本会議における一般質問のための準備をしていた、b午後2時過ぎに原告矢野と食事をするため、二人で自転車で本件レストランに行く途中、本件支店に立ち寄り、東村山市民新聞の折込料を振り込んでおり、その際のキャッシュサービス取引明細書によると、振込時間は午後2時12分となっている、c午後2時30分前後に本件レストランに着き、二人とも当日のサービスランチを注文した、d本件レストランには、その後コーヒーを飲みながら1時間近くいて、代金は二人別々に支払った、e本件レシートの時刻の印字からすれば、店を出たのは午後3時21分ころだったと思うなどと供述した。
そこで、白石警部は、上記明代の供述を録取した後、検察官に送致することを告げたところ、明代は、アリバイがあり、犯人でもないのに、検察庁へ送致するのはどういうことかなどと言って、署名押印を拒否して退去した。
<論点=アリバイ工作>
判決文33頁(再掲)
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
判決文35頁~37頁(前項のつづき)
(オ)東村山書は、明代がアリバイを主張した7月4日以降、アリバイについて裏付け捜査を行ったところ、明代が供述したとおり、東村山市議会においては、6月19日午前10時28分から午前11時7分まで建設水道委員会、午前10時56分から午後零時1分まで総務委員会が開催されたこと、本件支店キャッシュサービスコーナーに備え付けられた監視カメラのビデオテープを再生したところ、同日午後2時9分19秒から午後2時12分57秒までの間の映像から、明代がキャッシュサービスの機械を利用していることがそれぞれ確認できた。
しかし、本件レストランの店長らに事情聴取したところ、a本件レストランの店長は、6月30日の夜、年輩の女性から、電話で6月19日午後3時ころに店でランチとコーヒーを二人分注文しているので、レシートの写しを欲しい、と頼まれ、ランチの種類と座ったテーブルの位置について尋ねると、「たぶん日替わりランチです。」と曖昧に答えるとともに、座ったテーブルの位置については何も答えず、とにかくレシートの写しが欲しいと求められたこと、b同店長は、7月1日、札幌の本社あてに上記説明に該当するようなレシートの送付を依頼したところ、同日夜、本件レシートがファックスにより送信されてきたこと、c同店長は、同月2日の深夜、来店した男女4人連れのうち、年齢40歳から50歳位の女性に本件レシートを手渡したこと、d同店長が、札幌の本社から本件レシートに該当する伝票を取り寄せて確認したところ、該当の客が座った場所は17番テーブルで、同テーブルには、午後1時29分に日替わりランチが注文され、もう一人の客が同席した後、午後1時32分に日替わりランチの注文が取り消され、レギュラーランチ2個とコーヒー2杯が注文されていたこと、e該当の客を担当したのはアルバイトの女性店員であり、同店員は、17番テーブルに座った45歳から50歳位の女性から、まず日替わりランチの注文を受けたが、厨房に行くと品切れであることが分かったため、その旨を伝えにテーブルに戻ると、もう一人の同年輩の女性が座っていたので、日替わりランチの終了を告げるとともに、改めて注文を取り直し、レギュラーランチ2個とコーヒー2杯の注文を受けたと記憶していること、以上の事実が判明した。
そして、本件レシートの記載、上記伝票及び本件レストランの店長からの事情聴取によれば、17番テーブルに座った客は、女性の二人連れである上に、6月19日午後1時29分ころから午後3時21分ころまでの間本件レストランにいたことになり、明代が、同日午後2時30分前後に原告矢野とともに本件レストランに入店し、午後3時21分ころまでいたなどと供述していることと一致せず、千葉は、本件レシートが明代のアリバイを裏付けるものではないと判断した。
(カ)千葉は、以上の捜査の結果、被害者である戸塚の目撃供述のほかに、3名の目撃者がおり、明代の主張するアリバイを裏付ける根拠もなく、これを信用することができないとして、明代を本件窃盗被疑事件の被疑者と認め、自らの判断で同事件を検察官に送致するよう指示し、署長の決済を得た上で、7月12日、本件窃盗被疑事件を東京地検八王子支部に送致した。
<論点=自殺>
判決文33頁(再掲)
2 争点⑵(真実性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
判決文38頁~41頁(前項のつづき)
イ 本件死亡事件の発生
(ア)東村山駅前交番勤務の巡査長は、平成7年9月1日午後10時42分ころ、本件ハンバーガー店のアルバイト店員から、「店のビルの裏にあるごみ置き場に女性が倒れている。」との通報を受けた。前記巡査長が、救急車の派遣を要請しながら、同店員とともに本件万ヒョンの北側外階段下にあるごみ置き場に赴くと、本件ハンバーガー店の店長がいて、その傍らに年齢50歳くらいの女性が倒れていた。前記女性は、午後10時56分ころ事件現場に到着した救急車により防衛医科大学病院へ搬送されたが、翌日の9月2日午前1時ころ死亡が確認された(本件死亡事件)。
(イ)千葉は、同日午前1時ころ、自宅で本件死亡事件の第一報を受け、直ちに本件現場に赴いて、警察犬や現場鑑識を要請し、検察官に連絡を取るなど、以後の捜査指揮に当たるとともに、東村山書において実施された死体の検案に立ち会うなどして、本件死亡事件につき、事件、事故の両方の観点から捜査を開始した。千葉は、その間の同日午前4時45分過ぎには、原告直子や原告矢野らの確認を得て、死亡者が明代であることを確認していた。
(ウ)千葉は、本件ハンバーガー店の店長や店員らから明代の発見状況等を聴取したところ、a9月1日午後10時ころ、本件ハンバーガー店の店員が一度ごみ置き場に行き、人が横になっているのを見かけたが、酔っ払いではないかと思い気にとめず、店に戻ったこと、b午後10時30分ころ、本件ハンバーガー店の店長が本件現場に行ったところ、血を流して倒れている明代を発見したこと、c同店長が、何度か「大丈夫ですか。」と声をかけたところ、明代はその都度「大丈夫。」と答えるとともに、店長が「落ちたのですか。」と尋ねたのに対し、左右に顔を何度も振りながら「違う。」とはっきり否定したほか、本件ハンバーガー店の店員が「救急車を呼びましょうか。」と申し出たのに対して、「いいです。」と答えたこと、d本件マンションの北側路面に設置されている鉄製フェンスが、明代を発見する前には異常がなかったのに対し、明代を発見した時点では大きく折れ曲がっていたこと等の事実が判明した。
(エ)千葉は、本件死亡事件について、以上の初動捜査を終了した9月2日午前7時ころ、検察官、検視に立ち会った医師、死体の状況、関係者の供述などを総合して検討した結果、事件性は薄いとの判断を下した。……
(オ)東村山署は、その後、引き続き捜査を遂げた結果、a事件発生前後に、現場付近で争うような声や物音などを聞いた者がなく、本件マンションの5階から6階に至る非常階段の壁に明代のものと思われる手指痕跡が発見され、他に争った痕跡がなく、落下現場の鉄製フェンスが上記手指痕跡の真下で折れ曲がっているなど、他人に突き落とされたとすると不自然であるという現場の状況、b明代が、「落ちたのですか。」という問いに「違う。」、「救急車を呼びましょうか。」という問いに「いいです。」と答えたこと、c明代に、墜落によるものと認められる創傷以外の防御創傷がないこと、d明代の死因が多発性肋骨骨折、肺損傷、左右腓骨骨折、左脛骨骨折等による出血性ショック死であり、執刀医の所見が「右側全身に認められる損傷は人力では不可能であり、墜落による損傷とみて矛盾がない。」というものであること、e明代の悲鳴及び墜落した音を聞いた本件マンションの住民が、その際に人が争う等の気配は全くなかったと供述していること等の捜査結果に基づき、他人が介在する状況にはなく、犯罪性がないと判断するに至った。そこで、東村山署長は、平成7年12月22日、「他人が介在した状況はなく、犯罪性はないと認定した。」という意見を付して、被疑者不詳の殺人事件として、東京地検八王子支部検察官に送致し、その旨の発表を行った。
石井事件裁判 東京地裁八王子支部(平成12年2月16日)
<論点=矢野らの主張する "創価に狙われていた事実" についての真実性>
判決文6頁~8頁
右認定した事実によると、原告が被告を本件暴行の犯人である旨断じた根拠は専ら原告の記憶にあるというのであるが、記憶の曖昧さは経験則上明らかであるから、仮にも公職にある者がこの曖昧な記憶に基づき、しかも司法警察職員による捜査がなされながら刑事訴追の手続きが執られていない被告を名指しで犯人であると断定している点において極めて特異であると言わねばならない。
二 そこで、改めて原告の記憶の正確さについて検討する。
原告は、記憶にある犯人の特徴を「茶髪」「顎がしゃくれている猿顔」「浅黒い肌」「甲高い声」の4点を挙げているが、「茶髪」「浅黒い肌」「甲高い声」の3点は際立った特徴と言える程のものではなく、現にこの点についての原告の供述は漠然としたものでそのように認識したという程度に過ぎない。
結局、原告が挙げている犯人の特徴というのは「顎がしゃくれている猿顔」ということになり、その特徴を正確に表現することは困難なのであろうが、法廷での印象では、被告の顔だちに際立った特徴があるとは思われない。
そうすると、犯人の特徴が際立っていたから原告の記憶に信頼がおけるなどという状況にはなかったのであるから、ほかに裏付け証拠の全くない本件では原告の記憶の正確さには極めて疑問があると言わねばならない。
更に、原告は被告が創価学会員であったことを犯人であることの証拠として挙げるが、創価学会員であることから直ちに被告の犯行と結び付ける論理の乱暴さはともかく(原告は、共に活動していた朝木明代議員の死に疑問が多々あるとして多数の証拠らしきものを提出しているが、仮に朝木議員の死に疑問があるとしても何ら被告と本件暴行とを結び付けるものではない)、被告が創価学会員であることを示す証拠として、原告が挙げる創価学会の側に立って日蓮正宗の僧を排撃する文書に被告の母名義の署名が認められることは被告の供述と対照するまでもなく何ら被告と創価学会との関係を疑わせることにはならないし、ほかにそのような関係を疑わせるに足りる的確な証拠はない。
石井事件裁判 東京高裁(平成12年11月29日)
<論点=矢野らの主張する "創価に狙われていた事実" についての真実性>
判決文
原判決二に、三として次の判決理由を追加。
三 控訴人は、警察に被控訴人を犯人として通報した翌日の9月22日の午後、控訴人事務所近くのゲームセンター入口付近路上において、また、同年10月4日の午後1時すぎごろ、控訴人自宅のある団地内の公園において、被控訴人から待ち伏せされた上、睨み付けられるなどの脅迫を受けた旨述べる。
しかしながら、控訴人主張の日時場所において控訴人が被控訴人と遭遇したことは認められるが(控訴人及び被控訴人の供述。遭遇した事実は当事者間に争いがない。)、被控訴人は控訴人と同一の町内に居住する当時17歳の有職少年であり、遭遇場所であるゲームセンターや団地内公園は被控訴人ら仲間の少年達のたまり場であったことなどにかんがみると、右遭遇自体は不自然な事とは言えず、被控訴人が控訴人を待ち伏せしていたものということはできないし、被控訴人が右遭遇の際、控訴人に対し脅迫等の不法行為に及んだ事を認めるに足りる証拠もない。
『月刊タイムス』裁判 東京地裁(平成15年11月28日)
<論点=万引きについて>
判決文31頁(真実性)
被告戸塚が犯人と亡明代の同一性を間違える可能性は極めて低く、目撃者も3名存在することから、本件窃盗被疑事件の犯人は亡明代でではないかとの疑いが相当の根拠をもつものということができる。
<論点=アリバイ工作>
判決文32頁(真実性)
原告矢野が、4通もの詳細な陳述書を提出し、本人尋問において供述もしているにもかかわらす、本件レストランにおいて亡明代と食事をした際の状況について具体的に述べないのは不自然であることといった、亡明代が虚偽のアリバイ主張をしていたことをうかがわせる事情が存在することは、否定できない。
判決文32頁(真実性)
しかしながら、前記⑶認定の事実、原告矢野が亡明代とともに政治活動をしていた事実、及び原告矢野と一緒に本件レストランで食事をしていたという上記アリバイの内容を併せ考慮しても、原告矢野が亡明代の虚偽のアリバイ工作に関与したとまで認定することは、難しいといわざるを得ないのであって、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
判決文32頁~33頁(相当性)
原告矢野が日頃亡明代とともに政治活動をしており、被告宇留嶋も当然これを認識していたと認められること、及び原告矢野と一緒に本件レストランで食事をしていたという上記アリバイの内容に照らせば、被告会社らにおいて、原告矢野が亡明代の虚偽のアリバイ工作に関与したと信じるにつき相当の理由があったと認められる。
<論点=自殺の原因について>
判決文34頁(真実性)
前記⑶で認定した現場の状況、亡明代の死亡直前の言動、死体の状況及び関係者の供述を総合考慮すると、亡明代が自殺したことを裏付ける事情が存在することは確かである。
しかしながら、他方で、証拠及び弁論の全趣旨によれば、司法解剖の結果、亡明代の左右上腕内側部に皮膚変色が認められたこと、亡明代の事務所の鍵が、平成7年9月2日夕方になってから、本件マンションの2階踊り場付近で発見されたこと、亡明代の靴がいまだに発見されていないこと、亡明代が同年8月において本件窃盗被疑事件が冤罪であると主張して徹底的に闘う決意を表明していたことが認められ、これらの事実に照らせば、なお亡明代が自殺したことを裏付けるにはなお疑問が残るところであり、上記亡明代が自殺したことを裏付ける事情をもって、自殺を推認するに足らず、他に亡明代が自殺したと認めるに足りる証拠はない。
判決文34頁(相当性)
被告会社らにおいて、亡明代が、原告矢野の関与のもとに主張していたアリバイも虚偽であることが判明し、本件窃盗被疑事件を苦に自殺したことが真実であると信じるにつき相当な理由があったと認められる。