見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2025年1月展覧会拾遺

2025-02-03 23:51:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

台東区立書道博物館 東京国立博物館・台東区立書道博物館連携企画『拓本のたのしみ-王羲之と欧陽詢-』(2025年1月4日~3月16日)

 この年末年始は、三井記念美術館の『唐(から)ごのみ』展で弾みがついて、東博→書道博物館と拓本を眺めてまわった。本展は、石碑が亡失した天下の孤本、王羲之や唐の四大家ら歴代名筆の拓本、そして拓本に魅せらせた明清文人の高雅な世界など、拓本の持つ魅力とたのしみ方をさまざまな視点から紹介する。王羲之については、京博の上野本『十七帖』や五島美術館(宇野雪村コレクション)の『宣和内府旧蔵蘭亭序』も来ていて眼福だった。展示解説の端々に、歴史上の有名な書家をマンガふうに表現したキャラクターが使われていて、かわいい。アクスタにしてくれないかなあ…。

日本民藝館 特別展『仏教美学 柳宗悦が見届けたもの』(2025年1月12日~3月20日)

 仏教美学に関わる資料展示と、柳宗悦が直観で見届けた具体的な作物の提示によって、柳が悲願とした「仏教美学」を顕彰する。入館して、大階段下の展示ケースに近づいて、あれ?と思った。いつも展示品に添えられている、黒い札に朱書きの、同館独特のキャプション札がないのである。以前、あの文字を書ける人は限られているので、いつまで続けられるか、みたいな記事を読んだことがあったので慌てた。実は、今回の特別展に関しては、おそらく直観を大事にするために、あらゆるキャプションを意図的に外したようである(併設展の展示は、いつものキャプションつきだった)。

 地域も時代も異なる作品が醸し出す美のハーモニーには心が洗われたように思った。しかし、やっぱり私は直観では生きられない人間なので、大展示室前に用意されていた細かい文字のリストを手に取って、気になる作品の地域や時代をチェックした。写真は唐代の女子俑に台湾パイワン族の首飾り。動物の造型の中にあった『猫型蚊やり爐』(瀬戸、19世紀)が可愛かった。玄関ホールの壁に掛かっていたデカい拓本『水牛山般若経摩崖』(南北朝時代)は、肥痩のあまりない、素朴な文字を好ましく感じた。

根津美術館 企画展『古筆切 分かち合う名筆の美』(2024年12月21日~2025年2月9日)

 根津美術館の古筆展、はじめから行くつもりで、全く説明を読んでいなかったのだが、あらためて開催趣旨を眺めたら「本展では、当館の所蔵に新たに加わった重要文化財『高野切』を含む、平安から鎌倉時代にかけて書かれた、館蔵の古筆切を中心に展示します」とある。えっ?現代でも高野切が新たにコレクションに加わるなんてことが起きるのか?! 新収の高野切は、古今和歌集巻第19の旋頭歌4首が書かれた1幅で、第三種の書風。「軽快でのびやかな筆線」と評されている。高野切は第一種が至高と言われるけれど、私は第三種もかなり好きだ。

 『源氏物語奥入断簡』にも目が留まった。『源氏物語奥入(げんじものがたりおくいり)』は藤原定家による『源氏物語』の注釈書。2022年には新出の断簡が発見され、2023年に五島美術館で展示されたが、今回展示の断簡は、すでに知られていたものらしい。「いにしへのしずのをだまきくりかへし」という、伊勢物語所収の和歌が記されていた。

 なお、古筆について私の推しは、やや癖の強い藤原定信(石山切・貫之集)とバランスのとれた藤原教長(今城切)である。

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北宋ミステリー画巻/中華ドラマ『清明上河図密碼』

2025-02-01 23:32:21 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『清明上河図密碼』全26集(中央電視台、優酷、2024年)

 北宋の都・開封の賑わいを描いた画巻『清明上河図』をモチーフにしたミステリー時代劇。画巻の作者として知られる張択端も劇中に登場する。主人公は大理寺の下級官吏の趙不尤。父親の趙離、弟の墨児、妹の弁児、そして妻の温悦と仲良く暮らしていた。趙不尤が温悦と出会ったのは15年前、都に帰還した官吏・李言の船が何者かに襲われ、李言と全ての船員が殺害された事件の晩だった。群衆に押されて河に落ち、着替えを求めて店に立ち寄った趙不尤は、同じく着替えを必要としていた温悦に出会う。温悦は李言の船を襲った水賊のひとりではないかという疑いを、趙不尤は微かに持っていた。

 いろいろ新たな事件があって、徐々に温悦の前身が明かされていく。温悦は船大工の娘だったが、幼い頃、両親を殺されて孤児となり、水賊の一味に拾われ、武芸を仕込まれて育った。15年前、何者かの指令を受け、李言の船を襲ったのも彼女たちだった。趙不尤は温悦の正体を知っても、一途に妻を護り続ける。開封府の左軍巡使・顧震は、かつての上官・李言を殺害した犯人を捜し求めて、温悦の関与を知るが、真の元凶はその背後にいると考える。大理寺をクビになった趙不尤は、開封府に転がり込み、顧震の下で15年前から現在に至る事件の解決に尽力する。

 さて、趙不尤の弟の墨児と妹の弁児は、本人たちには隠していたが、理由あって若き趙不尤が引き取った貰い子だった。大理寺の先輩だった董謙が何者かに殺害される前に、息子と娘を趙不尤に託したのである。そして、その董謙こそ、温悦の家族を襲った犯人だった。自分の意思とは無関係に張り巡らされた因縁に困惑する温悦、墨児、弁児たち。しかし、結局、今ある家族の姿を大切にしようという決心に至る。そこに現れたのは、死んだと思われていた温悦の弟・蘇錚。彼は、両親の仇を討つため、董謙につながる人々を陥れようとするが、温悦は抵抗する。

 そして、最後に宮廷の大官にして貪官・鄒勉こそが全ての事件の黒幕であったことが判明する。鄒勉の娘と娘婿も傍若無人な悪役として登場するが、父親の鄒勉は、それを上回る冷酷・凶悪ぶりを見せる。このラスボスを裁判劇の舞台に連れ出し、悪事を糾弾する趙不尤の弁舌がクライマックス。圧倒的な民衆の賛同を得て、実際に開封府尹の審理に引き渡されることになる。このとき、鄒勉の意を受けた私兵が突撃するのを瓦子(劇場)の前で、体を張って阻むのは顧震と下僚の万福。

 善悪どちら側も癖のあるキャラが多くて面白かった。ルックスは全くイケていないけど、なかなかの頭脳派で、妻と家族思いの趙不尤。張頌文さん、いいドラマに当たったと思う。顧震は土いじりが趣味らしく、周一囲さんにしてはじじむさい役柄が大変よかった。その部下、お笑い担当のようで頭児(ボス)への忠誠心は厚い万福(林家川)も好き。墨児と親交を結ぶ学究肌の青年・宋斉愈役は郝富申くん!古装劇は初めて見たけど、どんどん出てほしい。

 『清明上河図』の虹橋を再現したセット、さらに画中の人物を全て再現したカットもあって、見応えがあった。ただ『清明上河図』には、女性の姿が非常に少ないと言われているので、画巻の世界をそのまま再現したら、こんなに女性の活躍するドラマにはならないだろう。

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