ポーランド、ウクライナにこれ以上武器供与せず 首相(AFP BB)
【9月21日 AFP】ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ(Mateusz Morawiecki)首相は20日、自国の防衛に専念するため、ウクライナへの武器供与はこれ以上行わないと述べた。
ポーランドはウクライナ産穀物の輸入をめぐって同国と対立し、この発表の数時間前にはウクライナ大使を呼び出していた。
モラウィエツキ首相は、穀物輸入をめぐる不一致にもかかわらず、ウクライナを支援し続けるのかという記者の質問に対し、「わが国はウクライナにこれ以上武器を供与しない。ポーランドの武器の近代化を進めるからだ」と答えた。
ポーランド大統領、首相の「武器供与停止」発言打ち消し(AFP BB)
【9月22日 AFP】ポーランドのアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は22日、ウクライナへの武器供与をこれ以上行わないとする前日のマテウシュ・モラウィエツキ(Mateusz Morawiecki)首相の発言について、誤って解釈されたと主張した。
(中略)
だがドゥダ大統領は首相の発言について、「最悪の形で解釈された」「ポーランド軍を近代化するために現在購入している新しい兵器は、ウクライナに供与しないという趣旨だったのだろう」と民放テレビTVN24に語った。
ポーランドは、米国や韓国をはじめとする国々との間で多数の複数の武器調達契約を結んでおり、韓国にはK2戦車やK9自走榴弾(りゅうだん)砲を発注している。
ドゥダ大統領は「米国と韓国から新兵器を受け取れば、ポーランド軍が現在使用している兵器を放出することになる。おそらくウクライナに供与することになるだろう」と述べた。
現代においてウクライナと呼ばれる地域には、かつてキエフ公国という「ルーシ(ロシアの古名)」の中核国家が存在しました。これがモンゴル(タタール)によって滅ぼされた後にモスクワを中心としてロシア国家が再興を果たすわけですが、タタールが衰退した後にキエフ周辺を支配するようになったのはロシアではなくポーランドでした。ウクライナが現在の西部国境を獲得するに至ったのは独ソ戦によるポーランド国家の消滅を経てのことで、歴史的には因縁浅からぬ間柄でもあります。今でこそロシア憎しで結びついている両国にも、そうした歴史はあるのですね。
ウクライナからの農産物はアフリカではなく専ら欧州方面に輸出されています。その結果として東欧では農産物の価格が下落、自国産業の保護のためウクライナからの輸入に制限を課す国も出てきたところで、ポーランドもその一つに加わったわけです。結果としてウクライナとポーランドで非難の応酬が展開され、それが冒頭の首相発言につながり、反ロを重視する大統領が釈明する展開になったと言えます。
まぁ落ち着いてみれば、どちらも同じようなことを述べているのかも知れません。結局のところ「最新鋭の兵器は送らない」「新兵器へのリプレイスで不要になった旧式の兵器を送る」という点では今まで通りのウクライナ支援が継続されるだけ、何も変わるものではないのでしょう。ただ暗黙裏の了解であったことが明言されるようになった、というのは新しいとも言えます。今までもこれからも、表向きはウクライナ支援に全力と見せかけつつ、その実は在庫処分品みたいな旧式兵器ばかりを送る、この構図を政府首脳が認めたわけですから。
アメリカによる支援もまたゼレンスキーの望むがままではなく、射程の制限された兵器や一世代前の兵器に限定して送り込むなど、決して最新の兵器を最大量で支援してきたものではありません。表向きは紛争の激化を避けるためとされていますが、実際のところはウクライナ人の犠牲などアメリカにとってはどうでも良い、自国兵器の更新の妨げとなるような古い兵器を体よく処分して、そのついでにロシアを損耗させれば十分という判断の結果でしょう。アメリカもポーランドも他の国も、概ね似たようなものです。
ゼレンスキーはイラン・イラク戦争当時のサダム・フセインと立場がよく似ています。しかしアメリカを後ろ盾としてきたサダム・フセインが最終的にはアメリカの敵となったように、ゼレンスキーの将来がどうなるかは誰にも分かりません。かつてアメリカはイスラム武装勢力に武器を供与し訓練を施し、アフガニスタンでソ連と戦わせてきました。このイスラム戦士の中からはアルカイダが生まれ、アメリカへのお礼参りに訪れたのはよく知られるところです。昔年のソ連はモンキーモデルと呼ばれる性能を落とした兵器を同盟国に配備していたと言われますが、現代のNATO諸国も当時のソ連政府と同じ心配を抱えているのでしょう。
そもそもウクライナは2014年のクーデター以前は選挙によってロシアと協調姿勢の政権が成立していたわけで、決して反ロシア一辺倒の国ではありません。NATOの靴を舐める政権が有権者の怒りを買って、外交方針がひっくり返ることだってあり得ます。それ以前にウクライナは中国と関係が深い、ソ連製の空母を中国に売却するなどソ連時代の兵器開発技術を中国へと譲渡してきた実績が豊富です。加えて汚職も多く、今なお兵器の横流しで逮捕される政府や軍の関係者は後を絶ちませんが、発覚していないものだって多いことでしょう。
加えて戦場では損傷した兵器がロシアによって鹵獲されることもあります。もしウクライナに最新鋭の兵器が送られたなら、NATO諸国は二重三重の技術流出のリスクに晒されることになるわけです。そうなると必然的にゼレンスキー陣営へ送られる兵器は限定されてくる、今さら中国やロシア、闇市場に流れたとしてもそこまで痛くはない旧式の兵器が専ら送られることになる、だからポーランドの首相と大統領が口を揃えるように「新しい兵器は送らない」「これまで使っていた古い兵器を送る」ことになると言えます。
結局のところNATO諸国もゼレンスキー政権への支援には一線を引いているところがある、決して全力ではなく自国を優先する意識を残しているのが実態です。しかるに日本はどうでしょうか? 欧米の右派が自国第一主義の姿勢を強める中で、日本の右派は今なおアメリカ第一主義に止まっている、アメリカの覇権を守るため、アメリカ「陣営」の勝利のために自国の利益を蔑ろにしてはいないでしょうか? 日本の外交方針は左右どちらの観点からも間違っている、しかも間違った方向への誘導を大学教員が先頭に立っているところもある、経済だけではなく国際政治の面でも日本は立ち後れた国になってはいないかと危惧するばかりです。