企業の持続可能な変革を促す「Green AI」
アジア太平洋地域(日本を除く、APEJ)におけるAI導入は、これまでの実験的な段階から本格的な業務統合へと移行しつつあります。
IDCが2025年2月12日に公表したレポート「IDC FutureScape: Worldwide Sustainability/ESG 2025 Predictions -- Asia/Pacific (Excluding Japan) (APEJ) Implications」によると、2027年までに同地域のITバイヤーの50%が、社会・環境・ガバナンス(ESG)に関連した責任あるAI基準を満たすベンダーとしか取引しなくなると予測しています。
企業のAI導入の成功率は現在62%に達しており、AIの役割は試験的な活用から、企業のコア業務に不可欠な存在へと変化しています。この「AIピボット」とも呼ばれる変革は、企業の持続可能性戦略においてAIが中心的な役割を果たすことを意味します。AIの活用は、単なる業務効率化ではなく、持続可能な成長を実現するための基盤技術としての位置付けへと進化しています。
Green AIがもたらす企業変革
企業の持続可能な変革を支える「Green AI」とは、環境負荷を抑えたAIの活用を指しています。IDCのレポートでは、企業がESG基準に基づいてAIを導入する流れが加速すると予測しています。その中でも、カーボンアカウンティング(炭素会計)の精緻化やサプライチェーンの脱炭素化に対応するため、持続可能なAIインフラの整備が進むと見込んでいます。
例えば、2028年までにアジア太平洋地域の企業の半数が、脱炭素化に寄与する強固なITサービスやソフトウェアエコシステムを持つベンダーのみと提携するようになると予測しています。これは、企業が自社のサステナビリティ目標を達成するために、ITベンダーの環境配慮型ソリューションの提供能力を重要な評価基準とすることを意味しています。
IDCアジア太平洋の持続可能な戦略・技術部門のリサーチディレクターであるMelvie Espejo氏は、「企業は単に生成AIを用いて排出レポートを作成するのではなく、より実践的な持続可能な変革を進めることになります。具体的には、低炭素フットプリントのITインフラへの移行、気候リスク分析の高度化によるサプライチェーンの気候耐性強化、持続可能な製品やサービスの迅速な設計・生産などが挙げられます」と述べています。
AIとESGの融合がもたらす変化
IDCのレポートでは、企業がAIを活用して持続可能な経営を実現するための予測をしています。2027年までにアジア太平洋地域の50%の企業が、持続可能なAIフレームワークを実装し、データ主導の意思決定を活用してデータセンターの運用を最適化しながら脱炭素化目標を達成すると予測しています。これは、企業がAI活用において環境負荷を考慮し、エネルギー消費の最適化を進める動きが加速することを示唆しています。
2028年までには、アジア太平洋地域の75%の企業が、IT資産のライフサイクル全体(構築、運用、廃棄)に関するCO2排出データの提供を求めるようになると予測しています。企業が自社のESG目標を達成するために、ITベンダーからより透明性の高い環境情報を要求することが標準化していくと考えられます。
2029年までに、アジア太平洋地域の50%の企業で、チーフ・エシックス・サステナビリティ・オフィサー(CESO)がAIデータガバナンスグループやAIセンター・オブ・エクセレンスの主要メンバーとして参画するようになると予測しています。これにより、AIの導入は単なる技術戦略ではなく、企業の倫理観や持続可能性の観点からも管理されるようになることを予測しています。
今後の展望:Green AIの導入が企業競争力を左右する
IDCの予測が示すように、企業のAI活用のあり方が大きく変化しつつあります。AIは単なる生産性向上のツールではなく、持続可能な成長を実現するための手段として位置付けられています。ESG基準を満たすAIベンダーの選定が一般化することで、企業のIT購買戦略が大きく変わることが予想されます。
企業は今後、持続可能性に配慮したITソリューションの導入を前提とし、環境負荷の低いデータセンターやエネルギー効率の高いAIインフラを選択する傾向が強まるでしょう。また、各国のESG規制が厳格化する中、Green AIの導入は規制順守だけでなく、競争優位性の確立にもつながる可能性があります。
AIのガバナンスを強化するために、経営層にCESOを配置し、持続可能なビジネス戦略を主導する企業が増加すると考えられます。AIの活用は、単に業務を効率化するだけでなく、企業の社会的責任を果たし、長期的な競争力を確保するための重要な手段の一つとなっていくでしょう。