アップルの「世界開発者会議(WWDC)」に登壇したティム・クックCEO(写真:AP/アフロ)

 6月2日、サンフランシスコでは、アップルの「世界開発者会議(WWDC)」が開催された。目玉はモバイル端末向け基本ソフト「iOS 8」の発表であり、皆が期待していた腕時計型ウエアラブル端末は登場せず、ほかにも噂されていたテレビなど新しいハードウエアは一切発表されなかった。それでも、開発者を中心にシリコンバレーでは評判上々のようだ。

 一方、その少し前の5月20日には、マイクロソフトの大型タブレット「SurfacePro 3」が発表されたが、こちらも噂されていた小型(8インチ)の「Surface Mini」は姿を現さなかった。

 WWDCと同じ週、サンノゼで開かれたビッグデータ技術の開発者会議「Hadoop Summit」では、マイクロソフトがこれまで以上に熱心に、ビッグデータ開発者のマインドシェアを獲得しようとしている様子が見られた。「クラウドへの重点移行」という最近の戦略シフトは、これまたシリコンバレー雀に好意的に受け止められている。

 2011年に創業者スティーブ・ジョブズに代わってアップルのCEO(最高経営責任者)となったティム・クック。今年初めに、ビル・ゲイツとスティーブ・バルマーという創業者コンビの後釜としてマイクロソフトのCEOとなったサトヤ・ナデラ。

 その昔は、この2社が「Mac対PC」のテレビコマーシャルそのままに、ライバルとして華々しく競っていたことなど、「そーいや、そうだった、すっかり忘れていた」と思うのは私だけではないだろう。

雲行きが変わり始めたガジェット戦線

 ここ数年はスマートフォン・タブレットなどの「ガジェット」に主戦場が移り、対決軸は「アップル対グーグル」となって、大バトルの末、ブラックベリー、ノキア、日本メーカー各社など、多くの旧勢力が敗れ去った。

 そんなガジェット戦線で、少々雲行きが変わり始めた。スマートフォンは新興国を中心に引き続き伸びているが、タブレットの成長が鈍化し始めたというのだ。

 調査会社IDCでは、2018年までの世界のタブレットの売り上げ予測を下方修正、年率50%以上と予測していた成長率を12%程度まで引き下げた。IDCではその理由として、ユーザーの買い替えサイクルが予想よりも長いこと、「ファブレット」と称される、大型スマートフォンに市場が食われ始めたこと、の2つを挙げている。

 これは1つの現象にすぎないが、それでも全体としてIT業界の潮目が「脱ガジェット」へとうねり始めていることが改めて感じられる。

 それはつまり、こういうことだ。

「サムライ」から「ニンジャ」へ

 マイクロソフトの公式サイトでは、SurfacePro 3とアップルの超薄型ノートパソコンの「MacBook Air」とを比べた比較表を掲げている。大きさは12インチ、価格帯は1000ドル前後、OSは「Windows8.1」ということで、タブレットというよりノートパソコンである。

 Surfaceはこれまで「キーボードがつけられるタブレット」であったものが、ここに至って「キーボードが外せるパソコン」へと位置づけが変わったということになる。そして、いかにも「ガジェット」の範疇となるミニ版タブレットは、実は既にできていて、直前まで発表する予定だったものを急きょ引っ込めたとの噂だ。

マイクロソフトが発表した大型タブレット「SurfacePro 3」

 私は、「パソコン」または「ケータイ」という1つだけの道具を究極スキルで何にでも使い倒す人々を「サムライ型」、その場ごとに使いやすい道具をたくさん使いこなす人々を「ニンジャ型」と呼んでいるが、時代は「サムライ」から「ニンジャ」へと移り変わってきた。

 マイクロソフトも、ユーザーがだんだん「ニンジャ」になっていくというのはずっと以前から分かっているのだが、それへの対策がなかなかピッタリこない。

 例えば、iPodに対抗しようとした音楽端末「Zune」、モバイルの「Windows Mobile」と、いろいろと頑張ってきたが、どれもパッとしない。ゲームコンソールの「Xbox」が少々気を吐いている程度だが、これも期待された「メディア統合機器」として使われるには至っていない。

 そんな中で、本丸であるパソコンそのものが「iPad」に食われて、「すわ、消滅の危機!」と焦り、自前でタブレットのハードウエアまで作ることに踏み切った。

 それは、「タブレット」という新しいジャンルで、従来の機器パートナーとの関係を悪くするリスクを冒す、という地理感のないことを同時に2つ試みる無理を意味していた。さらに、パソコンにタブレットの使い勝手を無理やり持ち込もうとした「Windows8」は、「失敗」との評価が定着してしまった。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り1968文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題