大事な場面に不在の上司。どんな影響があるだろうか。
大事な場面に不在の上司。どんな影響があるだろうか。

 4月の4週目に、林芳正文部科学大臣が公用車を使って平日の真っ昼間に、「個室ヨガ」に通ったとする報道があった。セクシーヨガだの、キャバクラヨガ、さらには元AV女優だの相変わらずの“ジェンダー・ステレオタイプ”越しの事実誤認報道にはウンザリしたけど、大臣も大臣。どちらも真面目に働いている人には、失礼なお話である。

 林文科相は記者会見で、「国会が緊迫する中で、こうした混乱をおわび申し上げたい」と述べたが、混乱ってナニの混乱を謝罪しているのか。まったくもって意味不明だ。

 仕事の合間の息抜きは大切なので、とやかく言うつもりはない。

 だが、問題は大臣がヨガで汗を流していたまさしく4月16日のその時間は、衆議院決算委員会が行なわれていた時間帯だった。
 加計学園問題の“首相案件”文書を巡り、文科省の瀧本審議官が追及を受け、

 「関係者のヒアリングにより当該文書の存否を、確認しているところでございます」

 と回答。

 翌日の4月17日の大臣定例会見で、林大臣はこう述べていた。

「平成27年(2015年)4月から現在までの間に関係部局に在籍していた又は在籍している計51名の関係者からの聞き取りにより確認を行うとともに、高等教育局専門教育課、高等教育企画課、私学行政課、大臣官房総務課行政改革推進室が保有している共有ファイル及び共有フォルダの確認を行った。

 その結果、該当の文書について、見たことがある又は共有したことがあると答えた職員はおらず、また共有ファイル及び共有フォルダのいずれにおいても存在が確認できなかった。

 文部科学省としては、現時点で考える最大限の方法で確認作業を行った」

 さらに、この日の朝、東京新聞やNHKが、「内閣府側から文部科学省に対し、愛媛県などが官邸訪問するとの事前連絡のメールがあった」との報道があり、記者とこんなやりとりもあった。

記者:メールが残っていたという今日の報道の話なんですが、これは現在までの調査でそのメールは先ほど確認されていないと、見つかっていないと、そういうことでよろしいんでしょうか。

大臣:まだ確認は、今続けているところでございますので、確認の結果見つかったという報告は受けておりません。

記者:見つかってないという?

大臣:まだ報告は。まだやっている途中なので報告を受けていないということです。

 (中略)

大臣:東京新聞や今朝のNHKについては、別途確認作業を行っているということです。

 (中略)

記者:別途でも確認作業をしているというのは、これも同じ範囲、今出された範囲で同じ、今回対象は51名とされていますけれども、皆さんにまた同じことを聞かれるということになるんですか。

大臣:ものによって調査の対象は変わり得るとは思いますが、同じような手法でやりたいと思っております。

記者:それは二度手間な気もしますけれども、もう一度改めてというところ?

大臣:そういうことです。

 実はあの報道があった直後、中間管理職の方たちと意見交換する機会があった。

○当たり前に囚われる存在(=ジジイ)が、会社の残念度合いを上げる。痛快でありながら、「自然とそうなる」階層組織の闇に恐怖すら感じました。「ウソをつく」「無責任」「頑迷」でありながら自覚がない、悪気もない存在をどう処していくのか、考えさせられます。

(一般企業勤務 40代)

○現場、人間に対するリスペクト、その可能性を信じている著者の一貫した想い、愛情が伝わってきました。本書で書かれていた「合言葉」と「道具」、「仕事の意義、価値の伝道師」が教育担当を務める私の行動指針であることを教えていただき、改めて自分のスタンスが確認でき、勇気をいただきました。

(早期退職後再就職 56歳)

本書は、

自分は責任感が強い!
自分は女子力は高い!
自分は会社や上司に一切不満がない!

という人には役に立たない本です。

 そこではやっぱりセクハラ問題が話題になったのだが、40代の課長職の男性が「林大臣の方が悪質だ」と言い始めた。

 「確かにそうかも。こっちが納期ギリギリで必死こいてやってるのに、上司がゴルフに行ったと聞いたときにはやる気失せた」

 「ヨガだけならまだしも、指圧オイルマッサージはないよなぁ。自分がリラックスする前に部下たちをマッサージに連れていってやってくれよ」

 「みんなヤケクソになって、バンバン“首相案件”文書、見つけてくるかも(笑)」

 「あるいはバカらしくなって、捜索するのを止めるか」

などなど、「リーダーとしてどうなの?」という話で、あれこれ話すことになったのである。

要するに気持ちの問題

 実際、林大臣の記者会見からは、「国会で矢面に立っていた部下にも、省内で必死に探していた職員たちにも申し訳なかった」という“お気持ち”は一切感じ取れませんでしたね。

 一緒に職員に交じって捜索せよ! とは微塵も思わないけど、要するに気持ちの問題。

 あのタイミングで堂々とヨガに行くことも(公用車を使っていたので堂々でしょ?)、公用車の使用について「公務の円滑な遂行を図るためという文科省のルールにのっとっている」と強調したことも、私が部下だったら「チッ」っと舌打ちし、グレる(すんません)。

 前置きが長くなった。
というわけで、今回は「リーダーのお仕事」について考えてみる。

 まずは、林大臣批判の口火を切った40代の課長さんのお話をお聞きください。

 「今の部長がまさしく“真っ昼間ヨガ”タイプなんです。良く言えば放任主義。悪くいえば無責任。
 野球とかサッカーとかのプロ集団を指揮する監督ならアリでしょうけど、普通の会社の、普通のメンバーの部署では、放任主義は機能しません。

 最初は『報・連・相は必要ない』とか言うし、部長は自分たちのことを信頼してくれているんだなぁなんて思っていました。だから、真っ昼間からゴルフに行っても社外ネットワーク強化というか、それはそれで部長の仕事というか、うらやましいけど部長だしってみんな思っていたんです。
 ただ、社外に出た途端、携帯に出ない、メールの返信もない。一切連絡が取れないのは困ったけど、それでも「ま、いっか」って感じではあったんです。

 ところが昨年、ちょっとしたトラブルが起きまして、僕も含め部下たちは連日連夜、残業続きになった。部長も当然そのことは把握していたはずです。なのに、みんなが必死に火消しに追われている最中にゴルフに行った。しかも、同窓会ゴルフです。

 さすがにそのときはみな、『今、同窓会ゴルフに行くか~?』ってあきれ果てた。

 もちろんその場に部長がいたからといって、戦力になるわけではありません。でも、放任主義って結局のところ、無関心なんですよね。チームにも、人にも、仕事にも関心がない。

 なんやかんやいってもヒエラルキー型の組織では、課長の言葉に耳を傾けないヤツでも、部長の言葉には耳を傾ける。トラブっているときには、部長じゃなきゃダメだってときがあるわけですよ。
 なのにその自覚もないわけですから、無責任ですよね。どうせ最後は自己保身に走るでしょ。怖くて何もできませんよ。まだ、使えない上司や意地悪な上司の方がましだと思うんです。共通の敵ができると、案外チームの結束力は強まるんですよね(笑)。放任主義はチームを殺す。悪質だと思いますよ」

……以上です。

 確かに彼が指摘するとおり、アレコレ細かく指示する上司はウザいが、無関心な上司はウザい上司以上にやっかいな存在である。

 ナニを言っても、ナニをやっても、のれんに腕押し。

 結局のところ、部下に干渉しない上司は自分にしか興味がないので、都合の悪いことが起きれば責任を部下に押しつけ、とんずらする。それができてしまうのが、「階層組織の常」というものだったりもする。

リーダーシップを3つの類型から考えると…

 リーダーシップ類型はいくつかあるが、フォロワー(部下)たちの心理や行動に言及したのが、「社会心理学の父」と呼ばれる、クルト・レヴィンの「専制型」「民主型」「放任型」の3分類である。

 ベルリン大学の哲学と心理学の教授だったレヴィンは、ナチスから逃れるために1932年に渡米。コーネル大学やアイオワ大学の児童福祉研究所の児童心理学教授になった。

 ドイツ生まれのレヴィンは、米国で暮らすうちにドイツと米国のリーダーシップのスタイルの違いに気付く。米国の自由な空気に感銘を受け、リーダーのあり方が、一般の人々の心の状態に大きな影響を及ぼすと感じたのだ。

 そこで彼は1939年、学生だったロナルド・リピットとラルフ・K・ホワイトと共に、権威主義型、民主主義型、自由放任型という異なる三つのリーダーシップの効果を明らかにするための実験を実施。このときの実験のユニークさは、のちに社会心理学の世界でリーダーシップ論を語る上で極めて重要な知見をもたらした。

 実験では、11歳の少年たちが週に一度集まり、仮面を作るなどいろいろな活動をするクラブを作った。そして、このクラブを指導する大人が、「専制型ー権威主義」「民主型ー民主主義」「放任型ー自由放任」の3つのタイプのリーダーシップをそれぞれ演じ、子どもたちの状態を観察したのだ。

 「権威主義型のリーダー」には、子どもたちの意見を聞くことなく一方的に取り決めることを指示。リーダーは、子どもたちから距離を保ち、褒めたり批判したりはしたが、その理由は述べなかった。

 「民主主義型のリーダー」には、リーダーとクラブメンバーが一緒に意思決定するように指示した。リーダーは常に友好的に振る舞い、子どもたちを励まし指導した。また、評価するときには、必ずその理由を述べた。

 「自由放任型のリーダー」には、積極的な指導は一切しないように指示した。リーダーは友好的に振る舞ったが、子どもたちが求めない限り、自ら積極的に情報を提供することはしなかった。

 また、指導者はクラブの間を巡回し、すべてのクラブの子どもたちが、3つのタイプのリーダーシップを体験するように設定。そして、子どもたちの行動を、研究者たちはシステマティックに観察し、分析したのである。

 その結果……。

 「専制型リーダー」のグループでは、メンバーは不満を感じ、子どもたちは指導者にけんか腰になるタイプと、指導者を無視するタイプに分かれた。

 「民主型リーダー」のグループでは、メンバー同士が比較的協力し楽しんで作業をした。

 「放任型リーダー」のグループは、特に不満も示さなかったが、生産的でもなかった。

 また、この実験ではそれぞれのリーダーに自分のスタイルとは異なるタイプも演じてもらったのだが、結果は同じだったのである。

人は環境で変わる。人は環境を変えることができる

 レヴィン博士はその後、対象を変えて実験を重ね、次のような結論を報告している(アイオワ研究)。

 専制型のリーダーシップは、短期的には他の類型よりも仕事量が多く、高い生産性を得ることができる。しかし、長期的には、メンバーが相互に反感や不信感を抱くようになり、効果的ではない。

 民主型のリーダーシップは、短期的には専制型リーダーシップより生産性が低いが、長期的には高い生産性をあげる。メンバー間に友好的な雰囲気が生まれ、集団の団結度が高くなる。

 放任型のリーダーシップは、組織のまとまりもなく、メンバーの士気も低く、仕事の量・質とも最も低い。

 ただし、「組織の立ち上げ当初は『専制型』、安定してきたら『民主型』など、組織の形態や成長度合いによって、望ましいリーダーシップ類型を使い分ける方がより効果的と考えられる」と。

 また、いかなるリーダーもトレーニングを受けることで、それぞれのスタイルを獲得することができるとし、「人は環境で変わる。人は環境を変えることができる」という、極めて健康社会学的見解を提示したのである。

 つまり、アレだ。件の男性の、「野球とかサッカーとかのプロ集団を指揮する監督ならアリでしょうけど、普通の会社の、普通のメンバーの部署では、放任主義は機能しない」という感覚は正解なのだ。

 そして、今、社会心理学分野で問題になっているのが、放任型の中の亜流である、不在の(=absentee)リーダーシップだ。

部下の職務満足度を少なくとも2年間は低下させる

 “absentee”という言葉どおり、 彼らはリーダーでありながらリーダーシップを放棄。精神的に「欠勤状態」になっているのだ。
 そんな人が、なぜリーダーに? と思うかもしれないけど、彼らは上には自分の存在意義を示し、コミットしているので上司の評価は意外にも高い。また、問題が起きても自分は何もしていないので責任逃れが容易だ。

 で、その“absentee上司”が、部下や職場に及ぼす影響を調査したところ、「部下の職務満足度を少なくとも2年間は低下させる」ことが分かった(Relative Effects of Constructive, Laissez-Faire, and Tyrannical Leadership on Subordinate Job Satisfaction)。

 さらに、部下たちは「役割の曖昧さ」にストレスを感じ、チームメンバーの人間関係も悪化。その結果、モチベーションの低下や、ストレス症状に悩まされる部下が量産され、欠勤や辞職で、組織の生産性を低下させる可能性が示唆されたのだ。

 absentee、恐るべし。

 リーダーがいなくても回るチームを目指せ! とか、リーダー不在の方が、メンバーの士気が高まり、生産性があがる! とするリーダーシップ論考は山のように存在するが、言うまでもなくそこには、「リーダーはリーダーとしてのお仕事をする」という前提がある。

 リーダーはリーダー。腐ってもリーダー。
 リーダーとは危機的状況に対処するための“装置”だ。

 さて、明後日からゴールデンウィーク後半戦。リーダーのみなさま、きちんと休んで連休明けは、身も心も元気に職場に復帰してくださいませ。

『他人をバカにしたがる男たち』
発売から半年経っても、まだまだ売れ続けています! しぶとい人気の「ジジイの壁」

他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)

《今週のイチ推し(アサヒ芸能)》江上剛氏

 本書は日本の希望となる「ジジイ」になるにはどうすればよいか、を多くの事例を交えながら指南してくれる。組織の「ジジイ」化に悩む人は本書を読めば、目からうろこが落ちること請け合いだ。

 特に〈女をバカにする男たち〉の章は本書の白眉ではないか。「組織内で女性が活躍できないのは、男性がエンビー型嫉妬に囚われているから」と説く。これは男対女に限ったことではない。社内いじめ、ヘイトスピーチ、格差社会や貧困問題なども、多くの人がエンビー型嫉妬のワナに落ちてるからではないかと考え込んでしまった。

 気軽に読めるが、学術書並みに深い内容を秘めている。

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