日本を含む主要同盟国の自主防衛強化を米大統領選で強く求めていたドナルド・トランプ氏の政権が2017年に発足する。従来以上に安全保障について当事者意識を持った議論が日本でも避けられない。そんな折、近未来の日本の防衛装備品とはいかなるものか、防衛装備庁が11月中旬に実施した技術展示会ではロボットやステルス関連など、日本政府が取り組んでいる様々な研究の実例が示された。

 「行くぞ、ついてこい」。軽く上げた腕を前方に動かすといった身振りをすると、キャタピラのついたロボットが意味を認識し、その人を自動追従し始める。こうした動作の指示などに使えるのが、防衛装備庁が研究する「ジェスチャーによるロボット操縦」だ。センサーによって悪天候や夜間でも人間の頭部や手足の動きを読み取り、具体的な意味を持った身振りであるならばその内容を分析。ロボットは進行や停止など指示された通りの動作をする。現在は6つの身振りに対応できるという。

 有事の際、ロボット操縦用のコントローラーを使うのはまどろっこしいうえ、手元の操作に気を取られていては周囲の状況確認がおろそかになり操縦者の身が危なくなりかねない。だが同僚に対して行うような自然な身振りで意図が伝わるなら簡単だ。ロボットは物資輸送や怪我人の搬送、偵察などの用途を想定している。同種のロボットは各国が競って開発に乗り出しているところ。6月にフランスで開かれた世界最大級の防衛装備見本市「ユーロサトリ」でも海外企業によるデモンストレーションを見た。遠からず実際の現場でも目にすることになるだろう。

防衛装備庁が開発中の身振りで動くロボット
防衛装備庁が開発中の身振りで動くロボット
海外でも小型ロボットの開発が進む(6月にフランスで開かれた防衛見本市)
海外でも小型ロボットの開発が進む(6月にフランスで開かれた防衛見本市)

ミサイルを機内に格納、戦闘機の形はシンプルに

 レーダーで捕捉されにくいステルス性能の向上も防衛装備品にとって重要な課題だ。航空自衛隊の主力戦闘機F-15をはじめ現在は主翼下にミサイルがばらばらとぶら下がっているが、機体や装備にデコボコがあるほど電波を反射して敵に捕捉されやすくなる。そこで研究中なのが戦闘機の機体内部にこうしたミサイルなどの武器を普段は収納しておく技術。実現すれば戦闘機はずいぶんとシンプルな形になる。

 メリットとしてステルス性能の向上はもちろん、飛行時の空気抵抗の減少によるスピードアップが挙げられる。逆にデメリットとして収納スペース分だけ機体が大きくなり、開閉部などの機構も複雑化する。機体全体のバランスを考えた場合に武器の搭載数が減少する可能性もあり、防衛装備庁の担当者は「技術的には実現に近づいているが、実際に採用するにはまだ時間がかかるだろう」と話す。

シンプルな形は敵機のレーダーで捕捉されにくい
シンプルな形は敵機のレーダーで捕捉されにくい

 このほかにも戦闘車両の軽量化研究などが示された。陸上自衛隊の10式戦車などのキャタピラ部分は鉄製の履帯で覆っているが、将来はゴム製に代替できないか試行錯誤を進めているところだ。車体が軽くなることで島しょ部など遠隔地へ迅速に輸送しやすくなったり、燃費が向上したりする利点があるという。さらに走行時の振動や騒音が軽減し、路面が傷つきにくくなったり、敵に発見されにくくなったりという効果もあるという。耐久性などの課題を引き続き検証する段階だ。

脳血流から防衛装備品の使い勝手を判定

 直接的な装備以外でユニークだったのが脳波などを活用した研究。何らかの作業を行っている際の脳血流を測定することで、情報処理に伴って作業者にかかっている負荷量を分析。この原理を応用し、客観的に防衛装備品の使いやすさなどを判定しようという発想だ。作業者に過度な負荷がかかっていれば、それは操作性などの面で課題を抱えた防衛装備品ということになる。防衛装備品は年々、機能の高度化と同時に扱いも複雑化しつつあるとされる。まだ基礎研究の段階としているが、実際の任務ではとっさの判断が求められる局面も少なくないだけに、科学的な根拠に裏打ちされた操作性を確立できれば有意義だろう。

 ここで紹介したのは展示会のごく一部だ。防衛装備庁は年に1度、関連機関などによる研究内容を一般社会に公表することを目的に展示会を実施している。防衛省近くのホテルを会場に、今年は2日間で2000人以上が訪れた。

 米国の納税者の得失に敏感なトランプ政権が発足すれば、日本を含めて米国の同盟国は防衛力の大幅な強化が求められる可能性がある。とにもかくにも米国に頼っていれば何とかなった時代は終わった。今後の展開は日本の判断となるとはいえ、結果的に防衛省や防衛装備庁、防衛産業が従来よりも大きな役割を果たす可能性も少なくない。

 こうした中、次世代の防衛装備品としてどのような研究開発が進んでいるのか、それは中長期的に日本の安全保障政策とも密接にかかわる。目を背けることなく社会の側も一定の関心を持つことが大切だろう。

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