米Intertrust Technologiesは2016年12月13日(米国時間)、同社に対して日本のベンチャーキャピタルのWiLとドイツの電力会社innogyが出資したと発表した。著作権管理(DRM:Digital Rights Management)技術で知られるIntertrustだが、Talal Shamoon CEO(最高経営責任者)は「我々は今後、産業IoT(Internet of Things)とビッグデータの企業になる」と語る(写真1)。
1990年に創業し、シリコンバレーに拠点を置くIntertrustは、コンテンツの違法コピーを防ぐDRM技術「Marlin DRM」のライセンスを、ソニーやパナソニックなどの家電メーカー、各国の放送事業者に提供する企業として知られる。IntertrustのDRM技術は日本の「アクトビラ」のほか、英国やイタリアの国営テレビ局などにも採用されている。またIntertrustは、米Googleが2014年1月に買収した米Nest Labsにも出資していた。
Intertrustのビジネスはこれまで家電分野が中心だったが、産業革新機構やANAホールディングスなどが出資者に名を連ねるベンチャーキャピタルであるWiLや、ドイツ第2位の電力会社RWEの再生可能エネルギー部門が独立したinnogyなどから出資を受けることによって、「家電向けのビジネスに加えて、電力業界などをターゲットにした産業IoTのビジネスを拡大していく」(Shamoon CEO)という。
Intertrustは2003年にソニーとオランダPhillips、金融会社のStephensの3社によって買収され、非公開会社となっていた。今回のWiLとinnogyによる出資額は公開していないが、「新しい株主が増えることによって、既存3社の出資比率は減少する」(同)とする。
デジタル家電のデバイス認証技術などをIoTデバイスに転用
IntertrustのShamoon CEOは産業IoTをターゲットに、IoTデバイスのセキュリティを保護するデバイス側のソリューションと、IoTデバイスが生み出すビッグデータを分析するクラウド側のソリューションを提供していくという。
デバイス側のソリューションは、デジタルテレビ向けのDRM技術で使用していたデバイス認証技術や、ソフトウエアの解析を防ぐ「耐タンパー性技術」などを転用したもの。これらの技術をIoTデバイスに組み込むことで、IoTデバイスから安全にデータを収集できるようになるという。Shamoon CEOによれば、Intertrustのデバイス認証技術は米国で著名なホームIoTデバイスに採用されているほか、耐タンパー性技術はドイツの大手自動車会社に採用されているという。
クラウド側のソリューションは、IoTデバイスから収集したビッグデータを分析するクラウドサービスで、同社は「Trusted Cloud Service」と呼んでいる。ビッグデータ分析のOSS(オープンソースソフトウエア)である「Spark」などをベースにしたビッグデータ分析基盤に、同社独自のセキュリティ機能を加えてサービスとして提供する。その最大の特徴は「複数の企業が所有するデータを、その機密性を損なうことなく、総合的に分析できること」(Shamoon CEO)だという。
「風力発電会社は、自社の風力発電機の稼働データの詳細を他社に公開したくない。しかしその一方で、自社だけでなく他社の風力発電機の稼働データも含めて、データ分析をしたいと考えている。当社の技術を使用すると、他社のデータの詳細は見られないし、自社のデータの詳細は他社から見られないが、自社と他社のデータを統合して分析した結果は見られるようになる」。Shamoon CEOは同社の技術をそう説明する(写真2)。
個別のデータではなく、データ分析の結果を共有
同社は既にこの技術をデジタル広告(AdTech)向けのデータ分析ソリューション「Personagraph」に使用している。Personagraphは、モバイルアプリケーションを利用する消費者の行動データから、その消費者の属性などを予測するサービス。属性予測に使用する消費者データは様々な企業から収集し、Intertrustのクラウド上で分析した。
Personagraphの顧客企業は、消費者の行動データを分析した結果を他社と共有していることになるが、消費者の行動データそのものは共有していない。Intertrustはこれと同じ仕組みのデータ分析サービスを、産業IoT市場向けに2017年初めにリリースする予定だ。
「当社はもともと研究開発中心の企業で、最初のビジネスはDRM技術の他社へのライセンスだった。その後はNest Labsに投資するなど、ベンチャーキャピタルとしての活動もしてきた。今後は市場に対して製品を販売する『プロダクトカンパニー』になる」。Shamoon CEOはそう語っている。
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