今年9月、コンビニエンスストア3位のファミリーマートと、4位のサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(HD)が経営統合する。両社は2月3日に統合後の経営体制などを発表。翌4日、記者会見を開いた。

中央に立つのがファミリーマートの上田準二会長。その両脇をファミリーマートの中山勇社長(上田会長の左)と、ユニーグループHDの佐古則男社長が固める。右端はサークルKサンクスの竹内修一社長、左端がサプライズ人事の目玉であるリヴァンプの澤田貴司社長兼CEOだ(撮影:的野 弘路)
中央に立つのがファミリーマートの上田準二会長。その両脇をファミリーマートの中山勇社長(上田会長の左)と、ユニーグループHDの佐古則男社長が固める。右端はサークルKサンクスの竹内修一社長、左端がサプライズ人事の目玉であるリヴァンプの澤田貴司社長兼CEOだ(撮影:的野 弘路)

 「この経営統合は、両社のお客様、取引先、加盟店、そして株主、社員にとって、より多くの利益をもたらすと確信しております」。会見の冒頭、ファミリーマートの上田準二会長は、こう語った。

 統合後、ファミリーマートとユニーグループHDの持ち株会社の社名は、ユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)になる。この傘下に、コンビニ事業を展開する事業会社ファミリーマート(サークルKサンクスのコンビニ事業と一体化)と、総合スーパー(GMS)を展開するユニーが収まる構造だ。

 コンビニ事業では国内に約1万1000店を持つファミリーマートと、約6000店を展開するサークルKサンクスが一緒になる。ブランド名は「ファミリーマート」に統一し、2019年2月までに統一作業を終える計画だ。今年9月以降、「サークルK」「サンクス」という2つのブランドは、順次消えることになる。

 持ち株会社とコンビニ事業会社は、現ファミリーマートがある東京・東池袋に、GMS事業会社は引き続き愛知県稲沢市に本社を置く予定だ。

 持ち株会社、ユニー・ファミリーマートHDの社長に就くのはファミリーマートの上田会長。同社の副社長に、ファミリーマートの中山勇現社長と、ユニーグループHDの佐古則男現社長が就任。中山現社長は、統合後のコンビニ事業会社の会長に、ユニーグループHDの佐古現社長はGMS事業会社の社長に就く。

 一連の発表内容は、いずれも関係者の想定通りのものだった。当初から、今回の統合を主導した上田会長が、統合後の新体制でも経営の指揮を執るという見方が多かった。またコンビニの店名も、店舗数の多い「ファミリーマート」に統一すると考えられていた。

 唯一のサプライズは、コンビニ事業会社の社長に、外からある人物を招聘したことだろう。それが、企業経営支援会社であるリヴァンプの澤田貴司社長兼CEOだ。

「本当はリタイアしようと思っていた」

 今回の統合の絵を描いてきたのは上田会長であり、澤田氏の起用についても意向が働いているとみるのが自然だ。統合後の経営体制について質問を受けた上田会長は、のっけから驚きの告白を始めた。自身の進退についてだ。

突然、リタイアしようと思っていたと語りだす上田会長
突然、リタイアしようと思っていたと語りだす上田会長

 「正直言いましてね、私は昨年3月をもって、ファミリーマートの経営からリタイアしようと思っておりました。で、その後、ユニーグループとの統合の話が出て、この件は過去において私が何度かユニーさんにお声がけをした経緯もあって、なぜそれが実現しなかったかという経緯も私が一番分かっています」

 「そういう中で、佐古社長や中山社長による基本合意を受けて、統合作業を進める中で、両氏からも、新しい統合会社の社長は上田がやってくれないかというような話もありました」

 「一方で、私自身もこれまでの経験を生かして、やるべきではないかという気持ちに至りました。ですから(新体制で)私が社長に就くというのは、ついこの2カ月以内に関係者の方々と話をして決めました」

 日経ビジネスが昨年12月に実施した上田会長のインタビュー(「ファミマ上田会長が激白『3位では生き残れない』」)でも、上田会長は「まず僕がリタイアするかどうかを決めないとダメだよね」と語っていた。自身の進退について迷いを重ねながら、最終的には昨年末から今年の年始あたりに決断を下したという。

 年明けには、ファミリーマートの筆頭株主である伊藤忠商事の岡藤正広社長が、社長職を続投する意向を発表した。伊藤忠では過去2代の社長が6年で交代しており、6年目を迎える岡藤社長の去就にも注目が集まっていた。筆頭株主として、ファミリーマートとユニーグループHDの統合を無条件で認めてきたわけではなく、ユニーのGMS事業の先行きなどに懸念を示してきた。そんな岡藤社長の続投が、上田会長の「リタイア断念」にも何らかの影響を及ぼしたのではないか。こうした問いに上田会長は語気を強めた。

 「伊藤忠(社長)の続投と、今回の新統合会社の人事とは、全く関係ありません」。

 今回の統合を自らのリーダーシップで進めてきたという、上田会長の自負がにじむ。

なぜ澤田氏に白羽の矢が?

 新体制で統合を主導した上田会長が、引き続き経営の指揮を執るのは理解できる。だがなぜコンビニ事業の社長に、外から経営者を連れてこなくてはならなかったのだろうか。上田会長はこう説明を続けた。

ファミリーマートの次期社長に就く澤田氏
ファミリーマートの次期社長に就く澤田氏

 「今度の統合では、コンビニエンス部門が1万8000店を超える規模になっていきます。これだけフィールドが広がり、(店舗が)海外にも広がっている中で、(ファミマ現社長の)中山氏がこれを1人でマネジメントするのは相当、エネルギーがいるだろうな、と」

 「ホールディングスの一体経営についても、私を補佐しながら、中山氏にきっちりとやってもらわないといけない。ガバナンスを強化するために1人招聘しようと中山氏と話をしました」

 「中山氏と澤田氏は伊藤忠時代から同期で、その後も交流があった。澤田氏はご存知のように、小売業に造詣が深く、いろいろな会社のマネジメントもやってきています。そこで澤田氏を招聘して、コンビニ事業の社長になってもらおうとなった」

 澤田氏の名前を知る人も多いはずだ。伊藤忠出身の澤田氏は1997年、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングに転じる。その才覚が柳井正会長兼CEOの目に止まり、翌98年には副社長に就任。「フリースブーム」の仕掛け人とされ、柳井会長からは次期社長候補と目されていたようだ。

 ファーストリテイリングを退社後、投資ファンド運営会社キアコンや、リヴァンプなどを立ち上げてきた。アイスクリームのコールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンやクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン、ロッテリアといった飲食関連で事業の立ち上げや経営支援にも携わってきた。今年に入り、伊藤忠時代の同期の中山現社長から、澤田氏に打診をし、最終的には1月後半に、澤田氏がファミリーマート入りを決めたという。

澤田新社長を待ち受ける3つの「いきなり」

 ファミリーマート次期社長として、会見に出た澤田氏は、やや緊張した様子で次のように挨拶をした。

 「皆さんの前に立つのは久しぶりなので緊張しています。けれど今回、こういうチャンスをいただいた上田会長、中山社長、佐古社長、竹内社長に感謝しています。私は現在、リヴァンプを経営していますが、これだけ大きなスケールの会社で、経営の一員として仕事に関われることにワクワクしています」

 「日本市場はすごく大きなマーケットだと思います。アメリカ、中国に続く大きなマーケットで1万8000店もあると、色々なお仕事ができるはずです。ダイナミックなお仕事ができると、ワクワクして話を聞きました」

 「ただ、ワクワクしてはいるんですが、(コンビニ事業は)やったことのない“ど素人”です。コンビニを随分利用していますが、経営したことはないので、まずは現場をまわって加盟店オーナー様などからご指導をいただき、徹底的に勉強してきたいと思います」

「人生の締めくくりとしての大きなチャレンジに、必ずや社員の皆さん、オーナーの皆さんと力を合わせて成功したいと思っています。いろいろな形でアドバイスをいただければと思っています」

 「学ばせてもらいたい」「アドバイスをいただきたい」と繰り返したのが印象的だった。

 コンビニ事業を手がけたことがないのに、果たして経営することはできるのだろうか。だが実は、コンビニ業界でそんな事例は決して珍しくはない。ファミリーマートの上田現会長や中山現社長は伊藤忠商事の出身だし、ローソンの新浪剛史前社長も三菱商事出身だ。ローソンの玉塚社長も、小売業の経験こそあるものの、コンビニ事業に携わるのは、2010年にローソンに転じてからのことになる。

 コンビニ上位3社ではセブンイレブンを除けば、どの経営者も最初は澤田氏と同じ、“ど素人”だったわけだ。だが、澤田氏の場合は少し事情が異なっている。というのも、極めて難しい局面で、3つの「いきなり」に直面するからだ。

 まず1つは当然、「いきなり」外部出身者が社長になるということ。これだけなら、「プロ経営者」を起用する会社では、珍しくないことだ。だが、澤田氏の場合は、それだけでなく、小売業でもまれに見る大規模統合の中で、コンビニ事業の経営執行を、「いきなり」担うことになるわけだ。ファミリーマートとユニーグループHDが統合する9月にコンビニ事業会社のトップの座に就く。統合という「大事件」を前に、浮足立ちかねない加盟店オーナーを相手に、チェーンを束ねなくてはならない。

 加えて、現在のファミリーマートが進めている中期経営計画は極めてハードルの高い内容だ。つまり3つ目の「いきなり」は、計画達成に向けて、かつてないコンビニの大改革に挑まなくてはならないということだ。

「(ファミリーマートの現在の)日商52~53万円では、目指しているゴールにはほど遠い。現在、ファミリーマートでは『600Kプロジェクト』として日商60万円を早く達成しようと、中食構造改革や物流構造改革を進めている」と中山社長は説明する。この高いハードルを、澤田氏は当初から課せられるわけだ。

 日商60万円を目指すために、ファミリーマートは現在、従来型の「コンビニ第2フェーズ」から、新たな業態である「第3フェーズ」へ進化すべきと掲げている(詳細は「ファミマ、水面下で進む改革の仕掛け人」、「ファミマ、統合のリスクをチャンスに変える」)。コンビニ経営の乏しい澤田社長は、進化した第3フェーズのコンビニの未来図を描き、形にしなくてはならない。

「玉塚に教わるつもりはない」

 澤田氏は、ライバル企業である、ローソンの玉塚元一社長と深い縁がある。

 ファーストリテイリング時代、柳井会長が「次期社長に」と打診した社長の座を、澤田氏が辞退したことで、当時同社の幹部だった玉塚社長が就いたとされる。結局、玉塚社長は数年でファーストリテイリング社長の座を解任され、澤田氏と一緒にリヴァンプを立ち上げる。その後、ローソンの新浪前社長の誘いを受け、コンビニの経営に携わるようになった。

 浅からぬ関係の2人が、9月以降、同じコンビニ業界で対峙することになるわけだ。ローソンの玉塚社長には今回のサプライズ人事を、事前に報告していたのか。そんな問いに、澤田氏はこう説明をした。

 「玉塚くんに、この話は一切していません。彼とは30年以上の付き合いだけれど、今回の件は話ができていません。これからケータイに電話がかかってくるかもしれないけれど、知らぬ存ぜぬで通そうかと思っています」

 「玉塚は僕のライバルだと思っていないんで。私はまず、先ほども申した通り、社員や加盟店オーナーの皆さんから話を聞いて、まずは学ばないといかません。だからライバルという意識よりも、まずは自分がしっかりと勉強してからでしょう」

「玉塚から教わるつもりはないが、皆さんからはしっかりとご指導してもらいたい。あまり玉塚をいじめないでください(笑)」

 あくまで、まずはコンビニ経営を「学ぶこと」が重要であると繰り返した。

 大統合の最中に「いきなり」、コンビニ経営を託されることになる澤田氏。「盟友」の玉塚氏以上に、超えなくてはならない壁は高いだろう。

■変更履歴
本文中、「伊藤忠商事の岡藤正弘社長」としていたのは、正しくは「伊藤忠商事の岡藤正広社長」。「ローソンの新浪剛前社長」としていたのは、正しくは「ローソンの新浪剛史前社長」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2016/02/05 9:55]
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