桔梗お姉さまオールアップ:サンデーS 2025/02月号2025/01/25




 『半妖の夜叉姫』には時代樹役で特別出演の桔梗お姉さま、おそらく今回で出番は終了です。キャラは俳優さんと違い、契約でスケジュールが決まっているわけではないので、その気になればいつでも呼び出せます。だから物語上の役割が終わってもたとえば回想シーンで登場したりすることはあると思うんですけど、漫画を描いているとときどき「あ、この子はもう登場しないな」っていう手応えがあるケースがあります。

 基本的にこの漫画のキャラクターたちはるーみっくワールドから一時的にウチの仕事場に来てもらってる子たちです。とはいえ、それでも描いてる間は私の中に存在してます。それがこのシーンのあとフッといなくなったので、これはきっと高橋留美子先生のとこに帰ったのでしょうね。執筆中の脳内では映画やドラマの撮影現場の「桔梗さん、オールアップです。お疲れ様でしたー!パチパチパチパチ」みたいな。

 そういえば以前、かごめ役のゆきのさつきさんが『犬夜叉』収録当時のことを語ったインタビューで、ちょっと面白いエピソードを紹介してらして。ここでその詳細は書きませんけど、今回の劇中ではそれをちょっと擦りました(笑)。『犬夜叉』『らんま1/2』ファンにはよく知られた、楽しい中の人エピソード・・・まあわかる人だけ笑ってくれれば。



 現代の東京をウロウロする夜叉姫を描くのはたいへん楽しかったです。もっと描写したかったけど、全体のバランスを考えるとこれ以上はページを割けなくてちょっと残念です。姫たちが休憩してたハンバーガー屋は『犬夜叉』でかごめちゃんがときどき寄っていたのと同じチェーン。ただし「都心を巡ったあと、帰宅するまでお腹が保たないのでちょっと軽食」という場面なので別の支店です。


 アニメ冒頭に登場した「飛頭根」は「根の首」と共にここで投入。麒麟丸は未来での風車起動に備えて、資材と一緒にこの二種類の妖怪を安全な場所に埋蔵してたという設定です。いやほら、あいつら乾燥させると休眠状態で長期保存できそうじゃないですか(笑)。


 マンションを襲った方の根の首は、水道設備に侵入してると想定してます。ということは退治しても修理が必要になって、あそこの住民困りますね。姫たちが日暮家とお別れするシーンのロケーションは神社であるべきなので、マンションに住めなくなった草太たちがしばらく日暮家で同居するという自然な流れになってちょうどいいかも。


 りんちゃんが殺生丸に頼み事をされたのは『抱擁』で交わした会話のあと、とわたちのとこへ行く前です。ていうかそこしかタイミングがありませんね。読み返すと会話を切り上げたように見えてそうとも限らない感じではあるんで、そういうことにしましょう。


「理玖が姿を変えて、自分と出会う前のとわのそばにいた」設定は高橋留美子先生に喜んでもらえました。序盤に伏線を入れられるともっと良かったんですが、正直1話目を描いたときにはそこまで手が回らなかったのでやむなし。でもまあ『時をかける少女』『ある日どこかで』的な時間SFロマン風味を入れつつ終盤の構造がだいぶシンプルになって、なんとか10巻でまとめられそうです。


お父さんといっしょ:サンデーS 2025/03月号2025/01/25



 ドラマはいよいよ終盤です。アニメを再構成してシンプルな漫画のフォーマットにまとめる作業は、残り話数の計算も加わっていっそう厳しくなります。


 そんな中、私の個人的な主題「残された人たちの想い」を完結させることができて、仕上がりにはかなり満足してます。コミカライズ版では草太くんが裏の主役で、私の分身です。もろはとせつなと共にとわを救いに行く道を、『犬夜叉』でかごめを救いに行った団地脇にするというのを思いついた時にはガッツポーズでした。戦国御伽草子の世界に行くことは叶わなかったけれど、彼自身があこがれの人のロールを演じることで、満たされなかったものに決着を得たという。物語によくある「彼は君の中に生きている」というやつを、草太は身をもって実感してくれたのではないでしょうか。いやまあ犬夜叉先輩は戦国時代で元気に生きてますけど。


 アニメ版の希林先生の狂気というか不完全さは、戦国御伽草子における妖怪の精神構造の不気味さのバリエーションでした。そこをオミットしたのはちょっと惜しいものの、理玖と同一人物としたアレンジは、理玖の主題を短いページでうまくまとめるアイデアだったと思います。現代と戦国時代がシンクロする構成にしたまではよかったけど、麒麟丸と殺生丸は何ヶ月もお見合い状態になっちゃったので(笑)、早いとこ決着に持って行きたい。



 とわが希林先生の誘惑を退けるくだり、直前までは「日暮家と過ごした時間も大切だから捨てるわけにはいかない」で済まそうと思っていました。ところが執筆中にとわと丸さまから「このシーンについてちょっと提案があるのだが」という電波を受信。協議の結果「貴様が気に入らないからだ!」とさせていただきました(笑)。たしかにその方が彼ららしい。こういうアドリブの例はこれまでも何度かご紹介したとおりで、 キャラクターからの提案を受信するのは漫画執筆の醍醐味です。頭でシナリオを作ると論理的な整合性で組み立てるばかりになりがちなんですが、キャラクターを実在する仕事仲間・創作のパートナーとして扱っていると、こういう理屈を超えた飛躍を持ち込んでくれるのです。美神やチルドレンにはずいぶん世話になったけど、まさか高橋留美子先生んちの殺生丸さまともそんな関係になれるとは想像もしてなかったわ。あと「邪見様を抱き上げる琥珀」というのも実は琥珀のアドリブで、描きながらこっそりニヤニヤしてました。『犬夜叉』後の琥珀の成長を感じて「大人になったなあ」って。



 楽しい仕事で、三年はあっという間でした。あと数回でキャラクターや作品世界とお別れするというのはひじょうに名残惜しいです。きれいに完結させなきゃっていうプレッシャーもありますけど。これ終わって次の自分の企画どうしようという不安もありますけど。

 完結までもうしばらく妖霊星との戦いに決着がついて、麒麟丸と殺生丸の戦いにも決着がついて、とわたちが戦国時代に戻るまでおつきあいください・・・・まだけっこうやることあるな。