この不況下で順調に売り上げを伸ばしているITベンダーがある。Linuxディストリビューションのサポートをビジネスの主軸とする米Red Hatだ。
Red Hatの直近の業績発表によると,2010年度第2四半期(2009年6~8月)の営業利益は2754万2000ドル(1ドル100円換算で27億5420万円)で,前年四半期から29%増となった。年間でみても,2009年度(08年3月~09年2月)の営業利益は,8252万1000ドル(同82億5210万円)で,前年から17%増である。日本国内の売り上げは公表していないが「グローバルの業績に準じている」(レッドハット広報)とする。
調査会社の米IDCは2009年7月に,「オープンソースがもたらす収益は,2013年までに年平均22.4%の割合で成長する」という予想を発表した。不況によってコスト削減を図る企業が多いのが主な理由だ。
Red Hatしかもうからない?
では,他のオープンソース・ベンダーも,もうかっているのかというと,決してそうではない。「Red Hatの1人勝ちだ」とRed Hat Enterprise Linuxを扱う国内中堅ベンダーのオープンソース・ビジネス担当者は漏らす。確かに,他のオープンソース・ベンダーから「もうかっている」という話は聞こえてこない。この差はどこから生じているのだろうか。
オープンソース・ソフト関連のビジネス形態は,大きく3パターンある。
- ライセンス販売:オープンソース・ソフトを強化したり,他のソフトと組み合わせたりするなどしてライセンス販売する
- 保守サービス:オープンソース・ソフトのセキュリティ・パッチの提供やトラブル時の対応などのサービスを有償で提供する
- 周辺サービス:オープンソース・ソフトを使ったシステム構築やコンサルティング,教育の支援サービスなどを有償で提供する
国内のLinuxディストリビュータであるターボリナックスやミラクル・リナックスは従来,(1)を軸に展開してきた。しかし,そのビジネスは成功しているとは言いがたい。オープンソース・ソフトによるライセンス販売で収益を伸ばすのは,やはり難しい。
国内の中堅・大手ベンダーの多くは(2)と(3)を提供している。各社とも,ビジネスを継続できるくらいの利益は上げているようだ。ただ,企業システムの中核で使われている例は少ないので,大きな売り上げにはつながりにくい。
(2)を主軸とするRed Hatの売り上げが順調に伸びているのは,同社のディストリビューションであるRed Hat Enterprise Linuxの利用者数が多いからだ。そこまでの利用者をもつソフトは少ない。ファイル共有ソフト「Samba」などの保守サービスを提供するベンダーの代表取締役は,ある講演で「サポートだけではもうからない」と述べていた。
企業システムでオープンソース・ソフトの利用が進めば,市場全体は伸びるだろう。しかし,オープンソースはソースコードが公開されているので,技術を習得すれば誰でも参入できる。実際,Red Hat Enterprise Linuxのサポートを米OracleがRed Hatよりも安く提供する,といった現象も起きている。独自性がないサービスは,すぐにコスト競争に巻き込まれてしまう。
Googleと同じ道を目指すべき
「ビジネス・モデルを考え直すべきときにある」。ターボリナックスの矢野広一代表取締役社長はこう述べる。その際に手本とするのは米Googleだ。
ターボリナックスはGoogleのように,オープンソース・ソフトを使って価値のあるサービスを提供しようとしている。実際,中国企業向けに,同社が扱うオープンソース・ソフトを使った電子商取引(EC)サイトのサービスを展開し始めた。
サービスで勝負するなら,商用ソフトを使ってもよいのではないか。こんな疑問を投げると,矢野社長は「自分で保守したり,工夫を加えたりできる点が商用ソフトと違う。成功した企業の多くはオープンソースを使っているが,単に安いからではない」と説明する。ソフトの技術力を生かしたサービスがもうけどころというわけだ。
オープンソース・ベンダーが,今からRed Hatのようにスケールメリットを得るのは難しい。そうなると,Googleのような道を目指すしかないことになる。少なくとも製品やサービスに何らかの独自性を出していく必要はあるだろう。