できる 仕事がはかどるPython自動処理 全部入り。を執筆しました
インプレスから「できる」シリーズの Python 版として発売されました。著者の1人として執筆に関わったので紹介します。
名前が長いので本稿では本書のことを「できるPy」と呼びます。誰も聞いていませんが、ハッシュタグは #dekiru_py です。
経緯
2018年3月頃に知人からビジネスパーソンを対象に本書の監修として企画・構成をしてほしいといった依頼をいただきました。そのとき、書き手はやる気のある若い人たちがたくさんいるからと、私が目次を作って全体の構成をまとめたら誰かがコンテンツを書いてくれて、私は出来上がったコンテンツをレビューするのが主な役割になるのかなと安易に考えていました。
結果的には私が他の執筆者全員に声をかけて書いてもらうようにお願いして、私自身も著者の1人として少なくない割合を執筆しました。
詳細な目次
インプレスサイトでは目次が公開されていません。Amazon のサイトにも章レベルの目次しかありません。店頭で目次チェックするのも面倒だと思うので詳細な目次を書いておきます。目次のタイトルは編集者さんが対象とする読者層、ビジネスパーソンな方々がわかりやすいようにつけてくれました。
次のような「ここもポイント」という見出しでちょっとした小話や発展的なヒントをいくつか書いています。その目次も一緒に含めておきます。
Chapter 1 Pythonのプログラムを利用する前に … 011
Pythonの紹介
- 001 Pythonがビジネスに役立つってホント? … 012
- ここもポイント | インデントルールの背景 … 014
実行環境の構築
- 002 Pythonをインストールする … 017
- 003 Visual Studio Codeをインストールする … 023
実行環境の注意点
- 004 OSによる違いを把握する … 032
Chapter 2 コマンドラインインターフェース … 035
コマンドラインインターフェース
- 005 ソースコードの実行に利用するPowerShell … 036
- 006 PowerShellの基本操作 … 040
- ここもポイント | 「フォルダ」と「ディレクトリ」 … 043
- ここもポイント | エクスプローラーからPowerShellを開く … 045
- 007 PowerShellの便利な機能 … 046
インタラクティブシェル
- 008 インタラクティブシェルを使ってPythonを学ぶ … 049
- 009 高機能なインタラクティブシェル「IPython」を利用する … 052
- 010 インタラクティブシェルを使うメリットとは? … 057
Chapter 3 サードパーティライブラリのインストール … 059
パッケージマネージャ
- 011 パッケージマネージャを使ってライブラリをインストールする … 060
- ここもポイント | その他の処理系 … 061
- 012 condaを使ったパッケージのインストール … 062
- 013 pipを使ったパッケージのインストール … 067
Chapter 4 Pythonのおさらい … 069
プログラミング用語
- 014 覚えておきたいPython&プログラミングの基本用語 … 070
用語と文法
- 015 Pythonプログラミングの基本 … 074
基本テクニック
Chapter 5 ファイルの操作と圧縮・展開 … 097
ファイル一覧の取得
- 018 フォルダ内のファイルを一覧表示する … 098
- 019 特定種類のファイルだけを表示する … 101
ファイルの圧縮/展開
- 020 ZIPファイルを作成/展開する … 103
- ここもポイント | プログラムを書かずにコマンドラインでZIP操作する … 106
- 021 ZIPファイルに含まれるファイル名を文字化けさせずに表示する … 107
- 022 ZIPファイルに含まれるファイル名を文字化けさせずに展開する … 116
Chapter 6 画像の加工 … 119
Pillowによる画像加工
- 023 Pillowを使った画像処理の基本 … 120
- 024 画像のサイズ変更と切り抜きを行う … 123
- 025 画像を回転する … 125
- 026 画像をモノクロにする … 126
画像の連続処理
- 027 画像のサイズをまとめて調整する … 127
piexif
- 028 画像のメタデータを編集する … 134
Chapter 7 CSVファイルの処理 … 137
CSVファイルの読み込み
- 029 CSVファイルを読み込む … 138
- ここもポイント | ちょっとした集計にも役立つ関数 … 142
- 030 読み込んだCSVファイルを1行ずつ処理する … 143
- 031 ヘッダー行がないCSVファイルを読み込む … 145
- 032 文字コードを指定してCSVファイルを読み込む … 146
CSVファイルの書き込み
- 033 CSVファイルを書き込む … 148
- 034 列の順番を指定してCSVファイルを書き込む … 151
- 035 インデックス列を出力せずにCSVファイルを書き込む … 152
- 036 項目(値)にクォートを付けてCSVファイルを書き込む … 153
- 037 タブ区切りのデータとしてファイルを書き込む … 158
- 038 読み込んだCSVファイルに列を追加して書き込む … 159
- 039 JSONデータを読み込んでCSVファイルを書き込む … 160
CSVビューアーの作成
- 040 横に長いデータを縦向きで表示する … 163
- 041 複数の値を扱うときに便利な組み込み関数 … 171
- 042 指定した列番号の情報だけを表示する … 173
- ここもポイント | 大きなプログラムを作るときのコツ … 174
Chapter 8 テキストデータの処理 … 175
文字列操作
- 043 文字列の基本的な操作 … 176
正規表現
- 044 正規表現を使った文字列の扱い … 184
- 045 正規表現にマッチするすべての文字列を取り出す … 189
- 046 HTMLファイルからタグを取り除く … 191
- 047 非構造化テキストをディクショナリにする … 193
テキスト抽出
- 048 Microsoft Wordからテキスト抽出 … 196
- 049 Microsoft PowerPointからテキスト抽出 … 202
- 050 PDFからテキスト抽出 … 207
- 051 Markdown形式のドキュメントをHTMLに変換する … 215
形態素解析
- 052 テキストから重要語句を抜き出す … 219
Chapter 9 Microsoft Excelとの連携 … 225
Excelとopenpyxl
ワークブックの操作
- 054 ワークブックを扱う … 228
- 055 既存のExcelファイルを読み込む … 230
セルの操作
- 056 セルを扱う … 234
グラフの作成
- 057 CSVファイルを読み込んでグラフを作成する … 239
条件付き書式
- 058 条件付き書式を扱う … 247
- 059 値や数式を使った条件付き書式を設定する … 254
- 060 設定済みの条件付き書式を調べる … 257
Chapter 10 Webスクレイピング … 261
Webスクレイピングの概要
Beautiful Soup
- 062 Webページから要素を取り出す … 264
- 063 Webページ内の画像を取り出す … 272
Selenium
- 064 Webブラウザを自動で制御するには … 276
- 065 WebページをSeleniumで操作する … 279
- ここもポイント | SeleniumとBeautiful Soupの違いと使い分け … 283
feedparser
- 066 RSSを利用してニュースを取得する … 284
Chapter 11 Web API … 287
Web APIの概要
Google Sheets API
- 068 Google Sheets APIの利用準備をする … 292
- ここもポイント | 鍵ファイルの管理 … 297
- 069 Googleスプレッドシートを操作する … 299
- ここもポイント | 鍵ファイルとprepare_credentials関数 … 301
Google Calendar API
- 070 Googleカレンダーを操作する … 305
複数のWeb APIの組み合わせ
退屈なことはPythonにやらせよう ――ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング
オライリー・ジャパンさんから2017年6月に出版されています。
本書の依頼をうけたときに出版社の編集者さんから「退屈なことはPythonにやらせよう」がビジネスパーソン向けに人気があるというお話を伺いました。2017年6月の出版で半年しか販売期間がなかったにも関わらず、次の2018年の技術書ランキングではトップ10内に君臨していてその人気ぶりが伺えます。
私も技術書ランキングなどで取り上げられているのを見聞きしていたので本の名前は知っていました。しかし、実際に読んではいませんでした。そこで「できるPy」の依頼を受けたときに購入してどのような内容かを確認しました。
「退屈なことはPythonにやらせよう」は616ページあります。これは Python 入門と実践的なプログラミングの2つの題材が1冊になっているからです。これから初めてプログラミングを学ぶ人にとっては入門から始めてステップアップしながら1冊でたくさんのことを学べます。インタラクティブシェルを使って実際に1行ずつコードを入力・実行しながらその結果を確認して理解していくといったスタイルで書かれています。実際に手を動かしながら学べることから初学者向けとしてとてもよい本だと私は思います。
書店巡り
執筆はそれなりに苦労したにも関わらず、もしくは苦労した甲斐もあって実際に書籍としてリアルな本を手に取ったとき、なんとなく嬉しくなって舞い上がってしまいました。コアタイムが過ぎたら退勤して、近くの書店巡りをして実際に置かれているか調べに行きました。
私が巡った書店ではどちらも本書の師匠である「退屈なことはPythonにやらせよう」の隣に並べられていました。お客さんにとってどちらが良いかを比較して選びやすい最適な棚配置だと私は思います。
「できるPy」と「退屈なことはPythonにやらせよう」のどちらを選べばよいですか?
と質問をしたくなるでしょう。
もし質問者がこれからプログラミングを学び始めようという方であれば、私は迷わず「退屈なことはPythonにやらせよう」をお勧めします。
「退屈なことはPythonにやらせよう」は素晴らしい内容ですし、扱っている題材も多くすべての章節を読まなくても読者の興味がある分野をみつけるときに「できるPy」では扱っていない題材をみつけることもできます。
じゃあ「できるPy」は発売時点でオワコン?
いえいえ。そんなことはありません。
プログラミングの勉強に限った話ではありませんが、勉強というのは結局のところ独学が基本です。もちろん勉強会へ行ってモチベーションをあげたり、セミナーに通って講師に指導を受けたり、友だちにわからないところを教えてもらったり、いろんな勉強のスタイルはあります。しかしながら、ある程度のスキルを身に着けるには独学でたくさんの時間をかけて学ぶ必要があります。
書籍というのは最も身近で安価に独学を助ける教材の1つです。たくさんの書籍がある理由の1つとして、人それぞれに趣味趣向があり、本人が読みやすい分かりやすいと思う書籍の内容、構成、分量、体裁は異なると私は考えています。本書は熱意のある編集者さんが体裁を整えて校正してくれたおかげで初学者にとってかなり親切な内容になっていると私は思います。いくら詳細に説明されていても読まない本より、基本的なことしか書いていなかったとしても読む本の方が独学の助けになります。
大事なことは自分にとって気に入った本を選ぶこと、独学を続けられそうな本を選ぶことだと私は思います。その視点から「できるPy」が「退屈なことはPythonにやらせよう」よりも勝るかもしれない点をいくつかあげます。
- 書籍の値段
- コンテンツの見た目
- 技術的詳細よりも動くコード
書籍の値段
とてもわかりやすい比較指標です。
- 「退屈なことはPythonにやらせよう」: 3,996 円 (税込)
- 「できるPy」: 2,484 円 (税込)
単純な値段の比較で「退屈なことはPythonにやらせよう」が割高であると私は思いません。こちらは Python 入門についても丁寧に説明されているので分量が多くなっています。むしろ内容の充実度からすれば割安といえます。しかし、いまや数多くの Python 入門書が出版されていることから読者によっては他の書籍で Python 入門を終えていて、入門についての内容は不要という人もいるでしょう。
Python 入門が不要、且つ読者が読みたい題材を「できるPy」が扱っているのであれば、値段の安い方を選択するのもよいでしょう。
コンテンツの見た目
私は本を選ぶときに見た目を気にする方です。漫画も好きでよく読む方なのですが、絵柄の雰囲気が好みかどうかがその連載を読み続けるかどうか、時間をかけて読むかどうかに大きく影響します。そのため、自分にとって見やすいかどうかをぱらぱらページをめくりながら判断します。
もちろん知りたい内容がその本しか扱っていないのであればその本を購入するしかありません。しかし、「できるPy」のような初学者向けの本は上位互換として「退屈なことはPythonにやらせよう」がありますし、私が知らない同コンセプトの本もたくさんあるでしょう。読者が見やすい、読みやすいと感じる本を選ぶとよいと思います。
参考までにそれぞれの本の見た目を紹介します。
余談ですが、CSV ファイルを扱うのに「退屈なことはPythonにやらせよう」は標準ライブラリの csv モジュールを、「できるPy」ではサードパーティライブラリの pandas を紹介しています。Python のインストールを Anaconda を使って行うとデフォルトで pandas もインストールされます。本書はビジネスパーソン向けということもあり、標準ライブラリよりも便利であれば、サードパーティライブラリを優先して紹介するようにしています。
また執筆はリブロワークスさんの MDBP という Atom プラグインを使いました。Markdown で原稿を書いて CSS でスタイル設定して Atom で実際の書籍のデザインに近い見た目で確認しながら行いました。とてもよくできたプラグインで公開されています。興味のある方は Atom と MDBP プラグインをインストールして試してみるとよいでしょう。
技術的詳細よりも動くコード
本書を執筆するにあたり、マーケティング業務に携わっている同僚にヒアリングしていたときにこんな話を聞きました。
プログラミング言語の文法がどうこうとか、仕様が云々とか、そういうのは全く興味がありません。サンプルコードの一部の処理やパラメーターを直せばよいというのさえわかれば、適当に変更して実行して、それで目的が達成できればよいです。
プログラマーにはない感覚です。目的が明確なので手段はどうでもよく、目的を達成するコードが動けばそれで満足だというのです。本書を執筆する過程でこのことは私の中で葛藤と逡巡をもたらしました。確かに勘のよい人であれば Python のコードを読んでいるうちに規則性や要点をなんとなく掴んでパラメーターや必要な箇所のみを書き換えてプログラミングできるかもしれません。プログラミングに慣れるという最初の取っ掛かりとしてはそれでよい場合もあるでしょう。
本書は実務で使えるサンプルコードを提供するという目的がありました。サンプルコードはサンプルコードでしかなく、実務というのはそれぞれの業務に特化した個別の事情や要件があり、どういう仕組みや理屈で動いているかをわからずに書き換えて通用するかという懸念があります。しかし、ちゃんと解説したところで詳細に興味がなくて読まない人たちもいるかもしれないというので困ってしまいました。どこまで詳細を説明するか、あるいは説明しないかを考えて悩みながら書いたのが本書になります。
例えば、本書の中で意図的にサンプルコードの詳細説明を省いたのが Chapter 8 の「050 PDFからテキスト抽出」の項目です。余談ですが、本書では PDF からのテキスト抽出に pdfminer.six · PyPI というライブラリを使っています。一方で「退屈なことはPythonにやらせよう」では PyPDF2 · PyPI というライブラリを使っていて異なる点の1つです。これは私の手元にあった PDF ファイルをいくつか PyPDF2 でテキスト抽出したところ、日本語の PDF ファイルのテキスト抽出ができませんでした。pdfminer.six は正常にテキスト抽出できたのでそちらを採用しました。pdfminer.six は開発者が日本人なのでテストデータとして日本語の PDF ファイルも使って検証しながら開発されたのだと推測します。
閑話休題。私の知る限り、pdfminer.six についてのドキュメントは次になります。
ドキュメントをみる限り、pdfminer.six のモジュール構造は PDF のデータ構造に大きく影響を受けているため、複数のモジュールを組み合わせて PDF からテキスト抽出する仕組みとなっています。そのため、このモジュールはどういった機能をもっているかを解説するには PDF のデータ構造について言及する必要があります。PDF ファイルからテキスト抽出するという目的に対して、PDF のデータ構造の詳細に踏み込むのは難し過ぎると私は思いました。そこで pdfminer.six のモジュール構造の説明は行わずにサンプルコードの使い方のみを説明しました。
逆の例として概要だけでも説明した章もあります。Chapter 5 の 「021 ZIPファイルに含まれるファイル名を文字化けさせずに表示する」で文字化けの概要を説明しています。もしかしたら読者層のビジネスパーソンな方々には全く興味のない話かもしれません。しかし、直接的に役に立たなくても文字化けが発生する仕組みがわかれば、なにかの機会に知識として役立つこともあるのでは?と考えてできるだけ簡潔に説明しました。
本書では実務で役立つサンプルコードを提供しつつ、その技術的詳細は最小限しか説明しないという、プログラマー視点からみるともやっとする微妙なバランスで書いています。そのため、本書で提供しているサンプルコードが読者のやりたい自動化処理に近ければ近いほどやりたいことを達成する労力を削減しやすいとも言えます。
まとめ
出版を契機に久しぶりに書店へ行ってたくさんの Python 本が置かれている棚をみました。私は10年前ぐらいから Python を学び始めました。当時と比べて、たくさんの入門本、データ分析や機械学習に関連した Python の本が敷き詰められていて驚くべき状況です。
数多ある入門本の末席の1つとして、本書をきっかけにプログラミングに慣れ親しむ人が増えて、世の中の業務のいくらかが自動化されて効率化されて誰かの役に立てば幸いです。
本書の紹介記事
本書を紹介してくれた方々のブログの記事をまとめます。
イベント登壇
リファレンス
出版にあたり、共著者やアドバイスしていただいた方々やレビューをしていただいた方々の記事も紹介します。関係者の方々のおかげで出版できたことに感謝します。
本日発売の「できる 仕事がはかどるPython自動処理 全部入り。」に、一部ではありますがレビューに参加させていただきました。
— しまかぜsoft (@shimakaze_soft) 2019年5月24日
内容としては「退屈なことはPythonにやらせよう」に近い非エンジニアさん向けの内容です。
よろしければお買い求めください。https://t.co/iv3KcYCMEx
一部レビューに参加した「できる 仕事がはかどるPython自動処理 全部入り。」が5/24に発売されました。仕事で活かせるPython自動化を扱った書籍です。ぜひチェックしてみてください。 #dekiru_py pic.twitter.com/lEL5JEwIRY
— nao_y (@NaoY_py) 2019年5月30日
レビュー協力した「できる 仕事がはかどるPython自動処理 全部入り。」の献本が届いた。画像の加工とかExcel, Word, PDFとかも扱うところがあって、知らないことがあって面白かった pic.twitter.com/sZn1uWxvQ0
— Takanori Suzuki (@takanory) 2019年5月30日
そういえばレビューしました。著者の方の紹介ブログもあるので、是非手に取って見てくださいー。 https://t.co/BkHETPZJhEhttps://t.co/TBvG4mgket
— かしゅー (@kashew_nuts) 2019年6月1日
できる 仕事がはかどるPython自動処理 全部入り。 (「できる全部入り。」シリーズ)
- 作者: 森本哲也,中野正輝,池徹,岡田幸大
- 出版社/メーカー: インプレス
- 発売日: 2019/05/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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