木に留まり、こちらにツノを向けるカブトムシ。ツノはぐっと手前に迫り、後ろ足や葉っぱは遠くに見える――シャープが4月2日に発表したタッチパネル対応の3D液晶ディスプレイは、明るく高精細な3D映像が裸眼で見られる。ゲーム機や携帯電話などさまざまな端末への搭載を想定。すでに複数の事業者から引き合いがあるという。
3D表示は「視差バリア方式」を採用。右目・左目用の画像を分けるための「視差バリア」を搭載した「スイッチパネル」と、液晶ディスプレイを貼り合わせた。視差バリアをオンにすると3Dで表示し、オフにすると2D表示に切り替わる。タッチパネルは静電容量式で、2点のマルチタッチに対応した。
同社は視差バリア方式の裸眼立体視ディスプレイを2002年に実用化し、PCやパチスロ機などに搭載してきたが、(1)輝度や精細度が低く3Dの画質が悪い、(2)クロストーク(2重像)が出やすい、(3)スイッチパネルが分厚く、端末のデザインが限定される――といった問題があり、「成功しているとは言えなかった」(同社の長谷川祥典液晶事業本部長)。
新たに、ガラス基板上に電子回路を生成するCGシリコン技術を発展させたほか、視差バリアを最適化し、高輝度・高精細で低クロストークなディスプレイを実現。スイッチパネルとタッチパネルを一体化し、モジュールの厚さは2Dタッチパネル液晶と同等に抑えた。
新ディスプレイは、3.4インチ/480×854ピクセル表示。3D時の解像度は120〜165ppiと従来(2.4インチ/240×320ピクセル)の64〜83ppiから2倍に拡大した。輝度は業界最高レベルの500カンデラ/平方メートルで従来比2倍、コントラスト比は1000:1と同10倍に高めた。
ディスプレイから適正な距離で正面から見た時のみ3Dで見える仕様(公開された新ディスプレイの場合は30センチだが調節可能)で、携帯電話やゲーム機など、1人で楽しむ小型端末向け。画面は縦でも横でも3D表示できるため、縦表示・横表示を切り替えながら使うスマートフォンなどにも最適としている。
同社の東京オフィスには4月2日、昆虫の写真や3Dアニメなどを表示する試作端末が十数台用意され、報道陣に公開された。写真のデモは、タッチパネルをクリックすると写真がスクロールし、次の写真が表示される仕組みだ。
ディスプレイの正面に立ち、30〜50センチほど離れてみると、奥行きのある明るい画像が立体的に迫ってきた。記者が通常使っているシャープ製のハイエンド携帯(SH-01B、3.4インチ480×854ピクセル表示)の2D表示と比べてもそん色ない精細感で、奥行き感は自然でなめらか。ディスプレイに近づきすぎたり遠ざかったり、正面からずれてしまうと立体感は失われ、平面に見えたり2重像が見えたりした。
動くモデルをステレオカメラで動画撮影し、ノートPCでリアルタイムに3Dに変換、カメラの裏に搭載したディスプレイに表示するデモも。滑らかで自然な立体感のある映像が見られた。
2010年度上期から、タッチパネルなしのタイプの量産をスタート。三重工場(三重県多気町)で生産する。まずは3〜5インチの小型液晶タイプを商品化するが、PCやテレビなど大型のディスプレイへの適用も視野に入れる。すでに、携帯電話事業者など複数の事業者から引き合いがあるという。
任天堂が10年度中に発売を計画している、裸眼立体視可能なディスプレイを搭載した新型携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」(仮称)への搭載の可能性について問われると、長谷川液晶事業本部長は「個別の案件には答えられない」とかわした。
同社が生産する小型液晶のうち、今年度は20%、来年度以降は50%が3D液晶になると想定。「白黒テレビがカラーテレビになったように、2Dが3Dに切り替わる時代が来る。モバイル機器も3D Readyにしていく」
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