大手自動車メーカーでの過労を原因とする死亡に関する調査結果
自動車大手・ルノー・グループは、2017年上半期、前年比10.4%増の1,879,288台を販売し、半期累計として過去最高の販売台数を記録した(注1)。業績好調の陰で、日刊紙ル・パリジャンと労働組合CGTが共同で行った調査結果によると、ルノーのフランス国内の4事業所において、2013年以降、過労が要因と考えられる自殺者や自殺未遂者が10人以上いたことが判明した(注2)。最近では、フランス北西部ノルマンディー地方の工場で、17年4月に製造現場の労働者が工場内で首つり自殺を図った事例がある。同社では経営合理化を目的とする競争力強化プランが2013年から実施されており、労働条件が悪化したことが今回の従業員自殺に影響しているとの指摘もある。
10年前の管理職・技術職の自殺
ル・パリジャン紙と労働総同盟(CGT)のルノー工場内労組が行った調査によると、パリ近郊やフランス北部ノルマンディー地方ル・アーヴル近郊の工場やベルギーとの国境近くのリール近郊の工場などにおいて、2013年以降、製造現場の従業員の自殺者が10人、自殺未遂者が6人いたことがわかった。同社では2006年10月から07年2月にかけて、パリ郊外のギュイアンクール技術センターで、3人の自殺者が出ている。このとき裁判所は従業員を保護するために必要な措置を同社が取らなかったことを確認し、弁解の余地のない過失があると認定していた(注3)。当時の自殺者は管理職や技術職層であったが、それから10年が経過し、製造現場を含めて、幅広い階層の従業員の職場環境や労働条件が厳しい状態にある可能性が指摘されている。
現場労働者の自殺
ノルマンディー地方のル・アーヴル近郊のサンドゥヴィル工場では、2件の自殺未遂が確認されている。16年のクリスマスに女性が工場内のトイレで、17年4月には40歳前後の男性が、工場内作業場でそれぞれ首つり自殺を図った。男性の首には、上司に対する恨みを記した遺書が巻きつけられていた。この二人はいずれも現場労働者だった(注4)。
競争力強化プランで労働条件が悪化
ノルマンディー地方ルーアン近郊のクレオン工場(エンジン製造)では、2013年以降10件の自殺及び自殺未遂が確認されている。
クレオン工場のCGT代表によると、5000人が就労する同工場では2016年だけで、無期雇用契約CDIの従業員4人が自殺または自殺未遂を起こしたという。その背景には、2013年以降、競争力強化プランに基づいてフランス国内の従業員が34000人から8000人削減されたこともあり、国内各工場での労働条件が悪化したと指摘している。経営改革によって作業場や事務所、メンテナンス部門は人がまばらで閑散としている一方で、仕事量が過多となり、職場に書類が山積する状態だという。2013年の競争力強化プランによって派遣労働者へ過度に依存している経営体質を問題視する労組もある(注3参照)。
2013年4月、2児の父親である35歳の従業員は、職場でのストレスや圧力を指摘する遺書を残して首つり自殺を図った。同工場のCGT代表によると、自殺した従業員は、2013年に労使で合意した競争力強化プランによって、将来に不安を募らせていたという。この従業員は賃金率の高い夜間勤務に就いていたが、競争力強化プランに反対していたため、経営側から昼勤務に変更させるとの脅しを受けていたという(注3参照)。
産業医が指摘する過労死の可能性
パリ近郊のギュイアンクール技術センターでは、2016年11月23日夜、44歳の管理職の技術者が、職場で心臓発作を起こして死亡した(注5)。この技術者は、従業員規模4000人弱のモロッコのタンジェ工場の技術部門の責任者を務めた経験のある管理職であったが、この工場で生産された車のリコールの責任を問われて、解雇を言い渡されていたという。手続きのための面談中の発作であった。
コールは、ルノー・グループの自動車メーカー・ダシア製の商用車バンに関するもので、43000台が対象となった。生産コストを下げるための部品点数の削減が原因とされている。CGTは、リコールの責任を企業側が一人の管理職に押しつけたことが技術者の死の背景にあると指摘している。同社の衛生・安全・労働条件委員会(CHSCT)も、解雇のための面談のストレスが死因であると結論づけた(注5参照)。同社の産業医によって2016年に作成された複数の報告書を入手したル・パリジャン紙は、9600人の従業員が就労しているギュイアンクール技術センターでは、2016年に136件の過労が認定されていたとする。この件に関して、多くの部署で従業員は重い就労の負担は強いられているため、肉体的・精神的耐性は低下しており、これまで問題が発生していない部署でも過労死や過労自殺が起こる可能性があると指摘している(注2参照)。
経営側の進める業務負担軽減策
一方、ルノー経営側は、相次ぐ従業員の死亡が社内の労働条件の悪化に原因があるとは認めていない。ル・パリジャン紙によると、経営側は、死亡事例が個人的な理由によるものであり、職場の労働条件が原因ではないとしている(注2参照)。
経営側は、労働の質に関する問題を話し合うための委員会を設置したことを挙げて、会社としては適切に対応していると説明している。2017年1月には、2013年の競争力強化プランに代わる新たなプラン(競争力強化プランAccord Cap 2020)を、代表的労働組合のうちCFDT、CFE-CGC、FOの3労組と合意したことを挙げて、事業所レベルとともに中央レベルの労使対話が強化されたことを強調している。2015年以降3000人を採用し、2017には1800人の採用があることを挙げて、従業員の業務負担軽減の措置をとっているとする。現在、全工場労働者の45%が派遣労働者であり、そこに依存する経営体質が数年続いていることも改善すべき問題として認めている。2020年までに無期雇用契約(CDI)の従業員数の増加と生産性の向上により、派遣労働者の数を半減させる目標を掲げている(注2参照)。
一部労組による問題の指摘
ルノーは複数労働組合があるが、従業員の自殺に関して同じ見解を示しているわけではない。競争力強化プランで合意したCFE-CGCとFOは、経営側に近い認識を持っている(注6)。
それに対して、CGTや連帯統一民主労働組合(SUD)は、2013年の競争力強化プランによる人員削減が従業員の一人当たりの業務負担を増加させ、派遣労働者への依存体質を引き起こし、一連の従業員の自殺につながったと批判している(注5参照)。
政府による調査でも因果関係は確認できず
仕事と自殺の因果関係ついて、政府も調査を行っている。政府が2013年に政令で設置した「自殺や自殺未遂に関する研究その防止策のための研究グループ」による成果として、調査第1回報告書では、自殺と仕事の関連性について信頼できるデータはないとしている(注7)。職場で起きた自殺や自殺未遂は、原則として労災と見なされ、職場以外の場合でも、遺書など仕事の関係性を示す証拠が認められれば労災と認定される。労災の観点から自殺について、労働省労働局が行った調査によれば、労働局のオーヴェルニュとロワールの管轄区域において2008年と2009年の間に、28件の職場関連の自殺が確認された(注8)。
(調査部海外情報担当)
注
- 同社ウェブサイト、2017年07月27日付けニュースリリース参照(本文へ)
- Une dizaine de suicides chez Renault en quatre ans, Le Parisien, 25 juillet, 2017.(本文へ)
- Un salarié de Renault se suicide sur son lieu de travail, Le Figaro, 24 avril, 2013.(本文へ)
- 労働総同盟CGT のサンドゥヴィル工場代表者は、これらの自殺未遂は職場に原因があるという見解を示した。同氏は、最近の製造現場の作業量の多さを指摘した上で、06年から07年にかけて相次いだ自殺は、管理職によるものであったが、今回は現場労働者による自殺であることを特徴として指摘した。(本文へ)
- La mort tragique d'un ingénieur du Technocentre Renault à Guyancourt, Le Parisien, 25 juillet, 2017.(本文へ)
- Renault rejette la polémique au sujet des suicides de ses salaries, L'Usine Nouvelle, 26 juillet, 2017.(本文へ)
- Observatoire national du suicide, 2014, « SUICIDE, État des lieux des connaissances et perspectives de recherché, 1er rapport / novembre 2014 (PDF:3.0MB)», pp.58-72.(本文へ)
- Bossard C., Cohidon C., Santin G., 2013, « Mise en place d’un système de surveillance des suicides en lien avec le travail. Étude exploratoire (PDF:337KB) », Institut de veille sanitaire, Département santé travail, Saint Maurice, pp.3-4.(本文へ)
(ウェブサイト最終閲覧日:2017年12月13日)
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