「暗記ものは寝る前に覚えろ」といったことを、見聞きしたことはありませんか? 実はコレ、脳のメカニズムに基づいているのです。「寝る子は育つ」という言葉があるように、私たちが日々経験する「眠り」は、身体の成長に大切な要素であり、記憶・学習などの脳機能に重要な役割を持つと考えられています。眠ることにより、記憶は整理され、記憶の定着が起きると分かってきたからです

 米心理学誌「Psychology Today」の科学・医学系ライター、Faith Byrnie氏によると、記憶を担う海馬のニューロン(神経細胞)の働きが活発になるのは、私たちが寝ている間だそうです。「記憶の固定には睡眠が効果的である」という研究結果も先月発表されています。脳が記憶の編集や仕分け、バックアップ作業を行っているのは、睡眠中なのです。また、寝てしまった方が、記憶したいこと以外の余計な情報を入れないようシャットアウトでき、記憶定着の混乱を回避できるのだとか。

そもそも記憶には何種類もあるのですが、大きくは「(一時的に覚えている)短期記憶」と「(長い間覚えている)長期記憶」の二つの貯蔵庫に分けられます。短期記憶はその名が示す通り、揮発性が高く容量も少ないため、頭の中に入ってきた情報を一時的に保管するだけで、一度にたくさんのことは覚えられず、すぐに忘れてしまいます。記憶として長く留めておくには、短期記憶から長期記憶に移される必要があるのです。この移行プロセスが行われ、記憶が根付け(固定)されるのは、睡眠中といわれています。起きている間にインプットした多くの情報から重要性のないものが切り捨てられ、選別された「大事な記憶」だけを残しているそうです。長期的に記憶するためには、脳に「これは重要な情報だ。長期的に記憶するべきだ」と判断させればいいのです

では、脳はどのようにして記憶の重要さを判断し、「いる情報・いらない情報」のフィルターをかけるのでしょう? 米科学誌ニューロサイエンス(Journal of Neuroscience)が、睡眠が記憶の形成・定着に役立つことを実験で確かめています。被験者に新しい単語40個を記憶させ、10時間後にテストをし、事前にテストを行うと知らされたグループと知らされなかったグループとで、成績を比較しました。知らされなかったグループでは、寝たか寝ないかであまり変化は出ませんでしたが、知らされていたグループでは、眠った後の方がより多くの単語を思い出せたという結果が得られました。ここにヒントがあります。

この実験の「テスト」のように「将来的な需要がある」と刷り込まれたものは、「重要=覚えておくに値する」と脳内で判断され、まっ先に長期記憶として保存されたと推測できます。いったん入った情報をやみくもに丸暗記するのではなく、何かに関連付けたり、理詰めで意味を理解するなどして、自分なりに噛み砕きなおすと優先的に処理されやすいのかもしれません。記憶の「充電作業」を繰り返す(反復復習)だけでなく、同時に色々な情報を集合させた方が、記憶が定着しやすくなるとして、脳科学者の茂木健一郎さんも「鶴の恩返し勉強法」を提唱しています。

ここでふと頭をよぎるのは、テストを受けると知ったら、良い結果が残せるかどうか誰もが心配しますよね。感情を伴った記憶は、長期記憶になりやすいという意見もあります。原文著者は、その不安は身体の化学反応と述べており、睡眠中の記憶の定着は情緒や感情の働きにどう影響されるのか、今回ご紹介した実験では触れられておらず、モヤモヤしているようです。

情報を詰め込んでも、記憶として脳に定着されるのは「睡眠」のとき。よい睡眠がとれていないと、記憶の効果は上がりません質の良い睡眠によって、深い眠りをしっかりとることが、記憶力全般の向上に繋がります。勉強してもあまり身につかない...とお嘆きの方は、記憶力をよりUPするために、「睡眠の質」にもこだわってみてくださいね。

Remember What We Need [Psychology Today]

Adam Dachis(原文/訳:kiki)