Inc:ガイ・カワサキ氏は、イノベーションや起業をサポートする人物として有名です。アップル社の初期の社員でもあり、多くのテクノロジー企業にアドバイスやサポートを提供し、成功へ導いてきました。また、カワサキ氏は、スティーブ・ジョブズの下で2回も働き、サバイバルした唯一の人物として知られています。カワサキ氏自身は、ジョブズ氏と一緒に働くのは簡単ではなかったが、人生で最高の体験の1つだったと話しています。
2011年10月6日、ジョブズが亡くなった翌日、カワサキ氏は、Silicon Valley Bankが主催するCEOサミットで「顧客を魅了するには」と題する講演を行う予定でしたが、ジョブズ氏の逝去を受け、急きょ講演の内容を「スティーブ・ジョブズから学んだ、起業家のための12のレッスン」に差し替えました。このスピーチは30分ほどの長さで、こちらで動画が見られます。以下に、筆者のコメントを挟みながら、12のレッスンを要約してみました。カッコ内の数字は動画における該当部分のタイムスタンプです。
1. 専門家の意見はあてにならない(3:44)
ちまたの著名人、アナリスト、グルたちの意見は、起業家の助けにはなりません。誰か1人の意見であれ、大勢の意見であれ、結局は意見のひとつに過ぎません。
カワサキ氏は言っています。「スティーブ・ジョブズは専門家の意見を聞きませんでした。逆に、専門家がジョブズの意見を聞きに来たのです」「起業家は自分で判断しなければなりません。他人を頼ってはだめです」
2. 顧客はニーズをわかっていない(5:06)
ジョブズ氏の次の言葉は有名です。「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」
もちろん、ジョブズ氏がこの哲学を実践できたのは、普通の人にはない、とてつもないリソースを持っていたからです。とはいえ、最高のアイデアは、誰かがそれに気づく前に解決すべき問題を見つけ出せる人によってもたらされるのです。
3. 最大の試練が最高の仕事をもたらす(6:52)
最も厳格で、最も口やかましい顧客を思い浮かべてください。そうした人たちに対応するのは楽しいことではありません。しかし、困難な問題を解決することで、あなた自身が成長するという事実は否定できません。ジョブズ氏は細部にこだわり、常に最高を求めることで知られていました。これは、一緒に働く人たちにとって、巨大な試練です。しかし、だからこそ、社員たちは最高のパフォーマンスを発揮できたのです。
ここでのレッスンは、部下に試練を与えること、また、与えられた試練から逃げないことです。きっと自分にどれほど能力があったかに驚くことでしょう。
4. デザインは重要だ(7:42)
価格ばかりが重視される世の中ですが、デザインはとても重要です。多くの人にとって、デザインが製品の価値そのものなのです。
私がドイツのたくさんの顧客に対して行ったブランドイメージに関する調査でも、このことが証明されました。顧客たちに企業のリストを渡し、企業名を見たときに最初に頭に浮かんだ言葉を3つ書き出すようお願いしました。すると、アップル社から連想する言葉として、多くの人が「デザイン」と答えたのです。
アンチも多いとは言え、この調査でアップル社がトップブランドにランクされたことは、同社がデザインを大切にしていたことと無関係ではないでしょう。
5. 大きな画像、大きなフォント(9:21)
「これがプレゼンのキーポイントです。これだけで、PowerPointを使っている90%の人に勝てるでしょう」
スライドの使い方が重要です。だらだらとスライドを読み上げるだけのプレゼンなど誰も聴きたくありません。この過ちは本当によく繰り返されています。スティーブ・ジョブズは、大きな画像と大きなフォントを使うことで有名でした。このルールに従えば、自ずとメッセージは簡潔かつ明瞭になり、聴衆を引き込むプレゼンができます。
6. 一歩先まで飛び越えろ、ただの改良ではなく(10:23)
本当に起業家やイノベーターになりたいなら、山を飛び越えねばなりません。「10%良くするのではなく、10倍良くすること」とカワサキ氏(とジョブズ氏)は言っています。
iPodが音楽プレーヤーを駆逐したことを思い出してください。そして、iPhoneがBlackberryを駆逐したことを。iPadの前は何を使っていましたか? 偉大なイノベーションは、起業家が山を飛び越えたときに起こるのです。
7. 「うまくいく」か「うまくいかない」か、それだけが重要だ
後の講演では、カワサキ氏はポイントを少し変えて「心変わりは知性の現れ」と言っています。
iPhoneの発売当初、サードパーティのアプリは許可されていませんでした。セキュリティや品質が重視されたためです。アップル社は「ユーザーのためにそうした」と話していました。半年後、同社は姿勢を完全に変え、iPhoneをデベロッパーたちに開放しました。この心変わりをどう評価しますか?
必要に応じて柔軟になることの大切さを表しています。
8. 「価値」は「価格」とは違う(16:05)
価格が高いとしても、その価値は? 使いやすさ、生産性、サポートコストは? 顧客にとってどれくらいの価値がある?
アップル、マッキンゼー、メルセデスといった企業は、顧客は高い品質の製品には高いお金を払う、という前提のもとにビジネスを構築しています。あなたの会社の製品やサービスは、顧客からどのように価値を認められていますか?
9.一流のプレイヤーは一流のプレイヤーを雇う(22:22)
まだ企業が小さいうちは、一流のプレイヤーだけを雇おうとします。ところが企業が大きくなるにつれ、恐れと政治が始まります。リーダーの中には、新しい社員が自分を凌ぐのを恐れる人がいます。優秀な社員が自分の地位を脅かすと思うのでしょう。この恐れが、カワサキ氏がいうところの「無能の連鎖」を招きます。
あなたが二流のプレイヤーを雇ったときが「無能の連鎖」の始まりです。二流のプレイヤーは三流のプレイヤーを雇います。そして、三流のプレイヤーはその下のプレイヤーを雇い、ある日目が覚めれば...。あなたは無能な人に囲まれているのです。
一流の人材を雇うことが必要です。可能なら、自分より優秀な人を雇いましょう。
10.本物のCEOはデモができる(24:53)
あなたもこんなプレゼンテーションを見たことがあるはず。CEOが出てきてこう言います。「それでは今から、弊社の設計主任がデモンストレーションを行います」
多くの人がこう思います。なんで? あなたはデモできないの? そんなに難しいこと? ジョブズ氏は自分でデモをすることで有名でした。常にパーフェクトとはいきませんでしたが、彼は自分で責任を引き受けました。あなたもそうしてください。
11. 本物の起業家は製品を世に送り出す(25:41)
山を飛び越えたなら、あなたの製品やサービスの最初のバージョンは、おそらく最高のものではないでしょう。革命的ではあっても、弱点を抱えているはずです(最初のiPhoneとその後のモデルを比べてみてください)
だからといって引き下がらないこと。ここで引き下がれば、永遠に製品を世に出せなくなります。チャンスの窓も閉じてしまうでしょう。
カワサキ氏は言っています。「ガラクタを世に出せという意味ではありません。多少ガラクタな部分があっても一歩先を行く製品を出せということです。これは大きな違いです」
12. 見るために信じなければならない(27:05)
多くの人が、見たものしか信じないと言います。しかし、本物の起業家は違います。あなたはまず、自分の製品やサービスを信じなければなりません。そして、それを世に送り出すのです。結果を目にしたければ、まずそれを強く望む必要があります。
カワサキ氏は言います。「信じなければ実現しません。うまくいく保証を待っているなら、実現しません。顧客の承認を待っているなら、実現しません。マッキントッシュが成功したのは、スティーブ・ジョブズとともに始めた最初の100人が、マッキントッシュを信じたからです。私たちがマッキントッシュを信じたからこそ、それは現実のものとなったのです」
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Justin Bariso(訳:伊藤貴之)
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