たとえ相手が少人数でも、人前で話すのは緊張しますよね。恥をかくのが怖くて、不安が募ってしまうのも無理はありません。しかし、その緊張を完全に打ち消すことはできなくても、何とか頭の中をクリアにする方法は存在します。

まずは、正しい視点を持つ

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何よりも、ストレスを感じることは決して悪いことではない、と思うことが大事です。人前で話す不安はきわめて一般的であり、苦しんでいるのはあなただけではありません。マーク・トウェインが言った「話し手には、2つのタイプがある。緊張するタイプと、嘘つきだ」という言葉は、真実なのです。経験豊富な話し手でさえ、出番の前にはいくばくかの不安を覚えます。個人的な話で恐縮ですが、筆者はかつて1100人以上が入る劇場で、週に6回ショーに出ていたことがあります。当時ほぼ毎日ステージに立っていたにもかかわらず、緊張がなくなることはありませんでした。

ですから、想定される最悪の事態は何か、自分に問いかけてみてください。たとえいくつかの失敗をしても、聴衆から非難されたり、笑われたり、立ち去られたりすることはあまり考えられません。だから、あれこれ考えるのをやめて、自分のできることに集中した方がいいのです。プレゼン、スピーチ、演技など、何をするにしても、自分のできることに対する期待をうまく管理してやる必要があります。Psychology TodayのPreston Ni氏は、自分に完璧を求めないことの重要性を説いています。

私たちは、そこそこの状態を許容せず、不完全を誇張してしまうことがあります。でも、どんなに経験豊富な話し手でさえ、たくさんのミスを犯します。そんな時でも、彼らはリカバーを図り、優雅に話を続けます。実はこの「優雅に話し続けること」が、人前で話すコツの1つなのです。スピーチを中断したり、取り乱したり、自白しない限り、聴衆があなたのミスに気づくことはありません。だから、落ち着いて話を続けてください。完璧でないことを、自分に許容するのです。

自分は必ずヘマをやらかすのだと考えておけば、人前で話すことに対する考え方が劇的に変わるはずです。未来のミスを事前に受け入れてしまうことで、実際にミスを犯したときに冷静に対処できるようになるでしょう。自分の能力にストレスを感じてしまうと、人前で話すことのストレスが、いっそう強まってしまいます。あなたも人間、聞いているのも人間。そう考えれば、少しは気が楽になりませんか?

実際の会場で練習する

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未知は、多大なるストレスと恐怖をもたらします。何が起こるか、誰が聞いているのかはわかりませんし、会場にも慣れていないかもしれません。そこで、できるだけ未知のことを減らして、恐怖を少しでも減らしてしまいましょう。Noomiiのパフォーマンスコーチ、Edwin Rice氏は、他の人が来る前に、実際に話す会場である程度の時間を過ごすことを勧めています。

部屋の装飾やレイアウトを知っておけば、突然現場に放り込まれた感じを和らげることができます。あらかじめプレゼン中の立ち位置や動きを想定し、並べられた椅子などのさまざまな障害物を避ける方法を考えておきましょう。これは、スポーツでホームチームが有利になるのに似ています。特に野球では、ホームグラウンドの方が、芝の状態や球場のレイアウト、観客席の位置、フェンスの高さなどを熟知していることが、かなり有利に働くのです。

スポーツでは、ウォームアップが欠かせません。ミュージシャンは、ステージで必ず音合わせをします。パフォーマーは、現場でのリハーサルを怠りません。これは、スピーチでも同じなのです。機会を見つけて、会場を見学しておきましょう。トークを事前に練習し、未知を減らしておくことで、不安は大幅に減るはずです。

喉を潤し、体を動かし、トイレを忘れない

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ストレスを減らすために、当日やっておくべきことがいくつかあります。まず、たくさんの水を飲むこと。脱水症状になると、疲労ともに、口、喉、唇が渇いてきます。これらはすべて、人前で話すにはよくありません。急に口の渇きを感じたために、話している内容を度忘れしてしまうことだってあるのです。そうなったら最後、聴衆の反応だけでなく、言葉を発することにさえストレスを感じてしまうでしょう。

体を動かすのも有効です。話す当日、事前に少しの時間が取れるのであれば、適度なトレーニングをすることでストレスを緩和できます。脳内でエンドルフィンが分泌され、その状態がしばらく持続します。トレーニングの時間が取れないようなら、数分程度の激しい運動でもOK。腕立て伏せやジャンピングジャックなどがオススメです。ただし、汗をかきすぎたり、疲れすぎたりしないように注意しましょう。余計なストレスを抱えることになってしまいますから。

これは言うまでもないかもしれませんが、本番の10分から15分前には、トイレに行きましょう。必要ないと感じていても、ストレスのあまり身体がシグナルに気づいていないだけということも考えられます。スピーチの途中でトイレに行くのは、できるだけ避けたいですよね。

深呼吸をして、シンプルな物体を思い浮かべる

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深呼吸をすると心拍数が下がり、「闘争・逃走」モードから、すべてが落ち着いた状態に気持ちを切り替えることができます。もちろん、現実はそんなに単純ではないので、Gary Genard氏は、深呼吸と同時にシンプルな物体を思い浮かべることを勧めています。

心の中で物体を想像し、それに集中します。その物体に、色を付けてみてください。緑の丸、黄色の四角、青の三角。感情を含むものを選んではいけません(特に、赤は避けてください。赤は、怒りと不安の色です)。物体を想像したら、できるだけ近づいて、はっきり見えるようにします。他の考え、イメージ、感情が現れると思いますが、それを認識したうえで、手放しましょう。自分のイメージに、そっと集中し続けるのです。

イメージに集中しながら、呼吸を少しずつ深めていきます。片手を胸に当て、もう一方の手をおなかに当て、鼻から深く息を吸い込んでみてください。胸ではなく横隔膜を広げて肺を拡大すると、多くの空気を取り入れることができます。これによってあなたの体と心はポジティブな反応を示し、不安は減少するでしょう。

身体と声をウォームアップ

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スピーチでは、あなたの声が楽器になります。化けの皮がはがれるのが怖いなら、シンプルなウォームアップで不安を解消しておきましょう。楽器と同様、あなたの声も、マイクを震わせる前のチューニングが必要です。そこで、声のウォームアップから始めてください。早口言葉などの方法で、舌、唇、顎の準備を整えていきます。声を響かせるのための呼吸法も効果的。心の準備が整えば、ストレスも軽減するはずです。

話の内容を熟知しておくことも大切ですが、全体を何度も繰り返して練習するのはやめましょう。自然体で話すことが大事なのであって、全体をいくら練習しても、ストレスをため込むだけです。それよりも、始まりと終わりの練習に注力しましょう。出だしで失敗してしまうと、ストレスが雪だるま式に増殖し、悪夢になってしまいます。十分なリハーサルをして、話の要点をしっかり把握しておけば、始まりとともに言葉が流れ出すでしょう。また、終わりをしっかり練習しておくことで、スピーチの行き着く先を意識しながら話を進められます。

それが済んだら、最後に身体のウォームアップです。『Well Said! Presentations and Conversations That Get Results』の著者Darlene Price氏は、出番の少なくとも5分前からは、立っていることを勧めています。

座っていると動きがなく、受動的で消極的な状態に陥ってしまいます。立つことで、事前にエネルギーを奮起し、身体のウォームアップと同時に、アクションに向けた態勢をとることができます。

立つことで、全身に血液を流し、身体がその姿勢を心地よく感じられるようになります。この状態からストレッチをすることで、少し緊張をほぐすことができるでしょう。

バカになれ

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個人的にいちばんオススメなのが、少しバカになれというアドバイス。その意味するところは人それぞれに異なりますが、アイデアとしては、普段だったらしないような行動をとることです。私の場合、変顔、変な声で歌う、踊り狂うなどがそれに当たります。そうすることで、どんな羞恥心や恐怖にさらされても自分を保てることを再認識できるのです。

完璧な人間として人前に立たなければならない状況よりも、バカになった自分に満足できることの方が大切です。ですから、自分の中のバカをすべてさらけ出してから、ステージに臨んでください。あとは、話すだけです。聴衆は、あなたがウォームアップで何をしていたかを知りません。舞台裏で猛烈に踊っていたことなど、知る由もないのです。彼らの目に映るのは、ただ情報を提供しているあなたの姿だけです。

上記の方法が気に入らなければ、他にもやり方はあります。上のビデオでは、YouTuberのImpromptu Guruさんが、「ペンギン」を勧めています。両腕を脇に下ろしたまま肩をできるだけ高く持ち上げて、ペンギンのようによたよた歩くという方法です。これをすると、ストレスによる緊張がいくらかほぐれます。そしてこれは、バカになる素晴らしい方法でもあります。バカげていると思うかもしれませんが、そのバカげている感覚をちょっと経るだけで、すっと通常の気持ちになることができるのです。

Advanced Public Speaking InstituteのPatrica Frippさんは、出番直前に手早く気持ちを落ち着かせるために、次のような方法を紹介しています。

片足で立ち、浮かせた方の足を振ります。足を床に戻すと、浮かせていた足が軽く感じられるはずです。次に、足を入れ替えて同じことをします。エネルギーを床と頭から逃がしてやるのです。大げさな話だと思うかもしれませんが、そうではありません。多くの俳優が、このテクニックを使っています。

何とかして動き回れる方法を見つけたら、あなたを見ている聴衆を含めて、誰もがバカなのだと自分に言い聞かせます。私たちは話す立場になると、どうしてもそのことを忘れてしまいがち。聴衆は、あなたの一挙手一投足を批判する完璧な人々だと思ってしまうのです。古くからある「聴衆を裸だと思え」というテクニックも、同じ理屈です。そう考えることで、自分ではなく、聴衆が弱く感じられるのです。ダンス、パワーポーズ、バカげたエクササイズなど、どんな方法であれ、バカになることを決めたのであれば、とことんバカに徹することが重要です。そうすることで、ストレスが大幅に解消されるのです。不安はどこかに消え、本来の自分を出しきることができるでしょう。

人前で話すのは容易ではありません。ですから、なかなか慣れなくても焦る必要はありません。今は怖いと感じても、いつかうまく話せるようになったとき、その経験は無駄じゃなかったと思える日が来るはずです。落ち込まずに、話の始まりと終わりを意識することで、聴衆をうならせるトークができるようになる日も、そう遠くないでしょう。

Patrick Allan(原文/訳:堀込泰三)

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