モバイルアプリを使うのはとても楽しいものです。けれども、アプリに費やす時間が長くなりすぎて、仕事に集中できなくなったりもします。単に意志の力だけでは、アプリを使いたいという欲望をうまくコントロールすることはできません。アプリがどうやって、依存性がおそろしく強いものになっているのか、その仕組みを理解する必要があるのです。

アプリに対して疑いを持つべき理由

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アプリは素晴らしいものです。1日の中でちょっとした暇ができた時に、楽しく時間を潰せるアプリがたくさんあります。また、疎遠になりがちな友人や家族とつながりを保つのに役立つアプリもあります。数えきれないほどの素晴らしいビジネスや体験がモバイルアプリで成り立っているのには、それなりの理由があるのです。

ですが、『Hooked ハマるしかけ』の著者ニール・イヤール氏が読者からもらった手紙に書かれていたように、「すごい力というのは、必ず悪事にも用いられる」のです。つまりアプリにも、多くの人が気づいていない暗黒面があります。

例えば、私たちは自分で思っているよりもはるかに長い時間をアプリに費やしています調査会社Nielsenのレポートによれば、現在私たちが毎月アプリに費やしている時間は、ほんの2年前と比べて65%も増えているのです。2013年末時点で、アプリに費やす時間は、平均で毎月30時間15分に達しました。これは、睡眠時間を除けば、ほぼ丸2日分にあたります。

現代人がアプリや携帯電話の中毒になっていることについてのさらなる証拠がほしい方のために、ベンチャーキャピタリストでモバイルアナリストのMary Meeker氏がまとめた2013年5月のインターネットトレンドレポートを紹介しましょう。このレポートによれば、私たちは平均すると毎日150回も携帯電話をチェックしているのだそうです。

モバイル分析会社のFlurryは、1日あたり60回以上アプリを起動する人を「モバイル依存症」と定義しています。同社は2014年3月に、13億台の携帯端末にインストールされた50万種類のアプリからデータを収集しました。それによれば、モバイル依存症のユーザー数は、2013年から2014年の間に123%も増加したといいます。2013年3月には7900万人だったモバイル依存症ユーザーが、2014年3月には1億7600万人にまで増えていたのです。

以前の技術メーカーも、製品をより吸引力の強いものにしたいと考えていましたが、当時はまだ、現在のアプリメーカーが持っているほどのデータやアルゴリズムはありませんでした。現代のアプリ開発者には、ユーザーとアプリのやりとりをひとつ残らず追跡し、そのデータを使って製品をもっと依存性の強いものにするだけの力があります。そして、実際にそうするでしょう。アプリを作っている人たちは、そのものずばり、「依存性」を成功の評価基準としているのです。

解決策は、スマホを窓から投げ捨てることではありません。アプリはとても便利で、日々の生活に大いなるメリットと喜びを与えてくれます。今後もますます便利になっていくでしょう。あなただって、アプリのない世界よりも、アプリのある世界で暮らしたいはずです。アルコールなどの依存性がある物に対しては、あなたも注意を払いますよね? それと同じように、アプリについても、使う程度をコントロールしながら、健全に楽しむことができるのです。

アプリは、(デフォルトでは)受け身な存在ではありません。メールやプッシュ通知を通じて常にユーザーに接触してきます。こうした通知に打ち克つには、人間的な要素が必要です。ここでは、依存性を生むアプリの仕組みを説明するとともに、時間とエネルギーの支配権をアプリから取り戻し、アプリと幸せに共存する方法をお教えしましょう。

アプリはトリガーで日常生活に割り込んでくる

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みなさんの中には、メールやプッシュ通知の着信音が鳴ったり、ポケットの中で携帯電話が振動したりしたら、ほとんど「パブロフの犬」のように反射的に反応する人がいるかもしれません。アプリの開発者やマーケターは、あなたの注意をモバイル端末に引き戻せるように、そうした「きっかけ」を念入りに設計しています。

イヤール氏のブログ記事によれば、そうした外部のトリガー(プッシュ通知やEメール、リンクなど)には、すでに身についている行動や感情にアプリを結びつける働きがあるのだとか。つまり、なにか特定の感情を抱くたびに、ますますアプリを使いたいという誘惑に駆られるようになるのです(例えば、エレベーター待ちでちょっと退屈すると、ついさっきチェックしたばかりでも、ほとんど反射的に携帯電話を引っぱり出してしまう、など)。自分でも気づかないうちに、1日を通じてアプリを使う頻度がどんどん高まっていきます。こうして、習慣がつくられるというわけです。

携帯電話が振動すると、その度についつい反応したくなってしまうものですが、少し距離をとって、その衝動をコントロールしなければいけません。アプリの狙いは、あなたに考えさせないことにあります(設計者や開発者は、とにかく「認知的負担」を取り除こうとしています。この場合の認知的負荷とは、通知を受け取ってから、携帯を見たいという衝動に負けるまでの時間を指します)。あなたが支配権を取り戻すためには、ちょっとした抵抗や不便さが必要なのです。

トリガーに打ち勝つためのもうひとつの方法は、時々チェックするアプリのプッシュ通知を無効にするというものです。例えば、私が有効にしているプッシュ通知は、『Whatsapp』とSMSと『iMessage』だけです。もちろんそうすると、友人からおもしろい写真が『Snapchat』経由で送られてきても、すぐには気づかないことになります。ですが、プッシュ通知に気を散らされずに仕事に集中できるようになるので、長い目で見れば見返りを得られるはずです。

プッシュ通知は有効にしておきたいけれど、朝起きた時に通知が山のように来ている、という人は、毎朝まっ先に携帯を見なくても済むようにしましょう。寝室とは別の部屋で充電し、目覚まし時計を買えば良いのです。

Android端末のユーザーなら、『Human Mode』などのアプリを使えば、電話のコールやメッセージを都合の良い時まで保留しておくことができます。

外部のトリガーを無視したり抑えつけたりするのは、比較的簡単です。けれども、すでにアプリとの間で、感情的なつながりや個人的な結びつきができあがっている可能性もあります(私は、退屈になるとSnapchatを開いてしまいます。友達のことを思い浮かべたら、『Path』を開きます。社交の場で話す相手が誰もいない時には、忙しそうに見えるように『Flipboard』を見ます)。

今後、スマホを手に取る時には、意識してそのきっかけになった内部のトリガーを探ってみると良いでしょう。特定の感情かもしれないし、なんらかの信条がトリガーになっている可能性もあります。例えば、Yammerのプロダクトマネージャーを務めるJason Shah氏は、眠る前にはいつもテレビをつけていたそうです。というのも、テレビが元気を取り戻す助けになると信じていたからです。内部のトリガーのもとになっている信条を探り出しましょう。

アプリはエネルギーの投資を求める

Facebookで友達とつながったり、Twitterで誰かをフォローしたり、LinkedInで誰かと結びついたりするのは、次にサービスを利用する時のために、もっと楽しく使えるようにしようという意識が働いているからです。でも、それはまさにアプリの思うツボです。使い心地を完璧なものにしようとして、時間とエネルギーを費やすほど、そのサービスから離れがたくなり、利用をやめるのが難しくなってしまうのです。

例えば、Facebookに1000人の友達がいて、そのうちの50人しか電話番号やメールアドレスを知らないとしましょう。そうした人たちとのつながりを保つためには、Facebookを使い続けなければいけません。また、みんながネット上にアップロードする写真が増えるほど、ネットから離れるのは難しくなります。利用を止めてしまえば、大切な写真にアクセスできなくなってしまうからです。

もちろん、時間やエネルギーを少しくらいネットに費やすのは、悪いことではありません。ですが、投資先を分散するように心がけるのも大切です。できれば、近しい友人や知人には、メールアドレスや電話番号を聞いておきましょう。必要なコンテンツは、ハードディスクにコピーしておくこと。また、絶対に必要でないかぎり情報をアップロードしないようにして、利用を止めたくなった場合にどうやってデータを取り出せば良いのかを確認しておきましょう。サービスの利用を止めたくなった時に、できるだけ苦労せずにやめられるようにしておくことが大切です。

すでにアプリにたっぷり時間を費やして、自分の好みに合うように手を加えたり、友達とつながったりしている人もいるかもしれません。だからといってそれにしがみつく理由にはなりません。これは典型的な「サンクコスト(埋没費用)の誤り」の例と言えるでしょう。この誤りにはまってしまった人は、時間やエネルギー、お金を費やしたことを理由に、たとえ間違った選択肢であっても、それにしがみついてしまうのです。

ここまでの説明で、あなたがアプリに時間やエネルギーをかなり費やしていることがわかったはずです。次は、具体的にどのサービスに費やしているかに注目してみましょう。ひょっとしたら、本当はたいして興味のないサービスにはまりこんでいたことに気づくかもしれません。

アプリはご褒美で気を引く

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ポイントを与えたり、さまざまなタイプの強い感情を引き起こしたりして、ユーザーを誘惑するアプリも存在します。そうした予測のつかない気まぐれな「ご褒美」があると、アプリの影響力はいっそう強くなります。いったんご褒美をもらうと、すぐにもっと欲しくなるのが人という生き物です。そして、次のご褒美を手に入れることばかり考えるようになります。ビデオゲーム好きの人や、本当に名作と呼べる作品を見たことのある映画ファンの話を聞けば、そうした予測不可能なご褒美の威力がわかるはずです。

アプリの場合、ユーザーが受け取るご褒美は、人とのつながりや安心感、興奮などの感情です。アプリを使えば使うほど、ご褒美欲しさにもっと使いたくなるのです。

それに対抗するためには、アプリを使いたいという衝動を抑えこんだ時に、自分にご褒美を与えるようにすると良いでしょう。例えば、眠れない時には、アプリを使うかわりに、心の落ち着く音楽を聴いてリラックスしたり、しばらく起きて本を読んだりしてみてください。瞑想でも軽い運動でも、何でもかまいません。要は、光を放って絶えず更新されるディスプレイのような強い刺激のないことをすれば良いのです。

モバイルから心を解き放つ(ほんの少しだけでも)

アプリはとても楽しく、パワフルなものです。ですが、あなたがほかのことに集中しようとしている時に、トリガーを発して注意を引き戻そうとすることもあります。時間やエネルギーを費やすように仕向けて、あなたをもっと引きつけようとします。ご褒美で気を引いて、利用を促したりもします。この記事では、そうしたアプリの仕組みを説明してきました。もうあなたは、アプリがあなたの気を引くために仕掛けた罠に打ち克てるはずです。ここで紹介した情報を活かして、アプリから心を解き放ってください。アプリは使うもの。あなたがアプリに使われてしまってはいけません。

Herbert Lui(原文/訳:梅田智世/ガリレオ)

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