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【スペック】全長×全幅×全高=4625×1800×1440mm/ホイールベース=2810mm/車重=1510kg/駆動方式=FR/2リッター直4DOHC16バルブターボ(184ps/5000rpm、27.5kgm/1250-4500rpm)/価格=459万円(テスト車=562万8000円)

BMW 320iスポーツ(FR/6MT)【試乗記】

シャンパンからワインへ 2012.08.27 試乗記 サトータケシ BMW 320iスポーツ(FR/6MT)
……562万8000円

セダンではすっかり少数派になったMT仕様車が選べる「BMW 320i」。その運転体験は、ATのモデルとどう違う?
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それでも好きなMT車

われわれ「MT(マニュアルトランスミッション)愛好会」のメンバーの間で最近熱く語られるのが、「そろそろ最後のマニュアル車を買い込んでおいたほうがいいのではないか」という議題だ。ポルシェファンのみなさんが、最後の空冷「911」買い求めたのに似ているかもしれない。
とにかく、気がついた時に新車で買える(気に入った)MT車がなかった、という事態は避けたい。特にMTの設定がどんどん減っている「MT愛好会セダン支部」の目は真剣だ。

とはいってもいまのご時世、MTのほうが優れている点を探すのは難しい。ここに紹介する「BMW 320i」にしても、6MT仕様のJC08モード燃費は16.0km/リッター。一方、8AT仕様は16.6km/リッターだから、オートマのほうが燃費がいい。
しかも「BMW 3シリーズ」の8段ATはシフトショックが少ない温厚派でありながら、アクセルペダルの微妙な踏み加減にシャープに食いつく切れ者でもある。エンジンとドライバーの間に余分なモノが挟まるもどかしさはない。

じゃあなんでMTにこだわるのかと問われれば、「好きなんです」としか言いようがない。カチャカチャと、出したり入れたりするのが好きなんです。シフトアップやシフトダウンのたびに「うまくいった」とか「ちょっとミスった」とか、小さなガッツポーズと反省を繰り返しながら走るのが好きなんです。

だから『webCG』編集部から「3シリーズの広報車にマニュアルがあったんですよ」と聞いた時にはうれしかった。喜び勇んで乗り込む前に、新型「3シリーズ」の概要を簡単におさらい。

現在日本に導入される最新型「3シリーズ」のなかで、MTが選べるのは「320i」のみ。上級モデルの「328i」には用意されない。
現在日本に導入される最新型「3シリーズ」のなかで、MTが選べるのは「320i」のみ。上級モデルの「328i」には用意されない。 拡大
黒を基調に赤がアクセントとして用いられる「320iスポーツ」のインテリア。いかにもBMWらしいスポーティーなムードになっている。
黒を基調に赤がアクセントとして用いられる「320iスポーツ」のインテリア。いかにもBMWらしいスポーティーなムードになっている。 拡大
「BMW 320i」も「328i」と同じく、ノーマル仕様のほかに「スポーツ」「モダン」「ラグジュアリー」のテーマごとに内外装や装備品がコーディネートされる“デザインライン”が用意される。今回の試乗車は「スポーツ」。バンパー下にはシルバーのラインが添えられ、ワイド感が強調されている。
「BMW 320i」も「328i」と同じく、ノーマル仕様のほかに「スポーツ」「モダン」「ラグジュアリー」のテーマごとに内外装や装備品がコーディネートされる“デザインライン”が用意される。今回の試乗車は「スポーツ」。バンパー下にはシルバーのラインが添えられ、ワイド感が強調されている。 拡大
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力はあれど華がない

フルモデルチェンジを受けた3シリーズは、2012年の年明けにまず「328iセダン」が日本に入ってきた。続いて春には「320iセダン」も導入された。「328i」が8ATのみの設定だったのに対して、「320i」には6MTも用意される。
328iと320iと並べて書くとまったく別のエンジンを搭載しているようだけれど、どちらも2リッターの直列4気筒の直噴ターボエンジンを積む。

じゃあ何が違うのかといえば、主にターボの過給圧の違いによってパワーとトルクに差がある。328iが245psの最高出力と35.7kgmの最大トルクを発生するのに対して、320iはそれぞれ184psと27.5kgm。ざっくり七掛けだ。ところがいざ走りだせば、「七掛け」なんていう言葉は吹き飛ぶ。

試しにアクセルペダルに指一本触れずに、クラッチ操作だけで発進してみると、BMW 320iは毅然(きぜん)とした態度ですーっと加速する。そこからじわっとアクセルペダルに力を込めると、むっちり身の詰まったトルクで車体を押し出す。力不足はこれっぽっちも感じさせない。例えば3速で1500rpmぐらいにまで回転が落ちても、無理なく加速する。

でも、そこからアクセルペダルを踏み込んで、「あれっ?」と思う。「シャーン」とソリッドに伸びる、BMWらしいフィーリングがないのだ。
別に音が悪いわけではない。むしろ乾いていてヌケのいい、なかなかの音質だ。回転フィールが悪いわけでもない。キメが細かい手触りで、精密な機械がきっちり仕事をしている様子が伝わってくる。

足りないモノとは、ありきたりの言葉で言えば「ドラマ」と「華やかさ」だ。回転が上がるにつれて「カーン!」と音が盛り上がる華やかさと、パワー感が突き抜けるドラマが足りない。
超ハイテク制御によって1250rpmから最大トルクを発生するモダンなエンジンなのだ、という正義は頭で理解しつつも、「やっぱり6気筒のあの味を4気筒に求めるのは無理なのか……」というモヤモヤが残る。
けれどもしばらく乗ると、そんなモヤモヤは素晴らしい出来のシャシーの上で次第に消えていった。

同じ2リッターの直噴ターボでも、「328i」用(NB20B20A)と「320i」用(N20B20B)では形式が異なる。圧縮比は、前者が10.0で後者が11.0。いずれも1250rpmという低い回転域から最大トルクを発生する。
同じ2リッターの直噴ターボでも、「328i」用(NB20B20A)と「320i」用(N20B20B)では形式が異なる。圧縮比は、前者が10.0で後者が11.0。いずれも1250rpmという低い回転域から最大トルクを発生する。 拡大

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オプションの18インチアルミホイール「ダブル・スポーク・スタイリング397」。組み合わされるタイヤはピレリのランフラットタイヤ「Cinturato P7」。
オプションの18インチアルミホイール「ダブル・スポーク・スタイリング397」。組み合わされるタイヤはピレリのランフラットタイヤ「Cinturato P7」。 拡大
荷室の容量は5名乗車時で480リッター。4:2:4分割可倒式の後席を倒せば、さらに拡大することができる。
(写真をクリックするとシートの倒れるさまが見られます)
荷室の容量は5名乗車時で480リッター。4:2:4分割可倒式の後席を倒せば、さらに拡大することができる。
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新種の「駆けぬける歓び」

まず乗り心地がいい。4本のタイヤがかちっと路面を捉えているフィーリングは伝わってくるのに、凸凹を乗り越える瞬間のショックは巧妙にカットされている。

先鋒のタイヤが相手の勢いを柔らかく受け止め、次鋒の足まわりがそれをいなし、大将のボディーがするりと吸収してしまう。
そしてスピードを上げても、がんばってコーナーをクリアしても、このしなやかなフィーリングは失われない。予選レースのウサイン・ボルトのように、がんばってないように見えて、実のところはスムーズに速い。
かつて、ビーエムの6気筒エンジンは「シルキー・シックス」と称されたけれど、320iは「シルキー・シャシー」だ。
面白いのは、6MTをじっくり味わってやろうという意気込みで試乗を開始したのに、いつの間にか「いいクルマだなぁ」と思いながら運転していたことだ。

エンジンの「シャーン!」がないから、2500rpmでシフトアップ、ひとつ上のギアで2000から2500まで回してまたシフトアップ、という端から見ると地味な運転スタイルになる。
でも、「シルキー・シャシー」との組み合わせだと、これまた楽し。1速、2速でぎゃんぎゃん引っ張らなくても、MTを操っていると「いいものを、自分の手で丁寧にめでている」という感覚を味わうことができる。新種の「駆けぬける歓び」だ。

運転しながら頭に浮かんだのは、ラグビー少年だった頃に読んだラグビー専門誌の記事だ。いまから30年ほど前、フランス代表チームのプレースタイルは「シャンパン・ラグビー」と称された。ぽんぽんとパスをつなぐ華麗なスタイルを、泡がはじけるシャンパンにたとえたのだ。
「シャーン!」があった頃のBMWのエンジンも、「シャンパン・エンジン」だった。今度の320iのエンジンは、泡ははじけない。けれどもコクと深みがある。シャンパンからワインになったのだ。

「MT愛好会セダン支部」も落ち着いてきたので(高齢化とも言う)、このエンジンと6MTの組み合わせが気に入ると思う。
ただし2速から3速にシフトアップする際、コリッと軽く引っかかるのが気になった。ほかのポジションのシフトフィールが文字通り吸い込まれるように滑らかだから、余計に目立つ。個体差かもしれないし新車の硬さが残っているのかもしれないけれど、最後のMT車を考えている人にはひとこと注意をうながしたい。

(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

ワインディングロードを駆けぬける。フロントと異なり、リアビューにはデザインラインごとの大きな違いはない。
ワインディングロードを駆けぬける。フロントと異なり、リアビューにはデザインラインごとの大きな違いはない。 拡大
ドライバーを迎える赤いステッチ入りの「ダコタ・レザー・シート」はオプション。シートヒーティングも付いて、価格は28万4000円。
ドライバーを迎える赤いステッチ入りの「ダコタ・レザー・シート」はオプション。シートヒーティングも付いて、価格は28万4000円。 拡大
今回の試乗では、市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)の割合で226.4kmを走行。消費した燃料は20.7リッターで、満タン法による燃費は10.9km/リッターを記録した。
今回の試乗では、市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)の割合で226.4kmを走行。消費した燃料は20.7リッターで、満タン法による燃費は10.9km/リッターを記録した。 拡大
【テスト車のオプション装備】
ダブル・スポーク・スタイリング397(18インチアルミホイール)=11万3000円/バリアブル・スポーツ・ステアリング=6万5000円/フロント・センター・アームレスト=2万2000円/電動ガラスサンルーフ=17万円/ストレージパッケージ=2万円/パーキングアシスト=4万9000円/パーク・ディスタンス・コントロール(フロント)=4万3000円/TVチューナー=10万8000円/HiFiスピーカーシステム=8万4000円/ダコタ・レザー・シート+シートヒーティング=28万4000円/メタリックペイント=8万円
【テスト車のオプション装備】
ダブル・スポーク・スタイリング397(18インチアルミホイール)=11万3000円/バリアブル・スポーツ・ステアリング=6万5000円/フロント・センター・アームレスト=2万2000円/電動ガラスサンルーフ=17万円/ストレージパッケージ=2万円/パーキングアシスト=4万9000円/パーク・ディスタンス・コントロール(フロント)=4万3000円/TVチューナー=10万8000円/HiFiスピーカーシステム=8万4000円/ダコタ・レザー・シート+シートヒーティング=28万4000円/メタリックペイント=8万円 拡大
サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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