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KISS 第11号 「おめでたい経営者」

セミナーで、伝えたいことを出し切ってしまったので、どうにもエッセイが進みません。
ということで今回は、基礎の基礎として、「おめでたい経営者特集」です。

おめでたい経営者ケース1「定期預金している企業」

企業が次なる投資先を探している間、営業活動から生み出されるキャッシュを、「一時的に」内部留保するのは、よくあることです。
業種業態にもよりますが、一般的には、年間売上高の2%?5%超の現金は、「余剰現金=事業に投資されない現金」という認識をすべきです。
全うな経営者であれば、このような現金は、投資家に還元(自社株買い、配当、有利子負債の返済など)するか、再投資(新規事業、M&A、などなど)します。
当たり前のコンコンチキですが、事業に投下されない現金を持っていると言うことは、企業が価値創造を行うために最も重要な、「投下資本利益率」を低下させてしまうのです。
まして「定期預金」をしている企業の経営者は、「おめでたい」としか言いようがありません。
定期預金をするなら、投資家が自分で直接定期預金しますよ。
株式投資した金が、定期預金されるのでは、たまりません。
投資家の期待収益率(=企業にとっての資本コスト)は、少なくとも「定期預金」の利率より、はるかに高いわけですから、この部分の資金に限ってみれば、企業の
ROIC?WACC=SPREAD
は、間違いなくマイナスになります。
おめでたいです。

おめでたい経営者ケース2「成長期での配当」

企業には、その成長ステージがあります。
一般的には、「導入期?成長期?成熟期?衰退期」という運命をたどるわけです。
それぞれの時期の、営業C/F、投資C/F、財務C/Fを見れば明白なことですが、特に導入期?成長期では、営業C/Fに比べて、投資C/Fが過大になります。
(=将来の営業C/Fのために、足元では、投資を増やします。)
当たり前ですが、その分を財務C/Fにて補う(=増資や有利子負債による資金調達)わけです。
このとき、「株価維持」というわけのわからないイイワケで、配当を行うと言うのでは、配当のために増資や有利子負債による資金調達をしているという馬鹿げた資金循環を起こしてしまうわけです。
おめでたいです。

おめでたい経営者ケース3「実体経済価値より高い株価での自社株買い」

株式投資とは、その対象が自社であれ、他社であれ、
「支払った株価以上の、価値を手に入れる」ことが基本です。
当たり前のコンコンチキですよね。
これ以上の説明は、必要ないと思います。
同時に、
余剰現金を相当量持っている企業が、
「実体経済価値より相当に低い株価のときに、自社株買いを行わない」という場合も、おめでたいです。
さらに、
「実体経済価値より相当に低い株価での増資」も同様に、おめでたいです。
希薄化などと言う問題以前に、「自分自身を安い株価で売ってしまう」わけですからね。
おめでたいです。

おめでたい経営者ケース4「有利子負債を、ただただ嫌う経営者」

「銀行が嫌い」と言うのは、僕の場合、よーくわかります(笑)
実際、企業経営など、わかった振りして、全然わかっていないアホな銀行から有利子負債を調達すると、ろくなことになりません。
しかし、有利子負債は、何も間接金融ばかりではありません。
社債だって、有利子負債ですからね。
「直接金融か間接金融か」という話ではなく、「資本(E)か有利子負債(D)か」という話しです。
一般的には(その企業の格付けがBBB(Triple B)以上であれば、企業にとって株式資本コストより、有利子負債コストの方が、遥かに安いわけです。
よって、格付けが下がってしまうほどの有利子負債の比率で無い限り、有利子負債による資本調達は、企業の加重平均資本コスト(WACC)を下げる効果があります。
特に、薄利多売のビジネスモデルの場合、有利子負債によるWACC低減は、必須となります。
大手商社の財務を見てください。
有利子負債比率が、ちょいと下がっただけでも、彼らは価値創造を行うことが出来なくなってしまいます。

おめでたい経営者ケース5「既存株主を犠牲にする経営」

これは、もう、何度も書いてきましたよね(笑)
MSCBなどを発行する企業は、既存株主を尊重していない証拠です。
また、同様に、前回の増資時の株価を下回る株価(株式分割など調整後)での新規増資などするようでは、おめでたいを通り越して、犯罪(詐欺)だとすら思います。

おめでたい経営者ケース6「ただひたすら規模を追求する経営者」

企業が価値創造を行うための根源は、
ROIC?WACC=SPREAD
投下資本利益率―加重平均資本コスト=スプレッド
がプラスであることです。
当たり前のコンコンチキですが、資本を調達するコスト以上の、事業効率を持っていなければ、いかなる価値も生み出すことは出来ません。
(詳しくは、SMU第177号「安く仕入れて(調達して)、高く売る(運用する)」を参照ください。)
よって、現時点での当該企業のROICを下回る新規投資を実行すれば、当該企業のROICを押し下げる効果になってしまいます。
新規投資におけるROICが相当に低くても(=当該企業のROICが、新規投資によって押し下げられても)、それがプラスである以上、価値破壊を起こしていても、会計上は、増収増益となるわけです。
増収増益ばかりに気を取られる経営者って・・・おめでたいです。

おめでたい経営者シリーズは、まだまだたくさんありますが、今日はこんなところで。

以上は、「経営者」に視点を絞って書いてきましたが、以上のすべては、それをひっくり返せば、「投資家」にも当てはまります。
上記のケースに該当する企業に投資する投資家は、おめでたいと言うわけです。
株式投資と言うのは、不動産投資と違い、当該企業の「経営者と事業をセットで買う」と言うことに他なりません。
よって、「経営者の資質と姿勢」は、株式投資において、極めて重要です。
と言うより、僕個人的には、株式投資における判断において、経営者の資質とは、その投資判断において、もっとも重要な要素です。
経営者の資質は、何も直接インタビューしなくても、調べることが出来ます。
1、 当該企業のIR担当へ、直接質問をぶつける。
2、 有価証券報告書の経営目標などの文言をチェックする。
3、 当該企業の経営者のメディアへの出演をチェックする。
など、誰にでもできると言うわけです。
(僕は、経営者の「表情の経年変化」を重視しています。)
「経営者を見る目」は、「財務を見る目」と同等以上に、重要というわけです。

単に売上高の絶対額を目標にしているような企業は、さっさと売ってしまいましょう。
売上高など、企業価値創造における、単なる「一因数」に過ぎません。
少なくとも、重要な経営目標であるはずがありません。
(だから、売上高がどうでもよいと言う意味ではありませんからね)
ええと、民主党の岡田代表の親族が経営する企業なんてのは、まさにこれに当たります。
おめでたい経営者の経営する企業です。
ついに、岡田代表も、おめでたい発言をするようになりましたけどね(笑)

今日は、こんなところで。

2005年2月22日 板倉雄一郎 

PS:
ライブドアの株価についてのティップスですが・・・(笑)
もし僕が、リーマンの担当者なら、毎週、水木金曜日に、売り浴びせます。
なぜなら、ライブドアのMSCBの下方修正値は、毎週金曜日に、その前3連続取引日の株価を参照するからです。
へへへ。





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