■ずさんな「総理のご意向」文書の調査
5月17日の衆議院文部科学委員会で、加計学園による大学獣医学部の新設問題を取り上げました。
民主党獣医師問題議員連盟の事務局長を務めたこともあり、特区による獣医学部新設には以前から関心を持っていました。
政府からも定期的にヒアリングを続けてきましたが、その私から見ても、特にこの1年で劇的に進んだという印象を持っています。
17日の国会では、その日に報じられたいわゆる「総理のご意向」文書について、その真偽を松野文科大臣に質しました。
大臣は「確認したい」と引き取ったのですが、役所のこの手の調査としては異例の早さで、19日の午後4時に「文書の存在を確認できなかった」との調査結果を発表したのです。
しかし、この調査はあまりにもずさんです。
調べたのも、文科省専門教育課の「共有フォルダ」だけ。なぜか担当者のパソコンや個人フォルダは一切調べていません。
官房長官が、早々に「怪文書」などと言い切ってしまったことから、その発言とつじつまを合わせるために調査対象を限定したのでしょうか。
問題となっている文書の一つに、元国会議員で獣医師の北村直人氏と文科省専門教育課のM課長補佐のやりとりを記したものがあります。
北村直人氏が「(文書の内容は)99.9%そのとおり」と言っているにもかかわらず、やりとりの相手方であるM補佐の個人パソコンやファイルは確認していないのです。
これは明らかに調査として不十分です。
身内による調査には限界があります。文科省は外部の人材を入れて調査をやり直すべきです。
■加計学園獣医学部は閣議決定違反?
文書の真偽にばかり注目が集まっていますが、重要なことは、
- これまで50年以上認められてこなかった獣医学部の新設が、なぜ加計学園だけに認められたのか。
- 認められる過程で、安倍総理と加計理事長が親しい関係であることを背景に、森友学園のような「特別な対応」があったのかどうか。
この2つです。
そこで私が注目しているのが、閣議決定で定めた「石破4条件」です。
平成27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」には、国家戦略特区における獣医学部の新設の検討が盛り込まれましたが、その際、満たすべき「4条件」が明記されました。
この「4条件」は、第2次・第3次安倍内閣で国家戦略特区担当大臣を務めた石破茂さんの時代に作られました。
⑭獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討
現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、
ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、
既存の大学・学部では対応困難な場合には、
近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。
(「『日本再興戦略』改訂2015」 p.121より)
「石破4条件」は、簡単に言えば、既存の獣医学部では対応できない新たなニーズに応える獣医師を養成するのであれば、新設を認めるというものです。
私は、地域を限定して規制の特例を認める「特区」という枠組み自体には反対ではありません。
しかし、ここで問われるのは、加計学園が新設する獣医学部が、この閣議決定された「石破4条件」を満たしているかどうかです。
ちなみに、閣議決定とは、内閣を構成する大臣全員が署名する政府の最重要文書で、内閣法第6条には、
内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。
と定められています。法律上、総理大臣は閣議決定を守る義務があるのです。
私は、加計学園の新設する獣医学部が「石破4条件」を満たしておらず、閣議決定違反の可能性があるのではないかと考えています。そして、そのことを裏付ける証拠の一つが、加計学園が回答した定員160名の算出根拠です。
■日本最大「160名」根拠、政府は答弁不能
加計学園が新設する獣医学部の定員は160名で、これは既存16大学の定員合計930名の約2割に相当します。
しかも、既存の獣医学部の中で定員が最も多いのは120名で、加計学園は日本最大の獣医学部を作ろうとしていることになります。
17日の国会で、この160名の算出根拠について質問したところ、文科省、農水省、内閣府のいずれも答えることができませんでした。
実は、前日の質問通告の際、どの省庁が答えるのか聞いたところ、3つの役所は「うちじゃない」と互いに押しつけ合っていました。
通告後も平行線で、国会で政府が誰一人として責任を持って答えることができない、つまり答弁不能という異常事態です。
これでは埒があかないので、愛媛県畜産課が加計学園から聞いた160名の算出根拠を記した文書を紹介しました。
■政府説明と矛盾 衝撃の「算出根拠」
これが、定員160名の算出根拠について、加計学園からの回答を記した文書です。
抜粋すると、
26年度の獣医師法第22条の届出では、就業獣医師の総数は39,098人。この人数を維持するため、獣医師が生涯で35年働くとして、年間1,117人(39,098人/35年=1,117人)の新規獣医師が必要。現在ある全国の獣医学科の定員は930人/年。このため、年間187人(1,117人−930人=187人)が不足していると試算。
つまり、従来型の獣医師が年間187人足りなくなるから定員を160名にした、と言っているに過ぎないのです。
これは衝撃の内容です。
そもそも、これまで50年以上獣医学部が新設されてこなかったのは、獣医師の数が足りているからです。政府もこれまで、地域偏在はあっても、全体として獣医師は不足していないと国会で何度も答弁しています。
にもかかわらず、加計学園に日本最大の獣医学部新設を認めたのは、「石破4条件」をクリアしたから、すなわち既存の獣医学部では対応できない新たなニーズに応える獣医師を養成するから、と政府は説明してきました。
ところが、加計学園による定員160名の算出根拠は、既存の獣医師の不足分、ということがこの資料で明らかになりました。
これは、獣医師数は不足していないとするこれまでの政府答弁とも矛盾しますし、「石破4条件」に出てくる「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要」などの要素も一切考慮されていません。
こうした算出根拠をとっていることも、日本最大の獣医学部の新設が、「石破4条件」を満たさないまま認められた可能性を示唆しています。
なお、平成28年9月21日に開催された国家戦略特区に関する「第1回今治市分科会」でも、今治商工会議所特別顧問で元愛媛県知事の加戸守行氏が同じ数字を述べています。
■石破前大臣の嘆き
「石破4条件」の産みの親である石破前大臣の発言がとても象徴的です。
不思議ですよね。なぜ大臣が変わることでこんなに進むのか。新たな条件が出るのか。世間で言われるように、総理の大親友であれば認められ、そうじゃなければ認められないというのであれば、行政の公平性という観点からおかしい。(週刊新潮インタビュー)
国家戦略特区制度に対する信頼を確保するためにも、これまでの手続きや内容に問題がないのか、丁寧な検証が必要です。
関係各省には検証に必要な情報を適切に公開してもらいたいと思います。