歴史と伝統が息づくこの街には、貴重な建築物も数多く残されている。
今回紹介するのは、金沢市指定文化財である旧園邸だ。茶室・松向庵があることでも知られている建物である。
場所は金沢市西町。武蔵ヶ辻・近江町市場から徒歩五分の距離にある。尾崎神社に向かって歩くとわかりやすい。
恥ずかしながらこのぱんだ、ずっとこの道を歩いていたのに今まで旧園邸の存在に気づいていなかった。
なにしろ外から見て見学できる施設だということが分かりにくいし、ガイドブックにもあまり載っていない。
しかも平日は休館、十二月から二月までの冬季も休館、茶会で使用されている時も見学不可なのだ。
これではもとから目が節穴なぱんだではなかなか気づけない。今回はたまたま散歩中に入れることに気づいた次第である。
「旧園邸」
外から見た旧園邸は水平に連なる長屋門を思わせる門と塀が端正な趣を醸し出しているのだが、道路なので撮影を断念。上の写真は門から入ってすぐのところで撮影した。
この旧園邸は大正七年建築の近代和風住宅であり、母屋の張出し部に連なる意匠は、その奥の本屋の切妻屋根に調和しながら、さらに土蔵屋根と一体になって極めて重厚な佇まいを見せている。
邸の内部。写真撮影可とのことだったので撮らせていただいた。中庭のところから撮影。
邸の中に入ると、そのあまりの広さと趣ある様に驚く。外からでは想像できない広さだ。
そして寒い。風通し良好。床下も湿気を防ぐために風が通るようにしてあるそうだ。これにより建物が長持ちするそうである。しかしとにかく寒い。畳の上でさえ氷の上を歩むが如しである。三月の訪問でさえこうなのだ。道理で冬季は開館できないわけである。
この旧園邸の建築主は羽二重商を営んでいた本郷長次郎氏である。
茶道に通じていた本郷氏は、ここに邸宅を新築した際、各部屋が茶事に使えるように露地ともども表千家家元千宗左、惺斎宗匠の指導のもと茶室を作り上げた。
大正から昭和にかけて月釜がかけられ、本格的な茶事が催せる茶室として評判であった。
茶室は三畳台目の松向庵、その他に十畳の広間・水屋・待合などが坪庭を中心に巧みに構成されている。
後にこの建物は園酉四郎氏が取得し、住まいとしていた。園氏亡き後は時子夫人が暮らしておられたが、夫人の死去後にその遺志により平成四年十月に金沢市に寄贈された。
大正期の近代和風住宅の一つとして大変貴重なものであり、平成六年五月十一日に金沢市指定文化財とされた。
「旧園邸」
邸内部は茶室の他見るべきものが多い。
釘隠しのデザインも素敵だし、柱は綺麗な柾目だ。立派な土蔵もあって驚いた。
「旧園邸」
旧園邸には前庭と中庭、そのほか三箇所の庭がある。いずれも大変風流。灯籠の形もそれぞれ異なり、とても興味深かった。
ちなみにこの旧園邸、とても丁寧に案内していただけるので、非常に充実した時間を過ごすことができた。休館や茶会で見学不可のことも多いスポットだが、興味のある方は是非訪れてみてほしい。
参考:旧園邸の案内板
金沢市のホームページ「旧園邸・松向庵」
この他、解説してくださった方のお話も参考にさせていただいた。