アメリカは西海岸北部のシアトル拠点のバンド、「Doll・Test」(ドール・テスト)。彼らの1stアルバム「Mosque・Alarm・Clock」」(2008年)は、なかなかなパワーポップの好盤である。
ドール・テストは「Model・Rockets」(モデル・ロケッツ)が解散した後の元メンバーによる結成で、モデル・ロケッツの後継バンドといってよい。だから今回は前回のモデル・ロケッツの話の続きとなる。
モデル・ロケッツは、ジョン・ランバーグ(John・Ramberg)が率いるシアトルを拠点にしたパワーポップ系のバンド。1990年代より活動し、アルバム5枚を出して解散。なかでも3rdアルバム「Tell・the・kids・the・Cops・Are・Here」(2002年)と4thアルバム「Pilot・County・Suite」(2003年)は、非常によく出来たパワーポップの名盤だ。モデル・ロケッツ解散後、主要メンバーのジョン・ランバーグは、「Tripwires」(トリップワイヤーズ)という新バンドを作る。「トリップワイヤー」とは、地面に仕込む縄式(ローブやワイヤー)の動物捕獲ないしは軍事用の罠(トラップ)のことで、これには薬物でハイになるの「トリップする」の意味も掛(か)けていると思われる。事実、トリップワイヤーズはサイケな実験的音楽で、もはや前バンドのパワーポップはおろかギターポップからも完全に降りてしまった感があり、ジャケットも妙な植物が繁茂していたり(笑)、激しくカラフルな蛍光色使いの写真で、「元モデル・ロケッツのジョン・ランバーグ、薬物中毒で依存症のジャンキーにでもなっているのか!?」と私は心配になるのだった。
他方、モデル・ロケッツの元メンバー、ボイド・レミラード(Boyd・Remillard)らが新たに作ったバンドがドール・テスト。2ndアルバムの頃からモデル・ロケッツは他のメンバーもメインで歌うヴォーカル2人体制になって、そのうちの1人がドール・テストでも歌っているので前バンドとヴォーカルが同じで、ドール・テストはモデル・ロケッツの延長上にある後継バンドといってよい。
ドール・テストの1st「Mosque・Alarm・Clock」は、モデル・ロケッツの3rd「Tell・the・kids・the・Cops・Are・Here」の音を踏襲して、美しいメロディと分厚いコーラスの良質なパワーポップとなっている。
アルバム「Mosque・Alarm・Clock」も、「これはチャート急上昇でヒット間違いなし!」のような突出した曲はない。ただアルバム全12曲45分ほどで、最初から最後まで聴いてトータルでよくまとまり、よく出来たパワーポップの好盤である。なかでもM10「Amphetamine」は、全4分間の曲中で2分以上、レイドバックするジャングリーなギターソロを長々と執拗に聴かされる曲展開で、まさに曲タイトルの「アンフェタミン」(医療用の向精神薬。合法的薬物だが身近に流通して入手が容易なため、欧米では違法処方の大量摂取で麻薬代わりに常用されて社会的問題となっている)を(おそらくは)服用しトリップした時のような、頭の中が溶けてドロドロになる感覚を味わえるアイデアに優れた曲だ(念のため。私は違法な薬物使用の経験はないので、あくまで想像上の話)。
ドール・テストは1stアルバム「Mosque・Alarm・Clock」(2008年)以前に、ミニアルバム「Gasoline・and・Banks」(2006年)を出している。本ミニアルバムのM1「Gasoline・and・Banks」は、「Rolling・Stones」(ローリング・ストーンズ)の往年の名曲「Jumpin・Jack・Flash」のギターリフと異常に似ており、率直に言って「Jumpin・Jack・Flash」のリフのパクリで、私はこの曲を聴くと毎回爆笑してしまう。ドール・テストのミニアルバム「Gasoline・and・Banks」も、1stアルバム「Mosque・Alarm・Clock」同様、お勧めです。