再び旅行記です。
ハイラインを歩いて終点から出たあとは、14thの駅のほうまで進み、1日目の目玉であった憧れの場所、ビレッジ・バンガードへ行きました。
知らなかったら素通りしてしまうかんじの小規模な店構えだったのですが、改めて写真で見ると堂々たる風格、やはり伝説の場所です。しぶい。超かっこいい。
伝説のジャズクラブ、ビレッジ・バンガード
ニューヨークには歴史あるさまざまなジャズクラブがあって、私も名門であるブルーノートやバードランド、ディジーズ・クラブやイリディウム、スモークなどなど、どこに行こうかかなり迷ったのですが、最終的に選んだのはこのビレッジ・バンガードでした。
私は正直な話ジャズにあまり詳しくないのですが、ビレッジ・バンガードは世界のジャズファンの間で一番有名なクラブであり、あのマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンも出演したことがあるらしい。私が事前に調べた日本語のニューヨークのジャズガイドでは、たぶん「ニューヨーク・ジャズ・ガイド」がいちばん内容が深く、かつ初心者にもわかりやすいのではないかと思うんですが、このサイトで店構えを写真で見たときに、「おう、ここに行こう!」と直感で思ったのです。そういうのって大事ですよね。
ビレッジ・バンガードは21時開始の回と23時開始の回があるんですが、慣れない人はやはり早い時間のほうがいいのではないかと思います(私もそうしました)。でも、終わった後もそれほど治安の悪いかんじがする場所ではなかったし、タクシーもすぐつかまりました。ちなみにウェブ予約が2カ月くらい前からできるので、なるべく予約していったほうがいいんじゃないかと思います。
店内はこんなかんじで、私は早めに行ったので空席が目立ちますが、直前にはほぼ満員になります。
あと、どうでもいい情報を1つ付け加えると、ジャズクラブは「音楽を聴く」だけに特化した場所なのでトイレが汚いという噂を耳にしていたのですが、ビレッジ・バンガードのトイレはすごく綺麗でした。もちろん日本のトイレのクオリティを期待したらダメですが、少なくともミッドタウン5番街のユニクロよりも清潔なトイレでした。
私が行ったのは8月12日の火曜日で、出演アーティストはFabian Almazan。もちろん知らない人だったのですが、7月に予約ページでその名前を覚え、1カ月前からアルバムを聴き込み、Twitterもフォローしました(あまり呟いてくれないけど)。ちなみに、こんなかんじの曲を演奏する方です。
Fabian Almazanの演奏は本当にかっこよくて、すっかりファンになってしまった私は旅行から帰った後もずっと聴いてるんですが、前述したように私はジャズはあまり詳しくありません。だから他のアーティストと比較したり、どこがどうかっこよかったのかを記述することはできないんですが、私が学生時代に先生達から口酸っぱくいわれていたことがあって、それが「一流のモノに触れ、わかるようになれ」ってことなんです。
はっきりいって今の私には、マイルス・デイビスがいかにすごいか、ジョン・コルトレーンがいかに素晴らしいか、そしてFabian Almazanが現在のニューヨークでどんな位置にいるアーティストなのか、よくわかっていません。でも、今はそれでもいいと思ってます。わからなくても、背伸びして「一流」だとされるものに触れるため、名門だ、老舗だ、伝説だといわれている場所に足を運ぶ。「これが一流だ」といわれているものに、よくわからなくても触れて、「こういう世界がある」ということを知っておく。「今」はそれがよくわからなくても、「いつか」それを理解できるようになりたい。映画も、美術も、文学も、音楽も、全部同じだと思います。
このあたりの私の感覚は内田樹氏の『下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)*1』を読むとわかってもらえるのではないかと思うんですが、この本は、「何のために勉強するの?」って聞いてくる子供たちに対して、「いいから黙って勉強しろ」と回答するのがいちばん適切である、みたいなことが書いてあります。一見不親切で横暴な回答なんですが、「勉強をする前」の子供たちは、その枠組みのなかでしかモノを考えられないのだから、勉強する意味なんて説いても理解できないというんですね。でも、「今」価値が理解できないことでも、一通り学んだ後では、より大きな枠組みのなかでモノを考えられるようになる。そのとき初めて、「勉強する意味」も、「これが一流だとされている理由」も、理解できるんです。
だから、「今」面白いと思うモノ、「今」好きだと思うモノだけじゃなくて、よくわからなくても、一流だとされている世界に、理解できない世界に、ムリヤリでも自分を突っ込むのもなかなかいいものだと思います。
狂騒の20年代、ジャズ・エイジ
ビレッジ・バンガードの話からは少し外れるんですが、実は今回の旅行で私は1つテーマを決めていて、それが「ニューヨークという都市に、スコット・フィッツジェラルドが描いた世界が存在するかどうか、確かめてくる」だったんです。
フィッツジェラルドのいちばんの全盛期は、第一次世界大戦が終結したアメリカ合衆国のそれと重なります。彼らが過ごした狂騒の20年代は、「ジャズ・エイジ」と呼ばれ、享楽的な都市文化が花開き、スコットとゼルダのフィッツジェラルド夫妻は、そんな新しい時代を表すシンボルとなりました。
個人的なシュミの話をすると、私は「退廃的」という言葉が大好きでして、「退廃芸術」と聞けば真っ先に飛びつくし、「享楽と退廃の時代、ジャズ・エイジ」なんていわれると、もぅそれだけで酔っちゃうんですね。今回ニューヨークでジャズを聴きに行ったのも、ジャズという音楽に触れることで、フィッツジェラルドが描いた世界に少し近付けるんじゃないかと思ったからなんです。
で、フィッツジェラルド夫妻がバカ騒ぎに明け暮れていた1920年代からは少しずれるんですが、ニューヨークの音楽をちょっと勉強してみたなかで見つけたのが、ジャッキー&ロイ。
村上春樹が『ポートレイト・イン・ジャズ』のなかで、ジャッキー&ロイについてこんなことを書いていて、さらっとした文章なんですが、ニューヨークのジャズというのが、いかに優れていたのかというのがわかります。
(ジャッキー&ロイの)このレコードを聴くたびに、これくらい洗練された技術的に高度な音楽を、汗もかかずにすらすらと日常的に生み出してきたアメリカという土壌(あるいはニューヨークと限定すべきだろうか?)に対して、またその特別な時代に対して、僕はあらためて敬服してしまうことになる。(p322)
- 作者: 和田誠,村上春樹
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汗にじむ努力によって生み出されたものも素晴らしいけれど、日常的に、息を吐くように洗練された何かを生み出してしまうっていうのもすごいと思いませんか。もしもタイムマシーンがあったら、フィッツジェラルドが生きた1920年代のニューヨーク、ジャッキー&ロイやマイルス・デイビスが活躍していた頃のニューヨークにも行ってみたかったな。
そんなかんじで、まだまだまだまだ旅行記は続きます。
*1:この本の書評では、「http://hajimesake.hatenablog.com/entry/2014/08/18/220019」が興味深いのでおすすめ。