今日は日曜なので10時半に起きた。遅い朝食を取ろうと炊飯器を開けようとすると、スイッチが開かない。
私が「おーい、」と言いながら蓋のところを叩くと、炊飯器は伸びをしたように一度体を震わせて、ボコりと蓋を開けた。
「もう昼前なのに寝ぼけてんのかね」
私がそう言いながらしゃもじでご飯をよそっていると、炊飯器は寝起きのだるそうな声をしながら、
「買い主がものぐさだと家電もそうなるんですよ、私はあなたに似たんです。」
と言ったので、少し強めに蓋を閉めた。
「昼にもごはん食べるから、ちゃんと保温しといてよ。昼寝しないでよ。」
そう言い返したが、返事はなかった。
最近、うちの家電たちが私に冷たいのはおそらく気のせいではない。
原因は分かっている。
この前、酔って帰ってきたときに、うっかり一晩じゅう冷蔵庫の扉を半開きにしていたことがあり、中の食べ物を半分駄目にしてしまったことがあるのだ。
翌朝、それに気づいた私は冷蔵庫に謝った。
冷蔵庫はクールにそう言ってくれた。しかしそれからというもの、今度は炊飯器の方が何かと私に厳しく接してくるのである。
私の部屋では冷蔵庫の上に炊飯器を置いてるので、この2器は特に仲が良いのだ。あまり物を言わない冷蔵庫に代わって炊飯器が怒ってるのだろう。当然といえば当然である。
怒っているといえば、私はいま掃除機との間もギクシャクしている。
理由は私が掃除をあまりしないからなので、これもまったく身も蓋もない話なのだが、
この前の日曜日に久しぶりに掃除機をかけようと思ったら、掃除機の上に埃が被っていた。
掃除機の上に埃がかぶるのは、冷蔵庫を半開きにするのと同じくらい罪が重いというのは、想像力が少しでもあれば分かることである。
私が恐る恐る「今から掃除しても良いですか?」と聞くと、掃除機はやはりというか、返事をしなかった。相当怒っているようだった。
私は仕方なく、激怒してるせいか吸引力の恐ろしく落ちた掃除機を使って、いつもの倍ほどの時間かかって掃除を終わらせたのである。
それから2度ほど掃除機を使ったが、私が話しかけても返事もしてくれない状態が続いている。今日も午後に掃除をしたいので、今から憂鬱である。
以上のように、うちの家電は買い主の私に一家言あるやつが多いように思う。直接的な原因は私にあるので、仕方のないことかもしれない。
しかし考えてみると、家電はペットの犬や猫と違って、電気を送ってもらって生きているので、直接買い主の世話になっていない。
そういうところに意識の差というか、飼い主からの自立心の芽生えのようなものがあるのではないか、と思ったりもする。
そう考えると、スマートフォンが家電類の中で私に一番懐いてくれているのは、私が毎日充電してやってるからなのかも知れない、と思った。
犬や猫も、毎日ご飯をやっている人間に一番懐くというし、スマホにとっては私が「毎日電気をくれる人」なのだろう。
それにスマホケースや保護フィルムなども買って、考えてみると他の家電と違って結構過保護に使っている。
そこで、私はふと思った。
もしかして他の家電たちはスマホに「嫉妬」しているのではないか。
同じ家電なのに、スマホはケースやフィルムを買ってもらい大事にされ、しかも肌身離さず持ち歩いている。
その一方で他の家電たちは、日中は買い主の私と会えないくせに、部屋に帰ってきたら帰ってきたで、扉を半開きにされるわ埃を被らされるわ、考えてみるとひどい扱いようである。なぜ今まで気がつかなかったのだろうか。
家電の機嫌を取るのは難しいが、毎日親身に接すれば仲良くなるのは、生き物も家電も同じである。そうではないだろうか。
掃除機を雑巾で丁寧に拭く、冷蔵庫の霜取りをする、炊飯器の内蓋を外して綺麗に洗う。これらを行うだけでだいぶ違うはずなのだ。
私がそう思って炊飯器に近づいていくと、炊飯器は保温ボタンを点灯させ、小さく「ぐーぐー」と音を出していた。きっと昼寝をしているのだろう。
筒井康隆っぽい