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連載:今週の「ざっくり知っておきたいIT業界データ」 第173回

IT市場トレンドやユーザー動向を「3行まとめ」で理解する 〔AI関連調査レポート特集〕

生成AI活用と失敗事例/AI投資の「ROI」に注目/IT担当者が恐れる脅威も「AIによる攻撃」がトップ、ほか

2025年03月03日 08時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 本連載「ざっくり知っておきたいIT業界データ」では、過去1週間に調査会社などから発表されたIT市場予測やユーザー動向などのデータを、それぞれ3行にまとめてお伝えします。

 今回は特別編の“AI特集”として、2025年2月に発表されたAI/生成AI関連の調査レポート5つを取り上げ、生成AIの業務活用の実態、企業のAI投資トレンド、AIに対するCEOの懸念、セキュリティ対策へのAI適用などのデータをご紹介します。

[生成AI][仕事] 生成AIの業務活用はまだ限定的、「やらかし」事例も多数発生?(2月19日、AI Market)
・生成AIの業務活用率は4分の1以下、まだ限定的
・一方、生成AI導入済み企業の約8割は「業務効率化を実感」
・AIエージェントに任せたい業務は「議事録」や「データ分析」「レポート」

 ビジネスパーソンを対象に、生成AIの活用状況、AIエージェントへの期待などについて調べた。「生成AIを業務利用している」という回答は23.2%と、利用はまだ限定的。ただし、企業規模により導入率に違いがあるという。業務時間の削減効果は「月に5~10時間」が最多(19%)。業務効率化の効果は認められる一方で「やらかし(失敗)」も起きており、「間違った情報を堂々と提出した」(22.4%)、「やる気がなくなった」(29.3%)などが挙がっている。

 ⇒ やれ生成AIだ、AIエージェントだと騒がしい毎日ですが、業務現場での利用はまだまだこれからということでしょうか。「AIデバイド」という言葉が聞かれますが、これから企業規模だけでなく、業務内容、世代などで、AIの利用度合いがどう違ってくるのかも気になります。

「生成AIを会社で導入している」割合は23.2%にとどまる(出典:AI Market)

導入による月あたりの業務時間の削減効果。全体では78%が業務効率化を実感している(出典:AI Market)

生成AIを使った失敗談として最多だったのは「クリエイティブな仕事が楽になりすぎて、逆にやる気がなくなった」(出典:AI Market)

[生成AI] エンタープライズの約9割が生成AI投資を強化予定、一方で「ROIのプレッシャー」も(Dataiku Japan、2月19日)
・88%のエンタープライズが2025年に生成AIへの投資を増額予定
・複数のLLMを利用する「ハイブリッドアプローチ」の企業が73%
・生成AI投資に対する「ROI(投資対効果)定量化」の圧力を感じる担当者は85%

 大規模企業(年商10億ドル以上)のデータ/アナリティクス/IT部門のリーダー、および経営幹部を対象に調査した「2025年の生成AIトレンドTOP5」より。現在見られるトレンドとして、「生成AIのコモディティ化」「ROIの定量化へのプレッシャー」「LLMの散らかり状態(LLMメス)」「ガバナンスを優先項目に」「従業員のスキル向上」の5つを挙げている。過去12カ月間で生成AIに「100万ドル以上を投資」した組織は66%に上り、さらに2025年は88%が生成AI投資を増額させる計画だという。

 ⇒ AIエージェントが登場し、AI投資もさらに加速する一方で、そろそろ具体的なROI(投資対効果)を示さなければならないというプレッシャーが生まれているようです。AI投資における「ROIの定量化(数値化)」は、これから大きなキーワードになるでしょう。

生成AIのROI定量化の際に直面する課題(出典:Dataiku

[AI] AIに対して「野心」と同時に多くの「懸念」を持つCEO(2月19日、シスコシステムズ)
・グローバル企業のCEOのほぼ全員(97%)が「AI導入を計画」
・ただし「十分な体制が整っている」と考えるCEOは1割にも満たず(7%)
・CEO自身も、知識不足で意思決定が遅れ(74%)、成長を阻害する(58%)ことを懸念

 グローバル企業(従業員250人以上)のCEOに対する調査より。5人中4人がAIの可能性を認識し、97%がAI導入を計画しているにもかかわらず、同時にCEO自身の「理解不足」や、組織の「スキル不足」「ITインフラのギャップ」「セキュリティリスク」など、多くの懸念も抱えていることがわかった。

 ⇒ 最高位の意志決定者であるCEOは、たくさんの懸念を抱えつつも「AIに乗り気」のようです。懸念を解消するための投資強化を計画するCEOも多く見られます。

CEOが考えるAI導入の障壁。「障壁はない」は10%にとどまり、「スキル/ナレッジの欠如」「インフラの限界」「セキュリティの懸念」「予算の制約」などが上位(出典:シスコシステムズ)

懸念点を解消するための計画。「AI教育の改善」「データキャパシティの拡大」「ネットワークのアップグレード」などが上位(出典:シスコシステムズ)

[生成AI][セキュリティ] セキュリティ担当者が生成AIに期待するのは「攻撃検知や対応力向上」(クラウドストライク、2月19日)
・約3分の2の回答者が、生成AIツールを導入済みか、それに近い段階
・生成AIツールを検討する主な動機は「攻撃検知や対応力向上」が大半
・76%が汎用的な生成AIではなく“セキュリティ専門”のツールを求める

 サイバーセキュリティ対策への生成AI適用について、世界のセキュリティ/IT専門家に行った調査より。セキュリティ対策のための生成AIツールを「導入済み」はまだ6%だが、「調達中」「評価中」「積極的な調査中」段階までを含めると64%となり、回答者の69%は「今後12カ月以内に導入する意向」。また、生成AIは人間の専門知識やスキルを代替するものではなく、「セキュリティアナリストの生産性向上や負担軽減のための支援ツール」と位置付けられていることもわかった。

 ⇒ 1年以内の導入意向が約7割と、非常に高い数字に。攻撃者側が生成AIを悪用して攻撃の自動化や効率化を進めるなかで、防御側でも“AI武装”は待ったなし、というところでしょうか。

生成AIツールの導入/検討状況(出典:クラウドストライク

[AI][セキュリティ] 日本企業でも「AIによる攻撃」リスクへの警戒が高まる(エイチシーエル・ジャパン、2月19日)
・セキュリティ担当者が最も高リスクと考えるサイバー攻撃は「AIによる攻撃」
・「APIによるデータ漏洩」や「ランサムウェア」よりも高リスクと考える
・経産省「サイバー攻撃対応力格付け制度」については約6割が「準備を進めている」

 日本企業(従業員1000人以上)のセキュリティ担当者180人を対象とした調査より。自社組織において、最もセキュリティリスクが高いと思うサイバー攻撃について、「AIによる攻撃」(21.1%)がトップの回答に。「APIによるデータ漏洩」(20.6%)や「ランサムウェア」(19.4%)、「組織内部者による脅威」(17.2%)を上回った。

 ⇒ 過去何年にもわたって猛威をふるい、警戒されてきたランサムウェア攻撃よりも、AIによる攻撃のリスクが重要視され始めているのは興味深い変化です。

セキュリティ担当者が最も高リスクと考えるセキュリティ脅威は「AIによる攻撃」(出典:エイチシーエル・ジャパン)

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