inmymemoryさんの記事(私家版・十大フランス文学、……)に便乗して。といっても屋上屋を架すのは本意ではないので、ここはぐっと規模を縮小して散文詩に話を限定する。 フランスの散文詩はベルトランの「夜のガスパール」とともに始まった、というのが文学史の定説のようだ。しかしこれ以前に散文詩がまったくなかったわけではないだろう。一巻にまとめられなくても、雑誌などに発表されたまま埋もれてしまった作品も少なくないと思われる。そういうものを掘り起こすのには考古学的なおもしろさがあるが、それは専門の人にまかせておくとして、とりあえずは「夜のガスパール」を第一番にもってこよう。 この詩集はなんともいえず硬い。硬質の、といってもいい。この硬さは銅版画の質感に相当する。じっさいこの作品くらい挿絵が似つかわしい詩集もない。ここに描き出されているのはいにしえのリヨンであり、パリである。作者はおそらく古い銅版画