戦争は人類最大の狂気だ、とよく言われる。一体、その場合の狂気とは何だろうか。まさか戦争突入のきっかけを作った軍人や政治家が揃って精神病だったわけでもあるまい。 俗耳に入り易い言葉は物事の本質を覆い隠す。「戦争=あってはならないこと」だから、考えなくていい、という思考が導かれるだけだ。そうではなくて、「ありえること」として、狂気の中身をちゃんと見ておくべきではないか。そんな問題意識から、戦争を引き起こし、遂行する狂気の解明を目指したのが本書、著者いうところの〈戦争に至る精神病理学〉である。 著者は日本における精神科緊急医療の第一人者。自殺や自傷の恐れがある、他人への暴力行為が止まないといった、寸刻を争う処置が必要な重度の精神病者専門の精神科医だ。父親が旧軍人、戦後は陸上自衛隊の幹部だったことで、軍事と現代史に興味を持ち、門外漢という立場でありながら本書を書き上げた。 「戦争を引き起こす脳」は